愛した人は悪い人

はなおくら

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 レイモンドが、当主のこの家でカルアは何不自由なく暮らしているが、彼がどの領地の人間で、何者なのかは誰も教えてくれなかった。

 言われる事といえば、”ただここでレイモンド様の側にいてほしい”ということだけだった。

 何ともいえない気持ちになりながらも、彼の側は居心地が良かったし、なのん違和感もなく過ごしていた。

 しかし、ある日レイモンドの部屋に飾る花を持っていこうとしたその時、屋敷に一台の馬車が着き、その中から綺麗な女性が降りてきた。

 近くの窓から顔を覗かせていると、穏やかな笑みを浮かべたレイモンドが、その令嬢の手をとって屋敷の中に入っていくのが見えた。

 その姿を見たカルアは、抱えていた花を下に落としたまま身体を震わせた。

 わかっていた事ではあったが、受け入れたくない。

 胸の中にどす黒く沸々と怒りとモヤモヤが沸き起こる。醜い嫉妬に苛まれる。

 カルアは早々にレイモンドの部屋を出て、一息ついた。そしてレイモンドの妹という仮面をつけて、玄関の広間へと降りた。

「カルア!もう知ってると思うが、婚約者のソーレだ。」

 目の前でレイモンドは婚約者のソーレの腰を抱き、彼女を見つめている。ソーレもレイモンドに見つめられ頬を赤く染めていた。

 その光景を見る事が辛かったが、笑顔を作り無邪気に笑った。

「2人ともとてもお似合いよ!…っ…。」

 自分で言った言葉が、何もない虚無感を自分自身に与えていた。

「ありがとう…カルア。私はあなたと実の姉妹の様に仲良くしていきたいわ。」

 ソーレの言葉に、無理やり嬉しい感情を入れて返した。

 そんな様子をレイモンドが複雑に見ていたことをカルアは気づかずに…。

 3人で仲良く会食をして、庭を見て回った。夜も更けた頃、2人っきりにしなければとカルアは席を立ち部屋に戻った。

 その時、愛読している本を忘れてきたときた道を戻り2人のいる部屋に入ろうとしたその時…。

「レイモンド…あなたの命が狙われてから何年も私は待ってるわ…。」

 ソーレが泣きながらそう言った。

「…ソーレ…すまない…。」

「貴方は私を待たせて平気なの?私はすぐにでもあなたと結婚したいのに…。あなたは…。」

「すまない…だが相手もなかなか尻尾を出さないんだ。」

 部屋を覗き込むと頭を抱えて座り込むレイモンドの姿があった。

 そんなレイモンドにソーレはすまなさそうに寄り添う。

「ごめんなさい…1番辛いのはあなたなのに…。でも私の気持ちもわかってほしいの…。それにこれならどうかしら?あなたの命を狙う相手にスパイとしてカルアを送り込むのはどう?」
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