逆ハーレムエンド万歳な乙女ゲームの悪役王女に転生したヤンキーで修理工なオレは攻略対象者に真実の愛を見つけて欲しいと願う

特急マトカ

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白熱バイク議論

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 その議論は白熱していた。

 ぶつかる意見、散らばる羊皮紙、胸に宿すは男の浪漫。

 オレとオディット、それからゼロセブンはとある一つの物について議論を重ねているのだった。





 …というのも、話は応接間にオディットとゼロセブンを伴って戻ったときから始まる。




 重曹と酢をぶち込んで泡立ったトイレを小一時間放置して水を流すとあら不思議、詰まりなどなかったかのように軽快に流れる水洗トイレにオレは満足して立ち去ろうとした。しかしそうは問屋が許さず、ゼロセブンと共に応接間に戻ることになった。

 まぁここまではいい。

 そもそもゼロセブンを迎えに行くという名目で水洗トイレのところへ言ったのだから。

 しかし、応接間について早々水洗トイレの詰まり解消についての知識の出所やら諸々を興味と好奇心に目を輝かせるゼロセブンに矢継ぎ早に聞かれたのだ。

 『どうして水洗トイレの直し方を知っていた?』『そもそも水洗トイレのようなものができることを知っていたのか?』『"すっぽん"とやらは本当に姫様が考えたのか?』『他にも何か考えているものがあるのか?』エトセトラ…。

 オレはどこまで答えていいものか迷った。

 シナリオをどこまで変えていいかも不安であったし、そもそも向こうの世界の知識をこちらに持ち込んでも問題ないのかわからなかったからだ。

 パニックになったオレはタイム!と叫び、オディットくんの首根っこを掴み、作戦会議としゃれ込んだ。


「というわけで、オディットくん。どこまでゼロセブンに話していいと思う?」

「あなたが別の世界から転生したことや、ここがげーむの世界であることは言う必要はないでしょう。他の、例えばあなたが持っている向こうの世界の知識については隠す必要もないと思われます。暇な時間に考えていたアイデアか妄想とでも言って、適当に話してしまってください」

「妄想って」


 あんまりな言い方にオレは思わず突っ込むと、オディットくんの綺麗な眉がきゅっと寄った。


「現状そう言うしかないでしょう。それよりもゼロセブン様の"個別ルート"でもアイリーン様が死ぬというのなら、ゼロセブン様と良好な関係を維持しつつ"しなりお"から離れた行動を取るべきかと」

「…でも、あんまりゲームシナリオから離れたことしたらゲームの強制力とかが働いて手痛いしっぺ返しとかきそうじゃない?」

「アイリーン様の生存についてはげーむのしなりお通りに進む方が問題なのですから、その問題について今は考えるべきではないかと。現状、私は私の"しなりお"から随分遠くにおりますが、何も問題は起こっていません」

「お前が向こうの世界の知識をダウンロードされたことについては問題じゃないのか?」


 現状起こってしまっている一番の問題についてそう問えば、オディットは言葉に詰まり、誤魔化すように咳払いをした。

 …こいつ、なんかやたらとゲームシナリオから離れたがるな。

 まさかオディットに限ってオレを害そうしているわけじゃないだろうが、その強情な態度は少しオディットらしくない気がした。


「…それについては一旦保留とします。今、できる対策としてはゼロセブン様を満足させつつ、しなりおから離れた行動を取ることです。向こうの世界の知識について、私はアイリーン様からそのものの名称等を知ることができれば知識が"だうんろーど"されるようですので、上手くご活用ください」

「なんだそれ。どんなチートだよ」


 お前は歩く人間ウィキペディアか。

 オレは思わず呆れた声でそう突っ込むが、しかしオディットの顔色は喜色に染まっていなかった。喜びや、誇らしさ、そんなものよりも…。何かをなくした迷子がただ一つ親からもらった地図を握りしめているような、そんな何かに縋り付くような切迫感がそこにはあった。


「…アイリーン様がいなければ何もできない力です。ですからどうか私を捨てず、上手くご活用くださいね」

「捨っ、…捨てるわけないだろ」


 祈るような響きのあるオディットのその言葉にオレは思わず言葉を荒げようとしたが、オディットの穏やかな、けれど何かを諦めたようなその表情にただ小さくそう返すことしか出来なかった。


「ありがとうございます。私はアイリーン様のその言葉が何よりも嬉しいのです」

「…おう」


 少し様子のおかしいオディットが気になったが、今ここでそこまで突っ込んだことは聞けない。オレはすっきりしない気持ちを抱えつつ応接間のゼロセブンの元へ戻るのだった。









 そんなこんなでゼロセブンの元へ戻ってから、オレは考えつくままに向こうの世界の便利家電について話した。掃除機、洗濯機、クーラー、ガスコンロ、魔法瓶、電卓、給湯器、電気照明、カメラ、蓄音機、テレビ、ライター、ドローン、どこでもドア、タケコプター、物がたくさん入る鞄、ポーション薬。最終的にアニメの道具やゲームの道具まで言ってみたが、こっちの世界にないものは全て同じ"未知のアイテム"だ。ゼロセブンからの反応はそう変わりなく、どれも好奇心に満ちた様子で受け入れられた。

 ゼロセブンはオレが名称を言ってオディットが詳細を書いたそれらを『採用』『保留』『不採用』に分けながら、ほくほくとした顔であれこれと実現性と収益性について語って聞かせてくれた。

