愛した人は悪い人

はなおくら

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「さぁ、今日は何も気にしなくて良い。この部屋も君に用意されたんだ。ゆっくり休んでくれ。」

 そういうとヴィンは、手を振って部屋を出た。

 ヴィンが部屋を出て、ジーヌはベッドに横になった。

 今日はいろいろなことがあった。レイモンドに会えた喜び、そして彼からのキス……。

 レイモンドも同じ気持ちなのだろうか、それとも兄妹としての愛情からなのだろうか…。

 それでもソーレと並ぶ姿を見たくない幼い自分に情けなさも感じて申し訳ない気持ちにもなった。

「私は何をしてるのだろう…。」

 ふと我に帰ると、ヴィンは彼が変わったが、これからだという…。

 でも自分はレイモンドが変わり少しずつ周りが良くなってきている。
 
 しかしそうなると自分はただの邪魔者なのではないかと思っていた。

 レイモンドにはソーレという婚約者がおり、領地も安定している。

 いつまでもヴィンにお世話になるわけにもいかない。

 あぁ…私は結局何も持たない一人なのだと実感する。

 ジーヌはそんな葛藤を巡らせて目を閉じた。

 コンコン

 その時、扉から音が鳴った。

 誰だろう…。

 窓を見てももう暗い、それにジーヌを訪ねる者などいない。

「はい…?」

「………。」

 返事をしても帰ってこない。

「どちら様ですか?」

 その問いかけにも返事がない。

 ジーヌはベッドから降りて、恐る恐る扉を開けた。

 すると目の前にはレイモンドが立っていた。

「レイモンド…兄様…?」

 ジーヌには、今会いたくない人間だった。

「どうされたのですか?」

 誰かに聞いてこの部屋にきたのだろう。ジーヌは努めて明るく声をかけた。

「ジーヌ、君と話す時間もなかったと思ってね…。入っても良いかな?」

 ジーヌはいつものレイモンドの笑顔だが、彼の瞳が何か燃えが上がる様な何かを秘めている気がした。

「えぇ…。どうぞお入りください。」

 そうして気にするのをやめて、レイモンドを部屋に入れた。

 彼を椅子に座る様施して、自分はお茶を入れた。

「どうぞ、兄様。そういえばよくここがわかりましたね。もう夜更けですし…ソーレ様はどうされたのですか?」

「……君はソーレの話しかしないんだね…。」

「えっ…。…っ…それはそうですよ!兄様の……愛する方……なんですから……。」

 ジーヌの言葉にレイモンドは組んでいた手を強く握りしめた。

「……本当にそれだけか?」

「えっ?」

 その瞬間、レイモンドに腕を引かれたと思うとベッドの上へと押し倒されていた。

「私はどうしようもない男だ…。感情的になり守るべき人間を傷つけてきた…。そして周りが決めた相手とも婚約を結び…自分の気持ちは後回しにしようとしていた。…だが……っ…。」
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