梅雨の様なこんな雨の日に

はなおくら

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 ある日、夜会の招待があるということで同席するように言われた。

 目の前に座るツーリーは、お茶を飲んでなんてことない顔を浮かべている。

「本気ですか?」 

「ああ。」

 迷いもなく返される。

 わたしは深呼吸して冷静に返した。

「他の方と行かれるべきです…わたしは行きません。」

「ダメだ。」

 どんなに嫌だと言っても拒否権はないと返されてしまう。

 どうするべきか…このまま出席して仕舞えばそれこそツーリーの評判はガタ落ちだ。

 どうしたものか…。

 そう考えているうちに当日になってしまった。

 今回出席するところは、ツーリーの親戚だけが集まる会だった。

 わたしはツーリーに合わせられたドレスに身を包んだ。

 今回は露出もない清楚な服だった。

「ナナ。」

 声の方に振り返ると、わたしの部屋の前で彼は佇んでいる。

「行こう。」

「……はい…。」

 不本意ながらも彼に着いて行く。

 わたしにはそれしか選択肢がない。

「不機嫌だね。」

 わたしの顔を見て嬉しそうに彼は言う。

「そんなことありません。…これも仕事ですから。」

 わたしが顔を背けたと、彼は急に立ち止まったのでわたしは転げそうになった。

 ドレスで身動き取れずそのまま倒れると思った瞬間、腰を引かれて気がつけばツーリーの顔が目の前にあった。

 彼と目があった。

 目が離せなくて見つめてしまう。

 彼もわたしを見つめたまま固まっている。

 咄嗟に2人とも距離を置いてしまう。

 わたしは動転して早く打つ胸に早く止まれと指示を心の中で出しながら、差し出されたツーリーの手を掴んで夜会へと急いだ。

 夜会に到着する頃には、鼓動もおさまっておりわたしは毅然と振る舞った。

 これから行く先で何を言われても気にしないように。

「ナナ、君は自分らしくいてくれればいい、何も気にしなくていい。」

 そう言ってツーリーは、夜会の中へと入っていった。

 入ってみるとやはりツーリーとわたしに白い目を向けられる。

 しかし小さくなっていれば余計に的にされてしまう。

 彼が白い目で見られながらも挨拶を交わしていく中、わたしは毅然と振る舞った。

 ここでは昔から習った貴族のマナーが体に染み付いてるおかげか、自然と行うことが出来た。

「まぁ…あのような身分のはずなのにマナーは完璧なのね。」

「きっと付け焼き刃のようにしてきたのでしょう。」

 小声ではあるものの皮肉や驚きが聞こえてくる。

 しかしわたしはそんなこと気にもせず、彼の隣を歩いた。

 夜会が終わる頃には、誰もわたしを見下す者は少なくなっていた。
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