わがままな娘

はなおくら

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 母の言葉通りやってみてから彼を見ると落ち着かない。

 胸が熱くドキドキするかと思えば、顔を背けたくなる矛盾した気持ちになる。

 そんなある夜、セレナは夢のなかで、ロットが自分に背を向けて歩き出す夢を見る。

 追いかけても追いかけても振り向いてくれない。

(待って!ロット…待って!)

 慌てて布団から飛び起きた。周りを見れば、自分の部屋にいた。

 ふと窓から月の光が照らされている。   
 セレナは吸い寄せられるかのように上着を着て静かに庭園へと歩き出した。

 庭園というとやはり、黄色い花畑へときてしまう。

 夜の風は冷たく寒さを凌ぐため、馬車のなかから月見を楽しんだ。

 こうして月を見ながら一人でいると、さっきまでの悪夢がなかったかのように穏やかな気持ちになっていた。

 目を閉じれば、子供の頃ここで遊んだ記憶を思い出す。

(そういえばロットが言ってた、幼い頃私が彼に花束を渡した思い出…。)

 振り返ったその時、突然の頭痛に襲われた。

 頭を押さえながら屈んでいたら、まるで白い霧が晴れたように全てを思い出した。涙が一雫落ちる。

 愛おしい彼はいつもそばにいた。悲しい顔を浮かべながらも、私を優しく見守ってくれていたのに…。

「私はなんて事を……。」

 セレナは走り出す。今すぐ彼を会いたかった。

 ロットは仕事を終えると、セレナの寝顔を見に部屋へと向かった。
 記憶を無くしてからは、部屋も分けており寂しく過ごすこともあった。しかし彼女の安らかな寝顔を見れば安心して体を休める事ができた。

 セレナの部屋のドアをそっと開ける。すると、ベットの上には掛け布団がはいだまま誰もいなかった。

 部屋を見渡すが、誰の気配もしない、窓もちゃんと閉まっている。

 もしやと思いロットは走り出した。

 ロットが庭園へと続く小道に着くと、前からこちらに走ってくる女性が見えた。

「ロットっ!ロットっ‼︎」

 セレナはロットを勢いよく抱きしめた。

 そんな彼女の姿にロットは目を見開き固まった。

「セレナ…もしかして…。」

「えぇ…思い出したのすべて…ロット、ごめんなさい…貴方に辛い想いをさせてしまって…。」

「いいんだ…君が帰ってきてくれるなら…僕は…。」

 2人はお互いを抱きしめあった。

「ロット‼︎」

「あぁ…夢じゃないんだね…顔を見せて…。」

 ロットはセレナの頬に手を添え顔を上げさせると、瞳を輝かせて彼女の顔を眺めた。

 セレナもまたロットの手に手を添えて彼の瞳を覗き込む。

「お母様のいう通りだったわ…貴方はずっと待っていてくれた。…愛しています…。」

 そうして互いにキスを交わしたのだった。

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