梅雨の様なこんな雨の日に

はなおくら

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「ナナ、素敵だったよ。やはり君はあの頃と何も変わってない…。」

 夜会から屋敷へと戻り、今部屋着に着替えて同じベッドに腰掛けている。

 屋敷に戻り逃げるように部屋に戻ろうとしたのだが、ツーリーに引き留められた。

 彼が後ろからわたしを抱きしめて下ろしたわたしの髪を大事そうに撫でる。

 これは私が緊張した時、彼がよくしてくれていたことだった。

「………。」

「ナナ、緊張しただろう?しばらくは落ち着いてくるから安心していい。」

 ツーリーは何を考えてるのだろうか。

 こんな事を永遠に続くと思っているのだろうか。

 そんな事を考えているとだんだん腹が立ってきた。

「何を考えているんですか…。」

「ナナ?」

「貴方は立派な方なのに、どうして地位を泥に投げるような事をするのですか!…それに貴方には婚約者…奥様がいらっしゃるはずです!…こんなことして許されるはずがありません。」

 自然と泣いてしまう。

 自分で言ってて悲しくなる。

 本当は彼と過ごせるこの時間がどれだけ愛おしいものかもうわかっている。

「ナナ…おいで。」

 八つ当たりしたわたしを怒ることもなく優しく両手を広げて迎え入れてくれる。

 ツーリーの嬉しそうにも悲しそうにも捉えられるその表情を見てわたしは、自分から彼の胸に飛び込んだ。

「どうして…貴方はそうなの…。…わたしには貴方を幸せに出来ないのに…。」

「ナナ、僕は君さえいてくれればそれでいい男なんだよ。何もいらないんだ…君だけの愛で充分なんだよ。」

 彼の一途な気持ちに私は彼の胸で泣いた。

 素直になってもいいの?

 自分へと問いかけに、もう1人のわたしは震えながら手を差し伸べていた。

 わたしの髪を撫でて慰める彼は、口を開いた。

「君が気にしてることだが、僕には婚約者はいないよ。リリアナはもう関係ないんだ。」

 驚いた。

 コンサートに2人で出ていたから、てっきりそうなのだと思った。

 でも違うなら何故2人でいたのだろう。

「…ならどうして…あの場に一緒にいたの?」

 ツーリーは、眉間に皺を寄せて言った。

「婚約は解消したが、君の居場所を知るために近づいたんだ。」

「どういうこと?」

 ツーリーはわたしが売られた後の話をし出した。

「君がいなくなってから、君との婚約破棄の書類が届いたんだ。そこには君ではなく姉のリリアナとの婚姻を結び直すとも書かれていた。」

 その時のことを思い出しているのか、ツーリーは顔を怒らせていた。

「すぐに断ったが、君の父はしつこくてね。ぼくは君の居場所を聞いても知らないという…そこで彼女に近づいて君の行方のヒントを探っていたんだ。」

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