婚約破棄されても貴方が好き

はなおくら

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 それから社交シーズンも終わり、元の生活に戻った。変わったことといえば、小侯爵様と手紙のやりとりをして、たまにお茶を楽しむようになった。

 父の目を欺く協力もしてくれている。そして待ちに待った彼との旅行の勤めが始まる。

 最後にあったのはあの社交界での時のみ。少し胸は痛むが、それでも一緒にいたい気持ちが走る。

 ベッドの横には彼からの呼び出しの手紙を置いている。明日からの為、荷造りを済ませた。

 早く明日が来て欲しいと胸を高鳴らせていた。

 ベッドに入ってもなかなか眠れず、結局そのまま朝を迎えてしまった。

 鏡を見てみると目の下に隈ができていた。彼がこの姿を見たら幻滅するだろう。そう思って少し濃いメイクをした。

 準備が整い、急いで彼の屋敷まで早歩きで急いだ。

 息を切らせて彼の屋敷の門の前に着いた。息を整えようと足に手をついた。

「おはよう、ジニア。」

 顔を上げると、彼が優しい笑顔で馬車の前に立っていた。そのまま二人で乗り込んだ。

「おはようございます。お早いですね…お待たせしましたか?」

「いや、僕も今来たところだ。」

 彼の顔をみるとどこかご機嫌に感じる。口を上げて窓を見つめている。その光景があまりに美しくて眩しく感じていた。

 ふと彼がこちらを向いて、驚いた顔をしている。そこからの記憶が途切れた。

 暖かい…何かに揺られている。頭から暖かい感覚がして目が覚めた。しばらくはぼーっとしていたが、馬車に揺られているのだと自覚した。

「ジニア?」

 名前を呼ばれてピントこなかったが、徐々にこれは私の名前だと思い出した。

 そして彼の膝を枕にして眠ってしまったのだと自覚した。

「アレク様!申し訳ございませんっ!」

 慌てて起き上がったからか少し立ちくらみがして頭を押さえた。

 すると彼の暖かい手が伸びて、私の頭を優しく撫でた。

「気にしなくていい。君が気を失った時びっくりした。だがすぐ寝息が聞こえたから安心したよ。」

 顔を上げると優しい顔がこちらを覗き込んでいた。その表情に顔が熱くなって目を逸らした。

「ありがとうございます。お陰でだいぶ良くなりました。これは挽回しないとですね!」

 そういうと、彼は声をあげて笑った。こんなに笑った彼は初めて見た。また新しい彼が知れた…。

「ハハハッ…!すまない…君の表情があまりにも可愛くてね。」

 その時ふと思った。彼から見れば、顔を覆っている人間が不気味ではないのだろうか。

「不気味ではないのですか?」

「何がだ?」

「顔を覆っている事がです。」
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