梅雨の様なこんな雨の日に

はなおくら

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 家の周りは森になっているのかあたりは風で揺れる木々のざわめき、それを楽しむかのような鳥たちの鳴き声そして近くの川から流れる水の音、どれもが見えていた頃よりも鮮明に聞こえてくる。

 改めてこの世界の尊さを実感した瞬間だった。

 ツーリーの声はどうだろうか。

 懐かしいあの優しい声が聞けるのだと思うと胸から込み上げてくる熱いものが溢れてくる。

「この期間で聴こえるようになるとはさすがだ。」

 しわがれた声に耳を傾ける。

「カオさん…?」

 カオさんはわかっていたかのようにもうわたしの頭に触れてくることはない。

「はい…こんなに美しい音が聞こえていたなんて、当たり前の頃は気づきもしませんでした…。」

 嬉しくてまた泣けてくる。

 カオさんも嬉しそうに頷いている様子だった。

 そこでわたしはカオさんと相談して一度ツーリーに会うことにした。

 手紙を送るとその日に返事が返ってきた。

 カオさんが読み上げてくれて、ツーリーは手紙を送って次の日にくると書いていた。

 あまりの速さにカオさんと一緒に驚きもしたが、カオさんも快く頷いてくれた。

 わたし自身すぐにツーリーに会いたくて明日を今か今かと待った。

 次の日、日の出の前に起きてわたしは身支度を整えてツーリーがくる時間より早く家の前で彼を待った。

 まだかまだかと彼を待っていると馬車の音が聞こえてくる。

 わたしは危険だと分かりつつも馬車の鳴る方へ走り出した。

「ナナ!」

 懐かしい声でどこか焦ったような喜んでいるような声色で走ってくるのを感じた。

「ツーリー!」

 急いで彼の足音と声のある方は走り出した。

 おそらくツーリーの方が早かったのか彼が先にわたし素早く抱きしめた。

「会いたかった…ナナ…。」

 彼の声を聞きながら抱きしめられる事に心から喜びを感じていた。

 ツーリーには耳が聴こえることを隠している為、わたしの手のひらに字を書こうとしたのをわたしは止めた。

「…ツーリー…あなたの声が聴こえる…あなたの優しい声が…。」

 嬉しくて彼の手のひらに頬を寄せる。

 ツーリーは驚いているのか固まったまま返事がない。

 それが不安になって彼の表情を確かめたくて彼の頬に触れた瞬間、彼が泣いているのだと気づいた。

「あぁ…ナナ…僕の声が聴こえるんだね…。」

「ええ…聞きたかったあなたの声が聴こえるの…ずっと…ずっとよ…!」

 思わずツーリーを抱きしめれば、彼も抱きしめ返してくれる。

 彼の吐息が聞こえてくる。

 こんな幸せな事はないと本当に思った。

 そんな私たちをカオさんは後ろから見守ってくれている。
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