風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実

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仕事はきちんとこなします

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校舎裏に隠れ始めて数分も経たない頃、パタパタと複数人の足音が近づいてきた。俺たちは二人そろって体をこわばらせ、息を潜める。


「この辺は絶対一人はいるからなぁ。そろそろヤリてえし、好みの奴だったら俺がもらうから、お前らぇ出すなよ」

「はいはーい。その代わり、お前が要らなかったら俺のモンね。俺も最近溜まってたし、早くヤリたいんだよね~」


壁際から様子をうかがいながら、俺は顔をしかめた。


(来たか、あれは……三年だな。たしか、そこそこモテてて男を抱きまくってるグループだ。よりにもよって面倒なのに当たっちゃったかぁ……。
話しかければ少しくらい足止めできるけど、その間に高坂が逃げられるかは……微妙だわ。あー、まじで、どうすんだ!?)


一度見つかってしまった時点で俺は手を出せなくなるから、とりあえず見つかる前に高坂一人を逃がした方がいいのは確かだ。
でも、案内しようと思っていた場所はここから遠く、人目につかないだけあって大分わかりにくい場所にある。
一年である高坂が無事にたどり着けるとは思えない。途中で見つかって捕まり、襲われるのがオチだろう。
かといってここに留まっていても、あの三年たちに襲われるわけで……まさに八方塞がりだ。
内心めちゃくちゃ焦りつつも、高坂を不安にさせないように冷静を装って口を開く。


「高坂く……」

「風紀委員さん」


とりあえず、少しでも奥の方に隠れましょう。そう言おうと振り向いた先で、やけに真っ直ぐな目が俺を見ていた。


「俺を置いて行ってください」

「……え?」


困惑している俺を置き去りにして、高坂は真剣な顔で言葉を続ける。


「この鬼ごっこ、風紀委員さんが開催してるんですよね……?
お、俺と一緒にいられるところを見られたら、その、まずいんじゃないですか……?」


まさに、その通りだった。
風紀委員が逃げる側に肩入れなんてしたら、多くの生徒から批判を受けるだろうし、ゲームバランス自体が崩れて『学園の伝統行事』を壊したことになってしまう。
そしてそれは、風紀委員会の信頼を落とし、生徒会とのパワーバランスを崩すことにも繋がってしまうのだ。
だから、俺たちは一年生を堂々と助けることができない。
リストを作って裏でひっそり保護するくらいが限界。こうやって守っているような場面を見られるだけでもアウトだ。


「ど、どうせ俺まだ腰が抜けてて動けませんし!風紀委員さんに迷惑かけるわけには、いかないので……」


だから、高坂の言っていることは正しい。正しい、けど。


「なるほど、君は頭が回るようですね。……ですが、その提案は却下させていただきます」

「えっ」


風紀委員の腕章と、キッチリ締めていたネクタイを外してポケットに突っ込む。それから、ポカンとしている高坂からメガネをはいしゃくした。
メガネをかけてみると少しだけ歪んだ視界の中で、まだ高坂が呆然と固まっている。
それをいいことに、素早く彼の背中と膝に腕を差し込んで、何か言われる前にさっさと持ち上げた。


「ちょ、なん……うわ!?」


ハッと我に返った高坂は、俺に横抱きされているという事実に気づいたのか、手足を動かして抵抗を始める。
けれど、腰が抜けているせいか全く力が入っておらず、ろくな抵抗になっていない。


「危ないので大人しくしてくださいねー」

「え、いや、な、なんで……」

「なんでって、僕は風紀委員ですよ?」

「だ、だから置いて行ってくださいと……!」

「何言ってるんですか」


後輩一人助けられなくて、何が二年生だ。何が風紀委員だ。


「風紀委員は、生徒を助けるのが仕事ですよ」


言ったと同時に校舎裏から飛び出して、全速力で走り始めた。




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