26 / 29
仕事はきちんとこなします
しおりを挟む校舎裏に隠れ始めて数分も経たない頃、パタパタと複数人の足音が近づいてきた。俺たちは二人そろって体をこわばらせ、息を潜める。
「この辺は絶対一人はいるからなぁ。そろそろヤリてえし、好みの奴だったら俺が貰うから、お前ら手ぇ出すなよ」
「はいはーい。その代わり、お前が要らなかったら俺のモンね。俺も最近溜まってたし、早くヤリたいんだよね~」
壁際から様子をうかがいながら、俺は顔をしかめた。
(来たか、あれは……三年だな。たしか、そこそこモテてて男を抱きまくってるグループだ。よりにもよって面倒なのに当たっちゃったかぁ……。
話しかければ少しくらい足止めできるけど、その間に高坂が逃げられるかは……微妙だわ。あー、まじで、どうすんだ!?)
一度見つかってしまった時点で俺は手を出せなくなるから、とりあえず見つかる前に高坂一人を逃がした方がいいのは確かだ。
でも、案内しようと思っていた場所はここから遠く、人目につかないだけあって大分わかりにくい場所にある。
一年である高坂が無事にたどり着けるとは思えない。途中で見つかって捕まり、襲われるのがオチだろう。
かといってここに留まっていても、あの三年たちに襲われるわけで……まさに八方塞がりだ。
内心めちゃくちゃ焦りつつも、高坂を不安にさせないように冷静を装って口を開く。
「高坂く……」
「風紀委員さん」
とりあえず、少しでも奥の方に隠れましょう。そう言おうと振り向いた先で、やけに真っ直ぐな目が俺を見ていた。
「俺を置いて行ってください」
「……え?」
困惑している俺を置き去りにして、高坂は真剣な顔で言葉を続ける。
「この鬼ごっこ、風紀委員さんが開催してるんですよね……?
お、俺と一緒にいられるところを見られたら、その、まずいんじゃないですか……?」
まさに、その通りだった。
風紀委員が逃げる側に肩入れなんてしたら、多くの生徒から批判を受けるだろうし、ゲームバランス自体が崩れて『学園の伝統行事』を壊したことになってしまう。
そしてそれは、風紀委員会の信頼を落とし、生徒会とのパワーバランスを崩すことにも繋がってしまうのだ。
だから、俺たちは一年生を堂々と助けることができない。
リストを作って裏でひっそり保護するくらいが限界。こうやって守っているような場面を見られるだけでもアウトだ。
「ど、どうせ俺まだ腰が抜けてて動けませんし!風紀委員さんに迷惑かけるわけには、いかないので……」
だから、高坂の言っていることは正しい。正しい、けど。
「なるほど、君は頭が回るようですね。……ですが、その提案は却下させていただきます」
「えっ」
風紀委員の腕章と、キッチリ締めていたネクタイを外してポケットに突っ込む。それから、ポカンとしている高坂からメガネを拝借した。
メガネをかけてみると少しだけ歪んだ視界の中で、まだ高坂が呆然と固まっている。
それをいいことに、素早く彼の背中と膝に腕を差し込んで、何か言われる前にさっさと持ち上げた。
「ちょ、なん……うわ!?」
ハッと我に返った高坂は、俺に横抱きされているという事実に気づいたのか、手足を動かして抵抗を始める。
けれど、腰が抜けているせいか全く力が入っておらず、ろくな抵抗になっていない。
「危ないので大人しくしてくださいねー」
「え、いや、な、なんで……」
「なんでって、僕は風紀委員ですよ?」
「だ、だから置いて行ってくださいと……!」
「何言ってるんですか」
後輩一人助けられなくて、何が二年生だ。何が風紀委員だ。
「風紀委員は、生徒を助けるのが仕事ですよ」
言ったと同時に校舎裏から飛び出して、全速力で走り始めた。
151
あなたにおすすめの小説
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる