婚約破棄されても貴方が好き

はなおくら

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「チュッ…。」

「ひゃあっ…‼︎」

 彼がわたしの耳にキスを落とした。

「やめてっ…!」

 顔をそらそうとすればするほど、彼はわたしの耳に何度もキスをする。

「アレク…呼んで…?」

 私は居た堪れなくなり、喉を震わせながら彼の名前を声に出した。

「ア…アレク…。」

 声に出してみると、好きな人の名前がとても素敵で特別なものだと実感する。彼の顔を見てもう一度言いたくなり、彼の顔を見てもう一度言う。

「アレク」

 嬉しくなりつい笑ってしまう。しばらくして彼から何の返事もないことに気がつき彼の顔をみると、彼は顔を手で覆っていた。

「アレク?」

 彼の顔を見ようと顔を上げて覗き見ようとした瞬間、彼の顔が近づいた。

「…んっ!」

 気づけば唇を奪われていた。甘くて優しいキス、彼が優しく頭を撫でる。

 その心地が幸せで、時間を忘れていく。唇が離れた時、思わず縋りたくなり、彼の袖に掴んでいた。

「ジェニ…。君がこんなに可愛らしい人だったなんて…。」

 彼が余裕もなく言うその言葉が嬉しい。

「アレク、私をそうさせるのは貴方だからよ。」

「それは光栄だよ。」

  お互い見つめ合い微笑みあった。そしてまたどちらからともなく唇を重ねた。

 まるで一つのものが離れ離れになっていてそれをつなぎ合わせるように長い間愛を確かめ合ったのだった。

 それからは本当に忙しかった。婚約のお披露目会を再度開催することになった。

 はじめての頃は、2人とも両親の言われるままこじんまりとした婚約式だったが、今回はアレクを始め私自身も望み自分たちで決める事が多く目まぐるしい日々を送っていた。

 婚約式の3日前、私はアドリアに直接報告したくて彼の邸宅への訪問したいと手紙で送った。

 彼もまた二つ返事で快諾してくれた。

 すぐに準備が整い、アレクが外出している時を見計らって馬車に乗り込んだ。

 やましい事はないが、彼が知れば嫌な気を起こすだろうと考えていた。

 今回アドリアに会うのは、別れを切り出すためであった。

 本当なら友人として仲良くいつまでもいたかったが、私自身も恋をすると、人を愛すると近くにいれば苦しいことも知った。

 だからこそ大切な友人を傷つけてしまいたくなかった。

 アドリアの邸宅につき、邸の者に案内してもらい客間に通してもらった。

 お茶を飲みながらしばらく待っていると、神妙な顔をした彼が音もなく部屋に入ってきた。

 私自身もアドリアの顔を見つめる。きっと彼と同じ顔をしていたと思う。

「………。」

「……………。」

 お互いどちらからも切り出せずお互いの顔を見合う。
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