風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実

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王子様にはなれません

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「おい待てよ一年!!」

「くっそ、あのメガネ、なんで一人抱えてあんな速く走れんだよ!?」


三年と追いかけっこを始めて数分、追っ手は二人だけになっていた。
たぶん俺と高坂の二人ともが一年生だと思っていて、それぞれ捕まえようとしているのだろう。
俺の変装が上手くいっているようで何よりだ。

腕章を外してメガネをかけただけで、『風紀委員・佐倉伊織』の印象は意外と薄れるものらしい。
学年で色の違うネクタイまで外してしまえば、もうただの一年生にしか見えないのだろう。


「おーい、メガネくーん!その運んでる子だけでも置いてってくんない?」


最低な提案を大声で叫ぶな。
俺はお前らクソ野郎とは違ってそんなクソみたいなことはしねえよクソが。
心の中で悪態をつきながら後ろをチラっと確認して、少し縮まっている距離に舌打ちをする。
アイツらしつこいな……!


「高坂くん、しっかり掴まっててくださいね!」

「は、はいぃ……!って、あの、大丈夫なんですか……!?」

「大丈夫です、一応策がないわけじゃないので!」


言いながら角を曲がる。
安全地帯はまだ遠く、おそらくこのままのペースで行けば、たどり着く前に追いつかれるだろう。
俺は走るのは速いが、体力には自信がない。

けれど、俺だって馬鹿じゃないので、それなりに策は立てている。
一応、二つ考えてあるのだが、一つは賭けで確率は五分五分といったところ。もう一つは一度しか使えない奥の手みたいなもんだから、なるべく使いたくないんだけど……。


(もう少しで中庭を通るから、そこまでに間に合わなかったらアウトだな。諦めて奥の手を使おう。
ん~~、間に合うか……!?俺、今日の星座占い10位だったんだよな……!)


若干諦めの気持ちを抱きつつ、校舎と校舎の間を駆け抜けて中庭へと向かう。
もう視界の先に見えてきた草木の緑色に、覚悟を決めた────その時。


ブー、ブー


俺のポケットで、スマホが震えた。


「……っ!」

(…………きた)


はやる気持ちを抑えて中庭へと駆け込み、急いで視線を走らせる。
そこに見えた背の高い人影に、足りていない酸素をどうにか吸い込んで叫んだ。


「────黒柳!」

「あ、佐倉」


スマホ片手に振り返った親友の姿に、心の底から安堵する。
やはり、さっきのスマホの通知は黒柳からのメッセージだったらしい。

実は、先ほど高坂を保護した時点でちょっと嫌な予感がしたから、黒柳に『時間があったら中庭まで来てくれ』とメッセージを送っていたのだ。
もうすでに他のやつを捕まえていたら体育館に行ってしまっているだろうし、いちかばちかだったけど、来てくれて本当によかった。
普段は天然たらしでちょっと……いや、だいぶ手のかかる奴だが、こういう時は頼りになる。さすが俺の親友。


「これ頼んだ!!」


走る速度は落とさず、素早く親友に腕の中の人間を引き渡し、そのまま中庭の反対側の出口へと向かう。


「えっ!?ちょ……!?」


黒柳はわけがわからないという顔をして、高坂を抱えてわたわたしていた。
だろうな、俺も逆の立場だったらそうなる。でも黒柳だったら上手くやってくれるだろう。信じてるぜ、親友!
そんな投げやりなことを考えながら、俺は追っ手の三年が来る前に中庭から逃走した。




ーーーーー




「ここまで来たら、もう大丈夫か……」


人気のない場所で足を止めて、後ろを誰も追いかけてきていないことを確認し、ふう、と一息つく。
黒柳に『大丈夫だったか?』と聞こうと思ってスマホを取り出すと、すでに『OK』とメッセージが来ているのが目に入った。
さすが、生徒会に選ばれるだけあって優秀な男だ。……あいつがポンコツなのは恋愛面だけなのか?
ちょっと遠い目をしてしまったが、とりあえず『サンキュ』と返信しておいた。


「……やべ、メガネ返してない」


額の汗を拭おうとして、自分の顔にまだメガネがかかっていることに気がついた。
高坂から拝借したそれを外そうと手をかけたが、やめる。
意外と即席の変装が上手くいったので、このまま利用してやろう、という考えが半分。
もう半分は、メガネをポケットに入れたり手に持ったりして動くのが怖すぎるから。
後輩から半ば強引に奪ったメガネを割るとか普通に最低である。


(ま、あの一年なら自分が悪いくらいの勢いで許してくれそうだけど)


被害者なのに恐縮きょうしゅくしまくって『す、すみません……!』と謝る彼の姿が容易に想像できて、思わずクスッと笑みがもれる。
同時に、彼と彼を預けた親友はどうなっているだろうか、と中庭に思いをせた。黒柳にオトされてないといいけど……。

けれど本当に、今回は黒柳に助けられたと改めて思う。
黒柳のおかげであの一年を助けることができたし、何より『黒柳が助けた』という形にできた。
そう、俺は本心で高坂を助けたいと思いながらも、実は心の中では『あること』を危惧していたのだ。


『────BLでありがちなシチュエーションはねー、襲われそうになってるとこを助けるってやつね!もうこれは恋に落ちるフラグだから!!その後心に傷を負った受けを攻めがなぐさめるところまでがテンプレだから!!!』


BL漫画とやらを片手に力説する姉の姿が目に浮かぶ。
風紀委員会に入った時、主な活動がキャットファイトの仲裁と、襲われてる生徒を助けることだと聞いて、
『フラグまったなしじゃねえか!!!!』
と崩れ落ちたものだ。あれは絶望だった。

それから俺は、風紀委員として生徒を助ける時もなるべく複数人で動いたり、被害者を助け起こすよりも加害者をボコボコにすることに専念したり、事件後のメンタルケアを他人に任せたりしてこのフラグを回避してきた。
そして今回も、このフラグ───名付けて『白馬の王子様』フラグを無事回避することができたのだ。
自意識過剰と思うかもしれないが、ここは『BL王道学園』。何が起こってもおかしくない。

今日も俺の貞操と立場は鉄壁の守りだ。



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