愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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 それから今吉の家ではささやかだが、結婚式が行われた。

 何故か今吉の隣には大きな狐二匹が大人しく座っている。

 きよが夫になる人の顔を盗み見たが、相手はこちらをみようとはしない。

 少し寂しい気持ちになった。

 参列者の男たちは祝いだ、祝いだと踊り周り、女達は食事のおかわりやなんやらで動き回っていた。

 目の前には豪華な食事が並べられていたが、気が進まず喉も通らない。

 心細い気持ちになった。

 それから宴会は深夜まで続いた。
 
 ずっと座って居ると、横から今吉がぶっきらぼうに声をかけてきた。

「……もう寝ろ…。」

 キヨは嫌われて居るのかと気持ちが沈んだ。

「…はい。明日からよろしくお願いします。…お休みなさい。」

「………。」

 正座して手を前につき頭を下げるキヨに返事もない。

 キヨはそろりそろりと母に付き添われて部屋で寝巻きに着替えた。

 キヨが去り、無表情の今吉に村長は呆れて話しかけてきた。

「今吉、お前きよさんに惚れてるだろ?わしにはわかるぞ。大方恥ずかしくて話しかけることもできないんだろ。」

 村長にそう言われた瞬間今吉は顔を手で覆い、赤い顔を隠した。

 そう。今吉はきよに興味がなかったわけではない。
 むしろ初めて姿を見た時から見惚れて固まってしまい、この様だ。

 村長は小さい時から面倒を見てきており、息子のように思っていた男の表情に喜び微笑んでいた。

 それから親戚が散り散りに帰宅した。

 最後に両親が帰る時見送りをした。

「頑張るんだよ。」

 母はそれだけ言って去って行った。

 静かになったこれから住むと自分の家を見上げた。

 心細かったがとりあえず寝ようと家に入り布団に横になった。

 目を閉じて眠りを待って居ると、襖が静かに開く音がした。

 今吉が入ってきた。
 キヨは布団から起き上がり、口を開く。

「すみません…わたしだけ先に休ませていただいて…。」

 キヨが遠慮深げに見つめて居ると、今吉は背を向けたまま動かなくなった。

「………今吉さん…?」

 きよの呼ぶ声に今吉は一度肩を揺らした後言った。

「…今日はもう寝ろ……。」

「…はい…お休みなさい…。」

 そうしてキヨは布団に横になった。

 眠るキヨの横で今吉は顔を真っ赤にして悶えていたのだった。

 翌朝、日も開け切らぬままキヨは台所を見て周り、朝食を作り出した。

 今吉の仕事は田んぼが主流で、米はたくさんあったが他の調味料や食材は少ない。

 キヨは使い切らないようにちょっとずつ付け足し料理の味付けに工夫をする。

 お米を炊いて釜と睨み合いをして居ると、足音が聞こえてきた。
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