愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

文字の大きさ
3 / 38

3

しおりを挟む
「……起きてたのか…。」

 キヨは慌てて立ち上がると口を開いた。

「おはようございます。朝食がもう出来ますので少しお待ちください。」

 今吉の返事も聞かぬまま、きよはお米の窯元と睨み合っていた。

 ご飯の準備ができたと善を運ぶと、暖炉の前に今吉が座って待っている。

「お待たせしました。」

 きよがご飯をよそって出す。

 すると昨日見た二匹の狐が部屋に入り今吉の両サイドに座った。

 狐たちは普通の狐にしては大きかった。

 きよは、狐たちにもご飯が必要なのか悩んだ。
 何を出せばいいのだろう、そう悩み狐たちの方を見て居ると。

「…きつめときつなだ…。」

「…えっ…?」

 今吉が言ったのは理解して居るが、急に言われた為、きよは固まってしまった。

「こいつら、雑食だから自分達で獲物捉えて食べるんだ。この家では肉がある時以外は出さなくていい…。」

 今吉はそういうと、きよの作ったご飯をかきこんだ。

 きよは納得して、手を合わせて食事を始めた。

 食事が終わり身支度をして、今吉の田んぼの手伝いをしようと玄関に向かうと今吉が道具を持って待っていてくれた。

 きよは頬を染めて嬉しくなった。

「お待たせしました。」

 きよが声をかけると今吉は立ち上がり二人で畑に出て行く。

 田んぼに出ると、今吉はきよが慣れていない事は分かっていたのかぶっきらぼうながら丁寧に教えていく。

 きよも真剣に身につけようと動いた。

 昼飯時に、今吉は何も言わず黙々ときよの作ったおにぎりを頬張る。

 頬が膨らむ様子が可愛くきよがくすくすと笑うと、今吉は顔を赤くしたまま、またおにぎりを頬張る。

 そしてまた仕事を再開させた。

 夜も暗くなる頃、きよは今吉に声をかけた。

「今吉さん、夕飯の準備の為先に帰ります。」

「……あぁ…。」

 今吉の返事にきよは荷物を持って家路に戻ろうとするといつのまにか2匹の狐、きつなときつめがついてきた。

 きよが微笑んで恐る恐る二匹の頭を撫でると、二匹とも嬉しそうに擦り寄る。

「ありがとう…。」

 そうして一人と二匹でで楽しく家路についた。

 その後ろ姿を今吉は微笑んで見ていた。

 夕飯の支度が終わり、今吉の帰りを待つが一向に帰ってくる気配がない。

 外を見るともう暗くなっており心配だ。

居間ではきつなときつめがくつろいでいる。

 きよは心配になり、近くまで出ることにした。
 家を出て少し進むと、今吉と見知らぬ女性が話をしていた。

 慌てて木の後ろに隠れて、状況を見た。

 声は聞こえないが、今吉が嬉しそうに笑いながら話をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...