27 / 29
王子様にはなれません
しおりを挟む「おい待てよ一年!!」
「くっそ、あのメガネ、なんで一人抱えてあんな速く走れんだよ!?」
三年と追いかけっこを始めて数分、追っ手は二人だけになっていた。
たぶん俺と高坂の二人ともが一年生だと思っていて、それぞれ捕まえようとしているのだろう。
俺の変装が上手くいっているようで何よりだ。
腕章を外してメガネをかけただけで、『風紀委員・佐倉伊織』の印象は意外と薄れるものらしい。
学年で色の違うネクタイまで外してしまえば、もうただの一年生にしか見えないのだろう。
「おーい、メガネくーん!その運んでる子だけでも置いてってくんない?」
最低な提案を大声で叫ぶな。
俺はお前らクソ野郎とは違ってそんなクソみたいなことはしねえよクソが。
心の中で悪態をつきながら後ろをチラっと確認して、少し縮まっている距離に舌打ちをする。
アイツらしつこいな……!
「高坂くん、しっかり掴まっててくださいね!」
「は、はいぃ……!って、あの、大丈夫なんですか……!?」
「大丈夫です、一応策がないわけじゃないので!」
言いながら角を曲がる。
安全地帯はまだ遠く、おそらくこのままのペースで行けば、たどり着く前に追いつかれるだろう。
俺は走るのは速いが、体力には自信がない。
けれど、俺だって馬鹿じゃないので、それなりに策は立てている。
一応、二つ考えてあるのだが、一つは賭けで確率は五分五分といったところ。もう一つは一度しか使えない奥の手みたいなもんだから、なるべく使いたくないんだけど……。
(もう少しで中庭を通るから、そこまでに間に合わなかったらアウトだな。諦めて奥の手を使おう。
ん~~、間に合うか……!?俺、今日の星座占い10位だったんだよな……!)
若干諦めの気持ちを抱きつつ、校舎と校舎の間を駆け抜けて中庭へと向かう。
もう視界の先に見えてきた草木の緑色に、覚悟を決めた────その時。
ブー、ブー
俺のポケットで、スマホが震えた。
「……っ!」
(…………きた)
逸る気持ちを抑えて中庭へと駆け込み、急いで視線を走らせる。
そこに見えた背の高い人影に、足りていない酸素をどうにか吸い込んで叫んだ。
「────黒柳!」
「あ、佐倉」
スマホ片手に振り返った親友の姿に、心の底から安堵する。
やはり、さっきのスマホの通知は黒柳からのメッセージだったらしい。
実は、先ほど高坂を保護した時点でちょっと嫌な予感がしたから、黒柳に『時間があったら中庭まで来てくれ』とメッセージを送っていたのだ。
もうすでに他のやつを捕まえていたら体育館に行ってしまっているだろうし、いちかばちかだったけど、来てくれて本当によかった。
普段は天然たらしでちょっと……いや、だいぶ手のかかる奴だが、こういう時は頼りになる。さすが俺の親友。
「これ頼んだ!!」
走る速度は落とさず、素早く親友に腕の中の人間を引き渡し、そのまま中庭の反対側の出口へと向かう。
「えっ!?ちょ……!?」
黒柳はわけがわからないという顔をして、高坂を抱えてわたわたしていた。
だろうな、俺も逆の立場だったらそうなる。でも黒柳だったら上手くやってくれるだろう。信じてるぜ、親友!
そんな投げやりなことを考えながら、俺は追っ手の三年が来る前に中庭から逃走した。
ーーーーー
「ここまで来たら、もう大丈夫か……」
人気のない場所で足を止めて、後ろを誰も追いかけてきていないことを確認し、ふう、と一息つく。
黒柳に『大丈夫だったか?』と聞こうと思ってスマホを取り出すと、すでに『OK』とメッセージが来ているのが目に入った。
さすが、生徒会に選ばれるだけあって優秀な男だ。……あいつがポンコツなのは恋愛面だけなのか?
ちょっと遠い目をしてしまったが、とりあえず『サンキュ』と返信しておいた。
「……やべ、メガネ返してない」
額の汗を拭おうとして、自分の顔にまだメガネがかかっていることに気がついた。
高坂から拝借したそれを外そうと手をかけたが、やめる。
意外と即席の変装が上手くいったので、このまま利用してやろう、という考えが半分。
もう半分は、メガネをポケットに入れたり手に持ったりして動くのが怖すぎるから。
後輩から半ば強引に奪ったメガネを割るとか普通に最低である。
(ま、あの一年なら自分が悪いくらいの勢いで許してくれそうだけど)
被害者なのに恐縮しまくって『す、すみません……!』と謝る彼の姿が容易に想像できて、思わずクスッと笑みがもれる。
同時に、彼と彼を預けた親友はどうなっているだろうか、と中庭に思いを馳せた。黒柳にオトされてないといいけど……。
けれど本当に、今回は黒柳に助けられたと改めて思う。
黒柳のおかげであの一年を助けることができたし、何より『黒柳が助けた』という形にできた。
そう、俺は本心で高坂を助けたいと思いながらも、実は心の中では『あること』を危惧していたのだ。
『────BLでありがちなシチュエーションはねー、襲われそうになってるとこを助けるってやつね!もうこれは恋に落ちるフラグだから!!その後心に傷を負った受けを攻めが慰めるところまでがテンプレだから!!!』
BL漫画とやらを片手に力説する姉の姿が目に浮かぶ。
風紀委員会に入った時、主な活動がキャットファイトの仲裁と、襲われてる生徒を助けることだと聞いて、
『フラグまったなしじゃねえか!!!!』
と崩れ落ちたものだ。あれは絶望だった。
それから俺は、風紀委員として生徒を助ける時もなるべく複数人で動いたり、被害者を助け起こすよりも加害者をボコボコにすることに専念したり、事件後のメンタルケアを他人に任せたりしてこのフラグを回避してきた。
そして今回も、このフラグ───名付けて『白馬の王子様』フラグを無事回避することができたのだ。
自意識過剰と思うかもしれないが、ここは『BL王道学園』。何が起こってもおかしくない。
今日も俺の貞操と立場は鉄壁の守りだ。
161
あなたにおすすめの小説
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる