花嫁の勘案

はなおくら

文字の大きさ
41 / 45

41

しおりを挟む
 そんな日々で、ヴォンはやはり女性に人気だった。

 新しい孤児院で働く先生方に大人気でいつも囲まれている。

 印象を悪くしてはダメだと、愛想良く笑う彼を見てしかたないと思いつつ面白くなかった。

 彼に声をかけようとして、たくさんの女性に囲まれているのが面白くなくてわたしは彼に背を向けた。

 そんなわたしの様子に彼は気がついていた。

「リア、待ってくれ。」

 振り返るとヴォンはわたしを後ろから抱きしめた。

 それが嬉しいのに素直に慣れずにそっぽを向いた。

「…なんですか…。」

 可愛くない態度をとってしまう。

 そんなわたしの様子を見てヴォンは気まずそうにしつつも笑っている。

「リア、機嫌直してくれ。実は君と行きたいところがあるんだ。明日久々に出かけよう。」

「…わかりました。」

 不機嫌な返事をしつつ、彼と出かけるのは久しぶりな事に気がついた。

 内心ソワソワしながら明日が来るのを心待ちにしていた。

 そんなわたしの様子をヴォンは見透かしたように笑っていた。

 次の日、侍女にお願いしておしゃれな服装に着替えた。

 出かけるには馬車を使うだろうと、玄関で待っていると、ヴォンがラフな格好をして歩いてきた。

「待たせたね。いこうか。」

「はい…。」

 まぁ、どんな格好でも出かけられるのは嬉しいと屋敷を出て前を見ると何もなかった。

「ヴォン、馬車は使わないのですか?」

 わたしがそう聞くと、彼は首を振った。

「今日行くところは馬車は使わないんだ。」

 そう言って、わたしの手を引いて歩き出した。

 いつもなら最低1人はいる護衛もいない、むしろ屋敷の敷地を歩いている様に思う。

 どこへ行くのか不思議に思いながら、屋敷内の庭の少し奥に連れて行かれる。

 不思議に思っていると、目の前に小さな小屋が見えてきた。

「…ここは…?」

 ヴォン様 の方を見ると、彼は笑って答えた。

「私たちの家だ。」

「…え…?」

 わけがわからなかった。

 今きた屋敷が私たちの家ではないのかと思っていたのだが、どうやら違う様だった。

 混乱するわたしの手をまたヴォンは握ると家の中に案内してくれた。

 家の中は本当にこぢんまりとしたところだった。

 一部屋に、ベッドとキッチンだけが付いている。

 なかなか見慣れないものなとだが、不思議と心地いい気持ちになった。

 部屋を見渡すとヴォンはキッチンの前に置いているテーブルに腰掛ける様にイスを引いてくれた。

 わたしを座らせると、彼は目の前の椅子に腰をかけて、向かい合う様に座る。

「ヴォン…いつのまにかこんな可愛いお家を?」

 そう聞くと、彼は照れくさそうに頭を掻いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

再構築って簡単に出来るもんですか

turarin
恋愛
子爵令嬢のキャリーは恋をした。伯爵次男のアーチャーに。 自分はモブだとずっと思っていた。モブって何?って思いながら。 茶色い髪の茶色い瞳、中肉中背。胸は少し大きかったけど、キラキラする令嬢令息の仲間には入れなかった。だから勉強は頑張った。両親の期待に応えて、わずかな領地でもしっかり治めて、それなりの婿を迎えて暮らそうと思っていた。 ところが、会ってしまった。アーチャーに。あっという間に好きになった。 そして奇跡的にアーチャーも。 結婚するまで9年かかった。でも幸せだった。子供にも恵まれた。 だけど、ある日知ってしまった。 アーチャーに恋人がいることを。 離婚はできなかった。子供のためにも、名誉の為にも。それどころではなかったから。 時が経ち、今、目の前の白髪交じりの彼は私に愛を囁く。それは確かに真実かもしれない。 でも私は忘れられない、許せない、あの痛みを、苦しみを。 このまま一緒にいられますか?

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

処理中です...