梅雨の様なこんな雨の日に

はなおくら

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 “本当だよ”

「っ…ごめんなさい…わからない…怖いの…。」

 聞いておいて申し訳ないと思いつつもこの人の言葉を信じ切る事ができなかった。

 また騙されてしまうのではと疑心暗鬼になっていた。

 それから私の生活をこの人が付きっきりでしてくれている。

 着替えから食事まで彼が全て面倒を見てくれた。

 彼は聞こえないわたしのために、手のひらに字を書いて伝えてくれる。

 感覚からツーリーなのではと思いつつもやはり信じ切る事ができなかった。

 “散歩に行こう”

 わたしの生活が慣れた頃、彼はわたしを外へ連れ出してくれた。

 ゆっくりとわたしのペースに合わせて歩いてくれる。

「こんなわたしに親切にしてくださり、感謝しています。」

 握られた手がぎゅっと返事をしてくれる。

「耳も聞こえず目も見えないせいか自身も無くしてしまって…。」

 またぎゅっと握って励ましてくれている様に感じた。

「あの…お願いがあるんです。私の居場所をヴァルシュア公爵に伝えてもらえませんか?…きっと彼が心配してるはずなのです。」

 わたしの言葉に、返事はなかった。

 こんな頼み事をして図々しいと思われたに違いない。

 わたしはそれ以上何も言わず、鼻をくすぐる花たちの匂いに集中した。

 ここでの生活が慣れた頃、ツーリーに会いたくてたまらなくなった。

 また離れ離れになってしまうなんて。

 彼を感じたくて布団の中で震えながら涙が流れる。

 その時そっと布団の中に入る気配がした。

 気配からして彼だと思った。

 彼は後ろからわたしを抱きしめた。

 前から薄々と感じているのは彼は本当にツーリーなのではないかそう思える様になってきた。

 彼のそばにいるといつも感じている感覚にすごく似ている気がした。

 私は疑心暗鬼になった気持ちを捨てて信じてみようと彼に振り向いた。

「あなたはツーリー…?」

 彼はわたしの手のひらに指をなぞる。

 “ナナ、寂しいよ”

 私は彼だと実感した。

「ツーリー!」

 彼のに顔を寄せた。

 あなたはずっとそばにいてくれたのに私はなんて愚かにも気づこうともしなかった。

「ごめんなさい…ごめんなさい…。」

 彼に抱きついて泣いた。

 ツーリーは嬉しいのかわたしの腕を抱きしめたままだった。

 その晩、ようやく安心したおかげで彼の胸の中で眠った。

 久しぶりに深い眠りにつけた。

 目が覚めれば、わたしを抱いたままなのだろう。

 彼の温もりを感じる事ができた。

 暖かな感覚にわたしは彼の胸に手を置いて感覚を実感した。

 帰ってきた…。

 そう実感すると嬉しくなって目を閉じて涙を流した。
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