婚約破棄されても貴方が好き

はなおくら

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「君が好きだ。…こんな気持ちは初めてなんだ…。それに他人行儀にせず僕の名前を言ってくれ…っ…!」

 聞きたくてたまらなかった彼の言葉を偽りの姿で聞けるなんて…。でもこれも最後なのだろう。それならその言葉を心に焼き付けよう。

「ごめんなさい…。」

 そう言って彼の肩を押して馬車から出ようとしたその時、体が宙に浮いた。

 気づけば、馬車を降りて彼の腕の中にいた。抵抗しても離さないと言うようにグッと抱き抱えられている。

 そして彼は自分の屋敷へとズンズンと入っていった。

「ご主人様!いけませんっ…どうかっ!」

 慌てるわたしを無視して屋敷の中に入り、奥へと進み一室の部屋へと入るなり、わたしをベッドへと投げた。

 その隙をついて逃げるようにベッドから降りようとするわたしを逃さないとでも言うかのように、両腕を掴まれて捉えられてしまった。

「やめてくださいっ!こんなことすれば貴方の名に傷がついてしまうっ!」

「それでもいいっ…!君が側に居てくれるならっ…。」

 その瞬間、私の唇に暖かく優しい感謝があった。彼からのキスだ。

 抵抗して強張っていた身体が、図らずも力が抜けてしまう。このまま彼と甘い時を過ごしていたい。

 無意識に手を伸ばして彼を抱きしめようとした瞬間、理性が戻った。

 このまま流されてしまえば、彼の名誉もない。

 わたしは本当の自分の姿を彼に見せることにした。

「アレク様…いえ…アレクサンダー様…。」

 これの名を口にした瞬間、彼の動きが止まった。その隙をついてベッドから素早く降りた。

「ジニア!」

 わたしを呼ぶ彼の瞳。自分に向けて欲しくてたまらなかったあの瞳。

 正直本当の姿を見せる事が怖くて仕方がない。息を大きく吐いて震える体を落ち着かせた。

「アレクサンダー様…。貴方にお別れを告げるには私に問題があるからです。」

 そう言って顔を覆っていたローブを外した。

 彼は目を大きく見開いたまま動かない。

 終わった……。

 何も言わない彼の横を私も何も言わずに通り過ぎて言った。

 周りのことなど気にもならなかった。唯暗く寒い外をとぼとぼと歩いていく。

 その時横から一台の馬車が止まった。何も考えたくなくて横を通り過ぎようとした時、後ろからぎゅっと抱きしめられた。

 力なく顔を上げると、そこにはアドリア小侯爵様がどこかつらそうな顔をしていた。

「小公爵様?」

 小侯爵様は、私をぎゅっと抱きしめると、何も言わずに馬車に乗せてくれた。

 いつもならお断りするのだが、今日は疲れているのか何も言えずに馬車に乗っていた。

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