上 下
16 / 51

16

しおりを挟む
 傷口に布を押し付けるハリアから距離を置こうと暴れた。

 ブローチを取り上げられる事が嫌で彼を拒んだ。

 彼は力強く私の身体を抑えてまた傷口に布を押し付けた。

「何もしない…。」

 そう言って彼は何も言わずに私の傷の手当てをした。

 そして私をベッドに寝させた。

 いろんな事がありすぎたせいか、私は疲れ果てそのまま寝息を立てた。

 翌朝目が覚めると、ハリアは私の顔を見つめて微笑んだ。

「おはよう。」

 いつものように椅子に座らされて朝食をとった。

 以前のように過剰なスキンシップはない。

「ハリア…あの…。」

 気まずい中、せめて傷の手当てのお礼を言おうと口を開いたその時、執事が入ってきた。

 年老いた執事は、ハリアに何かを耳打ちすると、ハリアは私の方をみた。

「すまない、来客がきたようだ。君はここにいてくれ。」

 そう言ってハリアは部屋をでていった。

 一人になると、なんだか寂しさが広がった。

 食事を早々に終えて、窓辺へと足を運ぶと、中庭に二つの人影が見えた。

 そこにハリアとハーブ嬢が、微笑み会いながら歩いていた。

 彼女がハーブの肩に手を置いて、深い仲に見えた。

 自分の気持ちに嫉妬が交差した。

 何故彼は彼女を想っているのに、私をここへ置いておくのかわからなかった。

 普通なら姿を消した事を喜びハーブ嬢を入れるはずだった。

 彼の考えている事がわからず、私はブローチを取り出してその形を撫でて、楽しかった幼少期を思い出していた。

 そんな姿を鋭い目で、見上げれている事にも気づかずに。

 彼との生活の中、ハーブ嬢はかなりの頻度て訪問しているようだった。

 父親の姿は全く見えず、相変わらず窓を覗くと二人は中良さげに中庭を歩いている。

 今は、私の部屋でハリアと夕食をとっている。

 私は、勇気を出して尋ねた。

「ハリア…ハーブ嬢とはどうなの?」

 彼はナイフとフォークを置いて口を開いた。

「…どうとは?」

 彼の問いかけに、不自然にならないように明るくいった。

「窓を見る時彼女と二人でいるのを見かけるの、だからどうなのかなと思って…。」

 私がそういうと、ハリアは笑って言った。

「何も、彼女は最近父君の仕事を手伝っているんだ。その関係で話す事が多くてね。」

「そう…。」

 俯いた私にハリアは言った。

「君が思うような事絶対にありえないよ。」

 顔を上げるとハリアはまっすぐそう言った。

「それに、誰かは知らないけど君を手放す気はさらさらない。」

「そんな…。」

 あんなに彼女の前で笑顔を見せておいてその気はないなんて、彼の気持ちが全く見えなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

BL / 完結 24h.ポイント:1,207pt お気に入り:691

ミルクの結晶

BL / 完結 24h.ポイント:873pt お気に入り:173

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:20,746pt お気に入り:10,508

勇者の幼なじみ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,505pt お気に入り:399

幸子ばあさんの異世界ご飯

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:135

月誓歌

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:656

明日はきっと

BL / 連載中 24h.ポイント:1,086pt お気に入り:1,102

度を越えたシスコン共は花嫁をチェンジする

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,043pt お気に入り:1,943

処理中です...