愛した人は悪い人

はなおくら

文字の大きさ
11 / 48

11

しおりを挟む
「……カルア……。」

 刹那げに手を伸ばす彼の胸に飛び込みたいが、素知らぬフリをした。

「……わたしはこれで失礼します。」

 これでいい…あれほど力強く抱きしめてもらえた。家族としてでも大切だと言ってもらえた。それだけで、彼の幸せを願う事ができる。

 カルアは、決心など鈍ることもなかった。

 翌日、いよいよ今夜ここを経つ。なにも言わずに出ていけば、捜索願いを出されてしまうだろう。

 考えた末、シンプルに手紙を置いて去る事にした。

 本当の目的は書かずに簡潔に外の世界が見たい事。しばらく戻らず旅をするから、自分を探さずにいてほしいこと。

 手紙を書き終わり、カルアは上を仰いでみた。

 目を閉じれば、レイモンドの姿、声、温もりが思い出される。

「カルア。」

 名前を呼んでもらえて、くすぐったい気持ちになった。今でもその気持ちは変わらない。

 両親を亡くし、絶望の中掬い上げてくれた彼には恩がある。そして、それ以上の気持ちも…。

 こうして、時もあっという間に夜を迎えた。カルアは荷物も少なく、人通りを避けてシューザのいる小屋へと向かった。

 幸い誰にも会うこともなくたどり着けた。

「本当にいいのか?」

 シューザの問いに、カルアは頷いた。

「いいの。わたしは真実をみたい。」

「…そうか…。」

 なんとも言えない様な表情のシューザを横目に、カルアは拳を握りしめた。

「行こうか。」

 シューザのその言葉に、カルアは頷き彼の後ろに付き歩を進めた。

 お世話になった屋敷を背にいつか役に立てる日が来ることを信じて…。


 夜通し歩き続けて日が昇る頃、人通りの少ない木下でしばしの仮眠をとった後また歩き出した。

 シューザは口数が少なかったが、居心地は悪くはなかった。旅も難なく過ごせていた。

 だが最初の村に差し掛かった瞬間カルアにとって驚きの後継を目にした。

 村の中ボロボロに今にも崩れそうな建物が立ち並び、目の前には人々が目が瞳孔を開くほど虚な目をしている。

 カルア自身この光景をよく知っていた。それは両親をも同じ目をしており、また自分もそうだったからだ。

「なぜ…。」

「これもお前の兄が招いた結果だ…。」

「そんな…お兄様は…立派な領主として役目を全うしていたはず…。」

 とても信じられなかった。

「これが事実なんだ。」

 そう言ってシューザは悔しげに歩を進めた。

 2人で散策をしていると、カルアにとって見覚えのある小屋があった。

「ここは…。」

 目の前には大好きな両親と暮らしていた小屋があった。今では別の家族が住んでいたがその家族もまたやせ細っていた。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】時計台の約束

とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。 それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。 孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。 偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。 それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。 中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。 ※短編から長編に変更いたしました。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...