逆ハーレムエンド万歳な乙女ゲームの悪役王女に転生したヤンキーで修理工なオレは攻略対象者に真実の愛を見つけて欲しいと願う

特急マトカ

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機人族とマザー

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「…1番はどろっとしたダマになるな。2番は…んー、微妙。改良の余地ありって感じ。3番は…」


 どうもみなさま、こんばんはこんにちはおはようございます。

 ヴェール王国第一王女にして、乙女ゲーム『ルージュ・ヴェール~五つの王国と絆の王女~』の悪役、アイリーン・シュトラ・ヴェールこと坂巻明彦でございます。


 ゼロセブンとの対面から二週間。

 白熱したバイク議論の末、熱い絆で結ばれたオレたちは世界の平和を担う絆の乙女とその伴侶としてこの世界の覇権を握りました!ルージュ・ヴェール~五つの王国と絆の王女~ゼロセブンルート完。先生の次回作をお楽しみに!…なんてことにはもちろんなっていない。

 なってはいないが、何も起こらず平穏な日々が戻ってきたかと言えば、それもNOだ。

 というのも、なんとゼロセブンが城に居着いてしまったのだ。

 そもそもこの城、というかオレが住んでいる城の一角は次代の絆の乙女とその伴侶のための後宮(後宮と聞いたときは思わず興奮したけど入るのがイケメンたちって思い出してテンションが地下三十階より沈んだ)となっており、ゼロセブンはそのことを知るやいなや『なら、オレはここに住んでいいんだよね?』とガッチャガチャとした機材やらなにやらを運び込んであっさり後宮の一室に住み着いたのだ。

 しかもこの後宮、オレの部屋とイケメンたちの部屋が直接繋がっており、ゼロセブンは遠慮もクソもなく気が向くままにオレの部屋にやってくる。…ちったあ、遠慮しろ。お年頃だぞ、この体は!とふんぞり返ってみるものの、ゼロセブンとオディットに揃って鼻で笑われると『オレがおかしいのかな?』とか思ってしまう。…もしかして本当におかしいのはオレなのか?


 なんてことを考えつつ、オレは言われた通りに『5番』と書かれたトイレットペーパーをちぎっては水の入ったビーカーにいれて溶かしていきその結果を紙に書く。そう…トイレットペーパーなのだ!

 バイク議論からすぐゼロセブンが後宮に越してきて、なんとオレの毎日は実験三昧になった。バイクや冷蔵庫などはもちろんすぐには開発は難しい。けれど、すぐに開発できるものもあるということで、あれからゼロセブンは精力的に商品開発をし続け、オレは押しつけられた実験を言われるがままにこなす日々が続いていた。その一つがこのトイレットペーパー。水洗トイレの設置で思わずテンションの上がったオレは『トイレットペーパーも欲しいな…』と思わず呟いてしまい、それはなんだなんだと聞かれるがままに答えた結果がこれである。

 木を…砕いて…?紙にして…?なんか水に溶けやすく…?なんてオレの曖昧な説明でここまで作ってくれるのだから、ゼロセブンはやっぱりすごいやつである。

 オレは手に持った『7番』と書かれたトイレットペーパーのつい頬ずりすると、ゼロセブンから早く実験をしろ…と圧の籠もった視線を頂いた。…畜生、少しくらいいいだろ、ここオレの部屋だぞ。

 オレはじと目を向けながら、人の部屋で大きな図面を広げているゼロセブンの元へ向かう。


「ほら、実験結果。2番改良の余地あり。5番も同じく。結果が一番優れていたのは7番」

「ありがとう。…7番か…。一番材料費高いんだよな」

「そんなもんだろ。まぁでも、2番と5番も使えないことはないって感じだったから、どうしても金が嵩むならそっちを改良したらどうだ」

「でも、溶けが悪いと詰まりやすくなるんだろ?」

「まぁ、そうだけど、これくらい溶けりゃそんな頻繁なものになることもないだろうし…スッポンさえありゃ、誰でも直せるし大丈夫じゃないか?あんまり酷い詰まりになったら、直して修理代もらえばさらに金がもらえるし」

「…最初から不良品売りつけてその修理用の工具と、さらに修理代まで要求するなんてキミはどんな悪人だい?」


 向こうの世界を思い出しながら、そう言えば呆れたようなゼロセブンの視線が刺さる。

 うるせえ!完璧な商品なんてものは存在しないんだよ!なら、それに対する安心を売るのが一番良心的だろうが!

 …と思ったが、機人族は自らが生み出す商品にプライドを持っている種族なので、最初からわかってる問題に目を瞑ることは難しいのだろう。オレは『なら好きにしろ』と言って、ゼロセブンの前に座りそこにあった紅茶を飲んだ。


「それ、オレの飲みかけの紅茶…」

「お、悪い、貰った」

「…まあ、いいけどさ」


 なんだよ、紅茶くらいでけちくさいな。

 なにやら顔を覆って溜息を吐くゼロセブン。そこにオディットの声が続く。


「アイリーン様に年頃の少年に対するデリカシーはありませんよ」

「…知ってるよ」

「なんだよ、なんか問題でもあるのか」


 まさか間接キスがどうのこうの言うような年齢でもあるまい…し…? 

 オレは手に持ったカップで紅茶を飲みながら考える。…まさかな?

