15 / 72
15
しおりを挟む
「ナナ、素敵だったよ。やはり君はあの頃と何も変わってない…。」
夜会から屋敷へと戻り、今部屋着に着替えて同じベッドに腰掛けている。
屋敷に戻り逃げるように部屋に戻ろうとしたのだが、ツーリーに引き留められた。
彼が後ろからわたしを抱きしめて下ろしたわたしの髪を大事そうに撫でる。
これは私が緊張した時、彼がよくしてくれていたことだった。
「………。」
「ナナ、緊張しただろう?しばらくは落ち着いてくるから安心していい。」
ツーリーは何を考えてるのだろうか。
こんな事を永遠に続くと思っているのだろうか。
そんな事を考えているとだんだん腹が立ってきた。
「何を考えているんですか…。」
「ナナ?」
「貴方は立派な方なのに、どうして地位を泥に投げるような事をするのですか!…それに貴方には婚約者…奥様がいらっしゃるはずです!…こんなことして許されるはずがありません。」
自然と泣いてしまう。
自分で言ってて悲しくなる。
本当は彼と過ごせるこの時間がどれだけ愛おしいものかもうわかっている。
「ナナ…おいで。」
八つ当たりしたわたしを怒ることもなく優しく両手を広げて迎え入れてくれる。
ツーリーの嬉しそうにも悲しそうにも捉えられるその表情を見てわたしは、自分から彼の胸に飛び込んだ。
「どうして…貴方はそうなの…。…わたしには貴方を幸せに出来ないのに…。」
「ナナ、僕は君さえいてくれればそれでいい男なんだよ。何もいらないんだ…君だけの愛で充分なんだよ。」
彼の一途な気持ちに私は彼の胸で泣いた。
素直になってもいいの?
自分へと問いかけに、もう1人のわたしは震えながら手を差し伸べていた。
わたしの髪を撫でて慰める彼は、口を開いた。
「君が気にしてることだが、僕には婚約者はいないよ。リリアナはもう関係ないんだ。」
驚いた。
コンサートに2人で出ていたから、てっきりそうなのだと思った。
でも違うなら何故2人でいたのだろう。
「…ならどうして…あの場に一緒にいたの?」
ツーリーは、眉間に皺を寄せて言った。
「婚約は解消したが、君の居場所を知るために近づいたんだ。」
「どういうこと?」
ツーリーはわたしが売られた後の話をし出した。
「君がいなくなってから、君との婚約破棄の書類が届いたんだ。そこには君ではなく姉のリリアナとの婚姻を結び直すとも書かれていた。」
その時のことを思い出しているのか、ツーリーは顔を怒らせていた。
「すぐに断ったが、君の父はしつこくてね。ぼくは君の居場所を聞いても知らないという…そこで彼女に近づいて君の行方のヒントを探っていたんだ。」
夜会から屋敷へと戻り、今部屋着に着替えて同じベッドに腰掛けている。
屋敷に戻り逃げるように部屋に戻ろうとしたのだが、ツーリーに引き留められた。
彼が後ろからわたしを抱きしめて下ろしたわたしの髪を大事そうに撫でる。
これは私が緊張した時、彼がよくしてくれていたことだった。
「………。」
「ナナ、緊張しただろう?しばらくは落ち着いてくるから安心していい。」
ツーリーは何を考えてるのだろうか。
こんな事を永遠に続くと思っているのだろうか。
そんな事を考えているとだんだん腹が立ってきた。
「何を考えているんですか…。」
「ナナ?」
「貴方は立派な方なのに、どうして地位を泥に投げるような事をするのですか!…それに貴方には婚約者…奥様がいらっしゃるはずです!…こんなことして許されるはずがありません。」
自然と泣いてしまう。
自分で言ってて悲しくなる。
本当は彼と過ごせるこの時間がどれだけ愛おしいものかもうわかっている。
「ナナ…おいで。」
八つ当たりしたわたしを怒ることもなく優しく両手を広げて迎え入れてくれる。
ツーリーの嬉しそうにも悲しそうにも捉えられるその表情を見てわたしは、自分から彼の胸に飛び込んだ。
「どうして…貴方はそうなの…。…わたしには貴方を幸せに出来ないのに…。」
「ナナ、僕は君さえいてくれればそれでいい男なんだよ。何もいらないんだ…君だけの愛で充分なんだよ。」
彼の一途な気持ちに私は彼の胸で泣いた。
素直になってもいいの?
自分へと問いかけに、もう1人のわたしは震えながら手を差し伸べていた。
わたしの髪を撫でて慰める彼は、口を開いた。
「君が気にしてることだが、僕には婚約者はいないよ。リリアナはもう関係ないんだ。」
驚いた。
コンサートに2人で出ていたから、てっきりそうなのだと思った。
でも違うなら何故2人でいたのだろう。
「…ならどうして…あの場に一緒にいたの?」
ツーリーは、眉間に皺を寄せて言った。
「婚約は解消したが、君の居場所を知るために近づいたんだ。」
「どういうこと?」
ツーリーはわたしが売られた後の話をし出した。
「君がいなくなってから、君との婚約破棄の書類が届いたんだ。そこには君ではなく姉のリリアナとの婚姻を結び直すとも書かれていた。」
その時のことを思い出しているのか、ツーリーは顔を怒らせていた。
「すぐに断ったが、君の父はしつこくてね。ぼくは君の居場所を聞いても知らないという…そこで彼女に近づいて君の行方のヒントを探っていたんだ。」
0
あなたにおすすめの小説
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる