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ルールを守って遊びましょう
しおりを挟む「っしゃ、捕まえた!」
「ひっ」
ガッと強く掴まれた腕に、男子生徒は小さく悲鳴をあげた。
「あーくそ、ようやくかよ」
「散々手こずらせやがって……」
「さ、こっからがお楽しみだぜ~?」
ニヤニヤと笑う複数の上級生に囲まれて、壁に押しつけられる。
複数の鬼に追いかけ回され、挟み込まれて捕まった生徒は、あまりの理不尽さに涙を浮かべずにはいられなかった。
「あれ、泣いてんの?」
「かわいいじゃん~」
「もっとイジメたくなるなぁ」
「や、やめ……!」
掴まれた腕を振り払って逃げようとするが、逆に両脇から腕を拘束されて身動きが取れなくなってしまう。
「おいおい、お前ちゃんとルール聞いてたか?」
「捕まった人は鬼の命令を聞かないといけないの、わかる?」
「お前に拒否権ねえんだよ」
カタカタと震える獲物を見て、よりいっそう楽しそうに笑う男達は、いっせいに手を伸ばし────。
「じゃ、いただきま────」
「はぁい、そこまで」
ゴッ
固いもの同士がぶつかるような鈍い音が響いたかと思うと、突然男の一人が地面に倒れ伏した。
「えっ、何が……ガハッ!」
「おい、どうし……グッ……!」
次々と崩れ落ちていく男達と、何が何だかわかっていない男子生徒。
それらを前に、ゆっくりと微笑みをうかべる。
「複数の鬼での捕獲はルール違反です。……退場していただきます」
「ふ、風紀副委員長……」
「ど、どいうことだよ!」
「捕まえた奴に何でも命令できるってルールだっただろうが!!」
「ルール説明を聞かなかったんですか?何でも『一つ』とちゃんと言いましたよ。複数人が一人に命令することはできません」
「はぁ!?……グッ!」
起き上がろうとしていた奴を踏みつけながら、未だに呆然としている男子生徒に近づく。
俺が目の前に立つと我に返った生徒は、警戒するように身を縮こませた。
(こいつは……1組の高坂優月か。『リスト』にあがってた奴だな、フォロー入れてよかったぁ……)
新入生歓迎会の前に風紀委員が多くの睡眠と労力を犠牲にして作成した、護衛対象リスト。そこに高坂優月の名前が載っていたはずだ。
護衛対象リストとはその名の通り、鬼ごっこの最中に風紀委員が気にかけておくべき生徒、つまり上級生から襲われたとき、心に深い傷を負いかねない生徒をチェックするものである。
ウチの学園がホモの巣窟とはいえ、もちろん普通に女子が恋愛対象の奴───姉いわく『ノンケ』というらしい───もいる。
そういった人々は男に無理やり襲われたりなんかしたら一生のトラウマになってしまうかもしれない。そんな恐ろしい事態となれば、風紀どうこう以前に人として止めるべきだろう。
幸いにも今年度の風紀委員長であるウチの奏さんはバカがつくほど真面目なので、その辺りの対策には力を入れている。
かく言う俺自身、同志であるノンケ達は全力で守るつもりだし、今回の準備は結構がんばった。そのせいでろくに寝られなかったけど……。
「高坂くん、で合ってますか?」
「は、はい……なんで、僕の名前……」
「僕は風紀副委員長の佐倉です。たしか、何度か風紀室にいらっしゃってたでしょう」
「あ、風紀委員さん……!す、すみません!いつもはご迷惑を……!」
「いえ、そんなに緊張しないでください」
顔を真っ青にしてぷるぷると震えている様子を見るに、ずいぶんと萎縮してしまっているようだ。
どうやら彼は相当な人見知りらしい。
高坂は高校からの外部生で、生活態度も成績も優秀な生徒だ。
しかし、気弱な性格と長い前髪、大きなメガネというウチの学園らしからぬ地味な見た目のせいか、内部生の派手な連中から目をつけられていた。
そして、襲われた被害者として何度か風紀室で保護されており、もはや常連となっている。
今回のリスト作成の際も、真っ先に名前があがったくらいだ。
「とりあえず、ここにいると見つかってしまうでしょうから、あまり人の来ない場所に案内します。……立てますか?」
「こ、腰が抜けちゃって……すみません」
「まあ、仕方ないでしょうね……。わかりました、じゃあ、肩を貸すので、もう少し物陰の方に行きましょう」
「は、はい……」
遠慮がちに俺の方へと体重を預けてもらいながら、建物の陰に移動する。
いやこれほんとに体重かけてる?さすがに軽すぎない?
見た目からしてヒョロいとは思ってたけど、これじゃあ襲われてもろくな抵抗はできないだろう。だから標的になっちゃってるのか。
(まずいな……。ここ結構見つかりやすいし、逃げ道ないから見つかったら詰む。逃がしてやることはできるけど、ルールに従っている鬼を直接妨害することはできないし……)
チラ、と足元にうずくまっている高坂を見やる。
先程よりは落ち着いたようだが、それでもまだ、動くことはできなさそうだ。
顔を青くして、時おり何かを思い出したようにブルリと肩を震わせる。
(……念の為に、連絡しとくか)
少し嫌な予感を抱きつつ、ポケットに手を突っ込んでスマホを取り出した。
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