婚約破棄されても貴方が好き

はなおくら

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「僕は何も言う事はないよ!」

 そう言ってアドリアは笑っていた。私はその笑顔を見て安心した。

「行こう……。」

 アレクが乗り込むと早々に馬車動き出した。

 馬車が動き出しても私は決して後ろを振り向かないと決めていた。そんな私の手をアレクは優しく包み込んでくれていた。

 アドリアの邸が見えなくなった頃、涙で顔が赤く腫れていた。

 そんな私の様子をアレクは少し不機嫌そうにしながらも濡れたハンカチで冷やしてくれた。

 彼に何と言っていいのか、何から切り出せばいいのか分からず、何か言おうと口を開いた。

「今日は驚きました!私の行き先がわかるなんて!」

 自分で墓穴を掘った事は自覚していた。弁解する言葉も出てこず緊張して何も言えなくなった。

「…わかるよ。君が朝からソワソワしていたからね。でも…何も言ってくれないのはショックだったよ。」

 そう言ってアレク様はしゅんとした顔で俯いた。

「違うんです!…これには訳がありまして…。」

 私は彼の顔に近づきなんとか誤解を解こうと口を開こうとした瞬間…。

「んっ…!」

 アレク様がわたしの唇にキスをした。そのキスは優しくもあり少し強いキスだった。

 私は彼に心配をかけてしまっていたのだと気づいた。私は申し訳ないと思いながら彼の背中に手を回すと彼もわたしの腰に手を回してされるがままになっていた。

 暗くなりようやく邸に着いた。彼の後に続いて降りようとしたその時、彼は私を横抱きにして、屋敷の中に入っていった。

 遅く帰ってきたせいか、中には2人のメイドと執事長が帰りを迎えてくれた。なのにアレクは気にした様子もなく私の部屋へと向かうと、私をベッドの上へと優しく乗せてくれた。

 2人だけの時間を過ごすのかと私は期待したが、アレクはそのまま私の部屋のドアへと向かっていた。

 私は彼が気にしているのだと気が付き急いでベッドから降りて彼の背中から抱きしめた。

「ごめんなさいっ…!」

「いいんだ。君が僕のためにしてくれたことなんだから…。」

 悲しげな声色が帰ってきたその時自分が不甲斐ない気持ちになった。
 アレクは自分の気持ちを我慢しようとしている。そうさせたのは紛れもなく自分自身だった。

「アレク…私の顔を見て…。」

 彼が今どんな表情をしているのか見たかった。

「今の僕は君に顔向けできないよ…。」

 彼からの拒絶が悲しくなってきた。それでも彼の顔が見たくて、彼を繋ぎ止めたまま自分から彼の顔を見るために彼の顔の方へ回った。

 私は彼の表情を見て目を見張った。
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