婚約破棄されても貴方が好き

はなおくら

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 それからは彼の旅行について回った。一緒に行動する事でこれまで見えて来なかった彼の一面をたくさん感じられた。

 その中で一番好きになった表情が笑顔だった。動物に触れるときや嬉しい事があると顔を上げて笑う姿にこちらまで幸せになった。

 今彼とは、森の深い中テントを二つ張り、目の前には焚き火を焚いて夜空を見上げている。

 顔を上げると、令嬢の時には体験できない光景が広がっている。星が瞬いてずーっと見続けていると、ぽつぽつと星が流れるように動いているのがわかる。

「綺麗ですね…。」

「あぁ…。僕は小さい時からこの空間が大好きだった。自然は不便でもあるが、自分がこの中の一つになれたような気がして不思議と寂しくなくなる。」

 口に出しては言えないが、寂しいと言う感情はわかる気がする。何不自由なく色々なものを与えられ、飢えるという事は知らないが、なんと言ったらいいのか温かみを感じられない。

 だからこそ私達は、結婚相手に自然とそれを求めてしまうのかもしれない。

 私は、彼にその愛情すら感じさせてあげられなかったのだろう。情けない話ね。

「アレク様は、今の生活にご不満ですか?」

「いや、不満ではあるが自分の立場を弁えているつもりだ。たしかに何もかも捨てて投げ出して仕舞えばそれも楽しいかもしれない。だが僕の生まれた場所には自然と責任が乗っかっている。でもそれを嫌とも思っていないんだ。」

 彼は責任感のある人なのだろう。だからこそ息抜きにこうして自分を満たそうとしている。

 私は?

本当にこのままでいいのだろうか、彼の後ろをついて回って何か答えが出るのだろうか。でも今はまだその事について考えたくはない。

 そうしてまた空を見上げて彼と微笑み合い、夜を過ごした。

翌朝、目が覚めると昨日木漏れ日が、顔に差し込む。

「おはよう…。」

 目の前に彼がサンドウィッチを持ってテントの布をあげていた。

 そこでハッとした。彼の身の回りの世話をするために雇われた使用人が、主人より後に起きるなんて。

「申し訳ありません‼︎急ぎで支度を…!」

「いいんだ。ここでは君と僕は同等だ。それより僕の作った料理味見してくれ。」

 差し出されて見ると、見た目は不恰好だったが、食べて見ると優しい味がした。

 昔貴族の勤めで、街の人達の生活を見て回る機会があった。その時、母親の手料理を嬉しそうに食べている子供の顔を思い出した。

 自分も今そんな顔をしているのだろう。

「どうかな?」

 じーっとこちらを見ていた彼に笑って言った。
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