 オレは横目でゼロセブンを見つつ、ここらへんについては考えると藪から蛇を出してついでにその蛇が致死性の毒を持ってそうだから…と、思考を放棄した。


「それにしてもこの"たいぷらいたー"はいいですね。わざわざ清書屋に持って行かなくても綺麗に文字が打てますし、同じ書類を複数簡単に作れる」


 カタカタカタ、チーン、とさっきからそう音を鳴らしていたオディットが思わずといった風に感嘆の溜息を吐きながら言った。そう、オディットくんの手元にあるのは手動式タイプライターである。電動式タイプライターの前身としてまずゼロセブンが手掛けた逸品だ。

 最初に使ってみたときにはハンマーを絡ませていたオディットくんだが、すぐにその仕組みになれて今ではカタカタカタ、と軽快に文字を打ち込んでいる。

 それにしてもオレがこんな風の、こんなやつ、と言えばゼロセブンは割と簡単に形にしてみてくれる。つまり物作りの基盤となる力が機人族に元々あったということだが、それでもこういったものが生み出せていなかったのは何故なのか。なんだかゲーム世界の不条理を感じる今日この頃だ。

 リミットが決められているような、というべきか。もとより作られた世界なのだから当たり前だが、これはあってこれはない、という見えない何かにあるべきものが決められているようなそんな薄気味悪さを感じる。


「…オレが絆の乙女じゃなくなって、外で暮らしてもこんなことがあるのかねー…」


 オレはぽつりと呟く。

 ヒロインが出てくればオレはお役御免。

 水洗トイレが普及し始めたことだし、また修理工になって街で暮らすのもいい。本当はファンタジーな世界らしく冒険者なんてものにも憧れるがこの非力な体では無理だろう。

 でも、殺されずに生きられれば文句なんてない。絆の乙女なんて地位に興味はない。


「…姫様なに言ってるの?次代の絆の乙女候補は姫様だけでしょ」


 オレの小さな呟きを耳聡く聞きつけたゼロセブンが少し驚いたようにそう言った。


「あ-、いや、ほら、王家も色々あるだろ?もしかしたら、オレより絆の乙女に向いた王家の落胤…なんてのがいるかもしれないし、そうしたらオレはお役御免だろ?そうなったらオレは街で修理工なんてしながら生きるのもいいなぁ…なんてな」


 誤魔化すように言うオレに、ゼロセブンは探るような視線を向けてくる。しかし何も言う気のないオレに、ゼロセブンは深い溜息を吐いた。


「王家の落胤か。…まぁ、そうしたらオレもマザーに次のゼロセブンでも作って貰おうかな。今のところ姫様以外に婿入りする気はないし。王家の落胤がいたとして、姫様以上に面白そうなこと教えてくれそうもないしね」

「なっ…、にを言って…というか、次の?」


 さらっと出てきた殺し文句に思わず顔が赤くなりそうになるが、それよりも気になる言葉が出てきた。

 マザー?次のゼロセブン?

 オレが思わず不安そうにそう聞くと、ゼロセブンはおかしそうに笑って教えてくれた。


「機人族の長と一部の機人族は、マザーというオレたち機人族の母体によって生み出されてるんだ。生み出される…というか作られるというべきかな。…実は今回の見合いだけど、もしオレと姫様の相性が良くなさそうだったら"ゼロセブン"を作り直そうっていう案も出ててね。まぁ、オレも大人しくスクラップになる気はないから、そうなったらどうにかして逃げる気だったけど」

「なんだそれは!そんな、お前…物みたいに…!」


 さらりとそんな残酷なことをいうゼロセブンにオレは思わず声を荒げた。

 しかし、ゼロセブンは冷めた目をして「物だよ」と続ける。


「マザーに作られた機人族に自由なんてない。オレたちはマザーの所有物だ。…それでも好きな物を作ってるときだけは、オレの魂が自由になっているのを感じるんだ。だから、何かを生み出すことはやめられない。姫様にいろいろなアイデアを聞いてたくさんの物を生み出している今、ものすごく楽しいんだ。…作られてから初めてだよ、こんな感情を持つのはね」

「ゼロセブン…」


 オレは何も言えずにただ名前を呼ぶと、ゼロセブンは大きく体を伸ばして、窓から城下を眺めた。


「だから、もし姫様が絆の乙女にならずに市井で暮らすというならオレもそうするよ。物作りと金儲けならそこそこ得意なつもりだからね。お買い得だよ、オレは」


 ゼロセブンはそう言った後に「まぁ、姫様が絆の乙女じゃなくなることなんてないと思うけどね」と笑った。


 オレはそれに曖昧に笑って返しつつ、一つある可能性を考える。

 もしかして、あのゲームの中の"ゼロセブン"は今目の前にいるゼロセブンではなかったのではないか、ということ。ゲームの中のゼロセブンはこんな風に笑うことも、ズカズカと無遠慮に人の部屋に入ってくるようなこともしない、大人しく従順な雰囲気の男だった。

 そうするともう一つ、恐ろしい可能性が出てくる。

 ヒロインが絆の乙女となったとき、オレとの相性が良くても、ヒロインとの相性がよくなければ今のゼロセブンはどうなる?もしかすると、今のゼロセブンの言葉通りスクラップにされて新しいゼロセブンを…。


 オレは窓から城下を見下ろし、心に決める。


 嫌だ。そんな未来は絶対に起こさない。 

 オレは絆の乙女になる気はない。けれど、それでも、オディットや今のゼロセブンを見捨てて呑気に生きるなんてそんなことしたくない。

 オレが生き残り、オディットや今のゼロセブンが幸せになるにはどうすればいい。


 考えろ、考え続けるんだ。



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