風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実

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モブは授業をサボりません

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新しく俺の胃痛案件が発生したが、とにかくまずは腕に抱えている書類の山を運ぶことにした。
転校生のことは後で考えればいい。
現実逃避くらいさせてくれ……。


(あー、くっそ重いなこれ。これ風紀室に運んで、教室に戻って……って、え?授業間に合わなくね?)


風紀室があるのは、ここ教室棟から正反対の方向にある特別棟だ。
特別棟には各委員会の会室と生徒会室しかなく、一部の生徒しか出入りしないため敷地の外れにひっそりと建っている。
まあ、ひっそりと言っても内装はさすがの豪華さだが。


(委員会とか生徒会のためだけに1棟建てるって……やっぱ頭おかしいわ。金持ちすぎて。あーあ、もう完全に遅刻だし、このままサボっちゃおうかなぁ)


この学園は規模がバカでかい上に、生徒がほぼ全権を握っているので、何らかの役職についている人は忙しすぎて授業を受ける暇もない。
そのため、『役職持ち』に限り授業を免除してもらえる特権があるのだ。

学生として本末転倒な気がするが、『役職持ち』は名家の子息の中でもさらに選ばれしエリート様。
高校生の授業のレベルなんて低すぎて、むしろ今のうちに経営者として仕事の経験を積ませたい、という親も多いらしい。何それエリートすぎん?


(いや、でも、やめとこう。授業をサボったら、自ら『役職持ち』だと認めるようなものだし)


この学園で『役職持ち』とされているのは、各委員会の委員長と、それから生徒会の役員だけだ。
その風習に従えば、俺は一般生徒ということになる。
しかし、この風習には一つだけ例外があって、なんと風紀委員会だけは、副委員長も『役職持ち』にカウントされる場合があるのだ。


なんで風紀委員会だけ特別なのか。
実は、風紀委員会は五つある委員会の一つでありながら、学園のトップである生徒会に次ぐ、いや、生徒会に並ぶほどの権力を持つ。……たぶん。


(生徒会と風紀委員会のパワーバランスはその時々で変わるから、いまいちハッキリしないんだよなー。今は大体互角って話だけど、それもいつ崩れるかわかんないし)


そんなわけで、風紀委員会の立ち位置はめちゃくちゃ微妙だ。
調子に乗っていいのかダメなのか、常に情勢を見て判断しなければならない。
そして、そんな中でもひときわ慎重な判断を必要とされるのが、『役職持ち』を名乗っていいかどうかの判断を強いられる、風紀委員会の副委員長なのだ。

つまり、俺だ。


(もー無理無理しんどい胃が痛い!凡人の俺にそんな難易度高いことできるわけないだろ……)


そろそろ教室棟を離れて人通りの少ないところにやって来たので、周りの目を気にせずにため息をつく。
本当に、二年になってから毎日ストレス過多で胃が痛い。


(風紀と生徒会の力が互角っていっても、所詮俺は外部生だからな……。ガリ勉だけが取り柄の凡人が調子に乗ったら、反感買ってすぐに潰されるわ。ていうかそもそも、絶対『役職持ち』にはなりたくねえ!!)


なぜ、俺が『役職持ち』になりたくないのか。
授業サボり放題という学生なら誰もが羨むその特権を、補って余りあるデメリットが『役職持ち』にはあるのだ。

仕事が多い?
それは別に今でも限界突破してるから変わらない。
義務とか責任とかではなくて、『役職持ち』が背負う運命────。


(『役職持ち』はモテるんだ…………男にな!!!!!!)


それは大多数の生徒にとっては喜ばしいことであり、俺にとっては絶望の運命である。
ただでさえ外部生だから目立ってしまって狙われているのだ。
その上さらに男にモテる?地獄か?


(ここが姉さんの言う通り王道学園なんだとしたら、主人公とエッチなあれこれをするのは『役職持ち』に決まってる。転校生が来るって聞いたら、もっと『役職持ち』になりたくなくなってきた……)


特別棟のエントランスに到着すると、顔認証ですぐさま自動ドアが開く。
たかが学校の施設に金をかけすぎている気もするが、中にある重要データのことを考えれば、これほど厳重な警備にも納得せざるを得ない。
ここの生徒会室では、とんでもない額の金が動かされているし、風紀室の名簿が漏れようもんなら大問題だ。
最悪誰かのクビが飛ぶかもしれない。物理的に。


エレベーターで風紀室のあるフロアまで上がって、高級そうな絨毯じゅうたんが敷かれた廊下を歩く。
最初の頃は絨毯じゅうたんを踏みしめるのが恐れ多くて、なかなか風紀室にたどり着けなかったなぁ、と一ヶ月の成長をしみじみと感じていた。
やがて現れた、重厚じゅうこう感のある木製の扉の前で立ち止まる。

ここが、風紀室だ。


(ここの扉重いし、一回書類置かなきゃダメかなー)


廊下に置かれている小さな机に、書類を置こうと考えたところで、


ガチャ

「……佐倉?」


風紀室の扉が内側から開いて、我らが風紀委員長、神宮寺じんぐうじかなでが現れた。





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