触れたいのに届かなくて

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49話 ずっと待っていたのに

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49話 ずっと待っていたのに
 私は目を閉じて力を抜く。女性もずいぶん力持ちだ。私の首根っこを掴むなんて……。普通……じゃない。恐竜を復活させるくらい、だもの……。
 女性は興奮して我を失っている。混乱状態だ。降伏しても殺されるかもしれない。生き残るなら、反撃するしかない。私は限界だから、フィディリスが……。
「……このままでいいわけがない」
 フィディリスはそう呟いて俯く。自分の投げ捨てた武器。少し軽率だったのではないだろうか? 本当にこれが最善の選択だった? ……わからない。時間を戻すことは不可能だし、密かに未来の記憶を見ることはできない。不可思議。この世界は非可逆的だ。
「決めた!? もう! 殺すよ!」
 女性の興奮と怒りは頂点に達し、今にも私を殺そうとしている。荒い息遣いと、血の臭い。ぐちゃぐちゃに混ざって、異様な空気を作る。喉を打ち抜けばさすがに死ぬ。ようやく、完全な死を迎えられる。
 方法はある。ゼロではない。あと一歩踏み出すだけ……。
 フィディリスは決心を固め、ゆっくりと瞬きする。サングラスを取ってフードを脱ぎ、女性に近づいていった。今のところ、武器を出す様子はない。ただ歩いているだけ。女性は警戒心を強め、さらに私の髪を引っ張り、喉が詰まって息ができない。ぶちぶちと抜ける音がして、はらりと毛が落ちる。フィディリスは顔を作る。眉、目、鼻、口の動きを真似る。声をインプットする。透明な言葉を噛む。
「……ミネルヴァ」
「!? 」
 フィディリスのものではない、少しだけ高い声。女性は驚き固まって、思わず力を抜いてしまった。瓦礫の上にぼとりと落とされる私と銃、そして6のカード。女性が恐れおののき後退していくけど、フィディリスは確実に距離を縮めていく。
「ずっと……待っていたのに」
 甘ったるい声になったかと思うと、背からサバイバルナイフを取り出して狙いを定める。首だ。首をめがけてナイフを走らせた。大量の血を浴びて一歩後ろに下がる。
「……あーああー!」
 女性は地面に倒れて息をするのに苦しむ。悶絶。苦しいうめき声を上げて歯を食いしばる。確実に致命傷を与えた。あれほど深い傷ならば、すぐに息絶えるだろう。フィディリスはゆっくり瞬きをして、本来のフィディリス・シュヴァリエに戻る。そして、念の為、頭を数発撃ち、完全に息絶えたことを確認してから、私に駆け寄った。瓦礫の上に座り、私を抱いて髪を撫でる。
「……終わったよ。怪我は……。血を止めるくらいしかできないけど」
 フィディリスはポシェットからティッシュを取り、私の腫れぼったい頬から出た血を拭う。腕、肘、膝も確認して、可能な限り拭き取った。口を開け、喉を見る。瓦礫に潰されて、骨が折れたかもしれない。見えない痛みに蝕まれているかも。
「病院に行こう……。なんか、久しぶりに疲れた……」
 フィディリスの力が抜け、頭が下がる。目覚める兆しはなく、しばらく夢の世界へと旅立っていた。
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