10 / 48
10
しおりを挟む
部屋に戻った時、なんだか安堵した。たくさん泣いて食事をとったからかもしれない。
カルアは身体が疲れていたのか、ベッドに横になってすぐに寝息を立て始めていた。
どれくらい眠っていただろうか、目が覚めたとき、窓から月が爛々と輝いていた。おそらく深夜だろう。
すっきりと目が覚めてしまい、外の空気を吸いに、羽織を体にかけてそっと裏庭へと向かった。
月の光のおかげか、裏庭に灯りもなく過ごすことができた。
この屋敷に来てする事を禁じられていたが、今日くらいはとカルアは薔薇の咲く植木の横にそのまま座り込んだ。
上を見れば月、隣をみれば赤いバラから甘く切ない香りが、心を落ち着けてくれた。
目を閉じれば、自然の心地いい空間に身体が包まれているような気になった。
サクッ……。
カルアが目を開けると、レイモンドが立っていた。
「お兄様…?」
呆然とレイモンドを見つめると、彼は口を開いた。
「カルア…どうした?」
「………。」
彼の整った顔立ちに、目が離せなかった。
「いえ…兄様こそ、こんな遅くにどうしましたか?」
レイモンドは頭を触りながら答えた。
「いや、今日は眠れなくてね。窓を見てお前がここにいるのを見かけてね。」
「そうでしたか。」
2人の間に静寂が包まれる。心地いいような緊張するようななんとも言えない気になる。
「お前が今日、元気がなかったが…何かあったのか?」
「いえ…。」
優しいレイモンドの気持ちに、カルアは涙が出そうになるのを力み我慢した。
これ以上ここにいてはいけないような気がして、カルアは立ち上がった。
「そろそろ眠れそうです。お先に失礼しますね…。」
カルアが横を通り過ぎようとしたその時、カルアの体を強く抱き締めるレイモンドがいた。
「兄様…!ご冗談はよしてください…。どうされたのですか?」
高鳴る胸を隠して、彼の胸を押し、何も気にしていないフリをして笑い流そうと努めていると、
「カルア…お前がわたしから消えてしまうような気がして怖いよ…。お前はわたしのそばを離れないだろ?」
すがるような必死なその問いに、嬉しく思う。
何も知らずに彼の側に一生生きていければと思う。でもそれはできない。それならば、彼が安心して過ごせるように考えていきたい。
「レイモンド兄様、そんな事を言ってはソーレ様が誤解されますよ?言う相手が間違っています。」
それでも、強くカルアの体を抱き締めるレイモンドに対して、カルアは瞳を強く瞑り、力一杯彼を両手で押した。
「兄様には感謝しています。ここまで育てて頂いて…。今のわたしは兄様が愛する人と幸せになってほしいだけです。」
カルアは身体が疲れていたのか、ベッドに横になってすぐに寝息を立て始めていた。
どれくらい眠っていただろうか、目が覚めたとき、窓から月が爛々と輝いていた。おそらく深夜だろう。
すっきりと目が覚めてしまい、外の空気を吸いに、羽織を体にかけてそっと裏庭へと向かった。
月の光のおかげか、裏庭に灯りもなく過ごすことができた。
この屋敷に来てする事を禁じられていたが、今日くらいはとカルアは薔薇の咲く植木の横にそのまま座り込んだ。
上を見れば月、隣をみれば赤いバラから甘く切ない香りが、心を落ち着けてくれた。
目を閉じれば、自然の心地いい空間に身体が包まれているような気になった。
サクッ……。
カルアが目を開けると、レイモンドが立っていた。
「お兄様…?」
呆然とレイモンドを見つめると、彼は口を開いた。
「カルア…どうした?」
「………。」
彼の整った顔立ちに、目が離せなかった。
「いえ…兄様こそ、こんな遅くにどうしましたか?」
レイモンドは頭を触りながら答えた。
「いや、今日は眠れなくてね。窓を見てお前がここにいるのを見かけてね。」
「そうでしたか。」
2人の間に静寂が包まれる。心地いいような緊張するようななんとも言えない気になる。
「お前が今日、元気がなかったが…何かあったのか?」
「いえ…。」
優しいレイモンドの気持ちに、カルアは涙が出そうになるのを力み我慢した。
これ以上ここにいてはいけないような気がして、カルアは立ち上がった。
「そろそろ眠れそうです。お先に失礼しますね…。」
カルアが横を通り過ぎようとしたその時、カルアの体を強く抱き締めるレイモンドがいた。
「兄様…!ご冗談はよしてください…。どうされたのですか?」
高鳴る胸を隠して、彼の胸を押し、何も気にしていないフリをして笑い流そうと努めていると、
「カルア…お前がわたしから消えてしまうような気がして怖いよ…。お前はわたしのそばを離れないだろ?」
すがるような必死なその問いに、嬉しく思う。
何も知らずに彼の側に一生生きていければと思う。でもそれはできない。それならば、彼が安心して過ごせるように考えていきたい。
「レイモンド兄様、そんな事を言ってはソーレ様が誤解されますよ?言う相手が間違っています。」
それでも、強くカルアの体を抱き締めるレイモンドに対して、カルアは瞳を強く瞑り、力一杯彼を両手で押した。
「兄様には感謝しています。ここまで育てて頂いて…。今のわたしは兄様が愛する人と幸せになってほしいだけです。」
0
あなたにおすすめの小説
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
貴方の✕✕、やめます
戒月冷音
恋愛
私は貴方の傍に居る為、沢山努力した。
貴方が家に帰ってこなくても、私は帰ってきた時の為、色々準備した。
・・・・・・・・
しかし、ある事をきっかけに全てが必要なくなった。
それなら私は…
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる