愛した人は悪い人

はなおくら

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 使用人に連れられるまま、レイモンドのいる部屋に通された。

 部屋に入ると、使用人は早々に頭を下げて出て行った。カルアが見つかった事をレイモンドは他の使用人に先に聞いていた。

「レイモンド兄様…?」

 カルアが声をかけると、レイモンドは勢いよく振り返り、カルアの元へ駆け寄り抱きしめた。

「………。」

「兄様、ご無事で安心しました…。お怪我はありませんか?」

 レイモンドの胸の中で、何もバレていないか冷や汗を感じていた。こうして抱きしめられているが、いろんな感情がごちゃ混ぜになる。

「あぁ…なんともない。それより、カルア…こんなに大騒ぎしてる中、お前はどこにいたんだ?」

 カルアはドキッとした。鋭く何もかも見通してしまうような視線に目を合わせることなどできるはずもなかった。

「申し訳ありません…。騒ぎを聞きつけてつい隠れておりました…。」

 咄嗟の嘘が意味がないような気がして、カルアは気が気じゃなかった。

 レイモンドはどこか探りを入れてるような目でカルアを見ているが、再び抱き締めると何も言わずにほほえみ、カルアのおでこにキスをした。

「えっ……。」

 カルアは目を見開き、驚いた。心臓が早鐘を打ち体温が上がるのがわかった。

 このまま、恋人のように寄り添いたい思いを隠して、レイモンドに言った。

「兄様…心配しすぎです!私よりもソーレ様の心配をなさって下さい。きっと心配されているはずです。」

 カルアがそう投げかけると、レイモンドは悲しく笑い、

「そうだな…行ってくる…。」

 そう言って、カルアを部屋に置いたまま、出て行った。

 1人にされたカルアは、急に悲しい気持ちになった。

 疼く胸を両手でおさえた。自分が拾われた子で無く、レイモンドと同じ身分で有ればとソーレの様に堂々と過ごせていたのかもしれない。

 ないものをねだるような想いが、頭を占領する。

 自分の妬みを考える事に嫌気が差してくる。

 カルアは頭を振り、これからここを出ることのみ考えるようにした。

 カルアはシューザの傷を癒すため、急いで薬をとりに行き、雑念を振り払っていた。

 数日が過ぎた。あれからカルアの看病のおかげかシューザの傷はすっかり癒えていた。

 幸いこの場所さえも誰もバレずにいる。

「傷もすっかり良くなったわね。」

「あぁ…君には借りができたな。」

 シューザは申し訳ないと言った表情でカルアに頭を下げた。

「そんな事気にしなくていいわ。それよりも、ここをいつ出るつもりでいるの?」

「あまり長居できない。今日の夜…もしくは明日の夜には出てしまいたい。」
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