 すぐにこれらの機械を実現させることはできないが、機人族のテクノロジーで可能な限り再現してみせる。またアイデア料として、もしこれらの機械が市場に乗ったらその売り上げの何割かをオレにくれるだとか。

 これについては微塵も考えていなかったから、かなり嬉しかった。思いがけないお小遣いゲットの予感だ。


 話しながら思ったことは、ゲームの中ではただの便利キャラだと思っていたゼロセブンだが、思ったよりも我が強いということだ。オレが絶対欲しい!と思ったタケコプターなんかは笑顔でにべもなく不採用ボックス行きだった。何故だ。浪漫だろ、タケコプターで空を飛ぶことは。

 ただその様子に安心したのも事実だ。これだけはっきりとした自我があり、意思がある。彼は少なくともオレのいいなりになんてならない。そのことが何よりも嬉しかった。



 そして冒頭に戻る。

 そんな話を続ける中で、オレが最も力を入れてプレゼンしたもの。というか唯一力を入れて話したのが、そう、バイクだ。

 走って良し、改造して良し、鳴らして良し…。オレは向こうの世界に置き去りにしてしまった愛機を思い出しつつ、熱心にバイクについて語って聞かせた。

 …というのに、ゼロセブンとオディットの反応はイマイチだったのだ。


「だから!浪漫なんだってバイクはさ!きゅっと高く上げたハンドル、急スピードを出してもものともしない三段シート、直管マフラーから響き渡る爆音、六連ホーンから鳴り響くゴッドファーザー!」


 オレは無理を言ってオディットくんに描いてもらった改造バイク…。所謂"族車"の描かれた羊皮紙を持ってそう熱弁する。いや、オレは別に"ヤンキー"とか"暴走族"なんてものじゃないけどね、ほら、友だちが多かったのさ、そういう類いの。オレは正義の水漏れ修理工。ちょっとバイクが好きで、喧嘩が好きなだけの平和を愛する平凡な男である。…本当だよ?


「個人の移動用としてこの"ばいく"はいいと思うけど、その無駄に上げたハンドルなんている?この三段シートも安定性に欠けるし、この六連ホーンなんてなんの必要があるんだい?」


 "族車"の魅力について熱弁するオレに、ゼロセブンの冷めた視線が刺さる。


「ハンドルはこうじゃないとサツに追われたときに車の間をすり抜けられないだろ!」

「"さつ"?」

「あ、いやあ…ほら、あれだよ。浪漫なんだよ、高いハンドル」


 しどろもどろになりつつ族車の魅力をアピールしていると横からにゅっと形の良い指がオレの持つ羊皮紙を指差す。いつの間にかバイク議論に加わっていたオディットくんだ。


「そもそもこの爆音が鳴るという直管マフラーですが、そんな音を鳴らしていたら住民から苦情が入るのでは?ここはやはり私が考案したこのスポーティ且つエレガントな"ばいく"が一番デザイン性に優れているかと」

「それもいいけど、オレが考えた"ばいく"も見てくれよ。機人族が作ったと一目でわかる優美なデザインと機能性の両立。やはり、ここはオレが考えたものが…」


 やいのやいの言いながら、そう議論を続ける二人の手元にも何枚かの羊皮紙があった。

 オディットが持つ羊皮紙には、向こうの世界のバイクを近未来風に改造したスポーティでエレガントなバイクが描かれている。なんというか二三〇〇年とかが舞台のアニメや映画に出てきそうな感じだ。極力無駄を削り、その機能性に重きを置くデザイン。ダウンロードされたバイクの知識にさらに自分の趣向を加えて絵に表せるとか…オディットくん多才だな。

 そしてゼロセブンが持つ羊皮紙に描かれているものももちろんバイクだ。オレが説明して、オディットが描いた基本のバイクを元に、独自の趣向を凝らして見事に新たなデザインのバイクを誕生させていた。スチームパンクな機人族らしいデザインだ。剥き出しの歯車に、ビスとナットが優美に描くライン、剥き出しのエンジンを守る無骨な銅板…なるほど確かに格好いい。

 否、しかししかし、バイクに関してはこちらとしても譲れぬこだわりがあるのだ。


「もしバイクが完成して市場に流通することになったら、オレは絶対に自分で改造するからな!基本の形はなんでも…なんでも…はよくないけど…我慢するから…!お前たちは完成した族車を乗りこなすオレの格好良さにひれ伏すことになるんだからな!」


 バイク議論を始めてあっという間に打ち解けたゼロセブンとオディットはオレのそんな涙ながらの主張を揃って鼻で笑って、不採用ボックスにオレの族車が描かれた羊皮紙を入れた。

 畜生!絶対に改造して格好良いバイク作ってやるんだからな!


 涙目になるオレを余所にさらにバイク論は白熱していく。

 当初の"絆の乙女とその伴侶の見合い"なんて目的は忘れ去られ、オレたちは夜が明けるまで向こうの世界の道具について語ることになった。

 ゼロセブンと友好を深めるという目的は果たせたが、果たしてこれで良かったのかと、そう冷静になれたのは羊皮紙の散らばる床の上で目覚めたあとだった。


 …ちなみにスッポンだが三日後には試作品が城に持ち込まれ、活用されることとなったのであった。



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