梅雨の様なこんな雨の日に

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「…スノア夫人…！」

　私が駆け寄ると夫人は微笑みを浮かべながら言った。

「ナナ様…あなたにはお詫びをしようもないほどご迷惑をおかけしました。」

「そんな…あなたのせいではありません。」

　私がそう答えると夫人は首を横に振った。

「私たちがあの子をそうやって育ててしまったのです…だから私もこれからあの子の元へ向かいます。」

「スノア夫人…。」

　彼女は私に深々と会釈すると、平民向けの馬車に乗り込んで先に行った令嬢の馬車の方へ走って行った。

「夫人…。」

　私は母の偉大さを目にしたように思った。

　わたしは彼女に敬意を表してしばらく彼女の向かった方角に頭を下げ続けた。

　顔をあげて気がついたのは、わたしの隣でツーリーも頭を下げていた。

　頭をあげてわたしの方を見ながら言った。

「スノア令嬢は果報者だよ。あんな大きな母親がいてくれるんだから。」

　ツーリーも彼女の方を見つめながらそう呟いた。

「…そうね…。」

　そして私達は身を寄せ合いながら屋敷の中に入っていった。

　屋敷に戻って部屋に入ると、ツーリーは戯けたようにいった。

「ナナは、嫉妬しないんだな。」

「え…？」

　突然の事に頭が真っ白になる。

　ツーリーは続けて言った。

「少しナナが嫉妬するところが見たかったんだけどな…。」

「何言ってるのよ！」

　彼のそんな言葉に嬉しいような恥ずかしいような気持ちになった。

「こんな時に言う事ではないわ。」

「悪い、そうだな。」

　少し残念そうな彼にわたしはボソリと呟いた。

「正直、嫉妬してたよ。あんな風に見せつけられたらわたしだって独占欲があるんだから…。」

「ナナ…。」

　わたしは恥ずかしくなって先に歩いて言った。

　今言った言葉が恥ずかしくてたまらなかったから。

　後ろから歩いてくるツーリーは何も返事をしないので、振り返った時だった。

　彼に手を引かれて振り向いた時、彼の唇と重なった。

　彼は私をぎゅっと抱きしめると、力の限り優しく強引にキスをくれた。

「っ…ナナ…愛してるよ…。」

　彼の瞳が熱くて火傷してしまいそうなほど顔に刺さった。

「私もよ…でもそんなに見つめないで…恥ずかしいわ…。」

　そう伝えるとツーリーは、にこりと笑っていた。

「ナナのそんな顔もかわいいね…。」

　そういうと、わたしの足を持ち上げて横抱きにされた。

「ツーリー…ダメよっ…。」

　ツーリーの考えてることがわかり止めの言葉を伝えたがツーリーはわたしの言葉に待ったなしに歩き出した。

「今日はずっと一緒にいたいんだ。」

　そう言われてわたし達は彼の部屋へと入っていったのだった。