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「あっ…そんな…っ!」

 狼狽えるキヨを思いやれるほどの余裕はなかった。

 体を逆転させて腰を動かす。

 下で快感に溺れる妻を見つめる。可愛くて仕方がない。

 だが可愛いなんて浮ついた事を今吉の性格からいえなかった。

「あっ…お前さん…。」

 涙を浮かべて自分を見る姿は天女のようだと思った。

 白い肌にふっくらとした胸、何より彼女自身、そばに居ると落ち着いてくる。

「あっ…もう…。」

 彼女の催促に腰を早めて共に果てた。

 そしてひさしぶりに2人で過ごす時間を大切にして時間が過ぎていった。

 普段の生活に戻った頃、今吉とキヨが畑仕事を終えて家路に向かっていると、自分たちの家の前に立派な服を着たお武家様方が何人も並んでいた。

 2人で顔を見合わせて、家に近づくと4人ほどの武家の方の真ん中に梅の侍女が立っていた。

 侍女はこちらを見るや否や深々とお辞儀をした。

 それから家に上がってもらい、キヨがお茶を差し出し座るや否や、侍女は横に置いていた風呂敷を前に差し出した。

「……これは…?」

 侍女はしばらく黙っていたが、意を決したように口を開いた。

「姫様から今吉に夫になっていただきたいと…。これはその…。」

 侍女は言いにくそうに目が泳いでいた。

 ドンっ

 何事かと驚いたキヨが横をみると床を拳に叩きつける今吉がすごい形相で侍女を睨みつけていた。

 侍女も肩を震わせて怯えている。

「それを持ってお引き取りください。わたしは妻と離縁するつもりも、姫様と婚姻を結ぶつもりもない…。」

 今吉の答えを聞くと侍女たちは早々に家を出ていった。

 侍女たちが出てから気まずい雰囲気が流れていった。

 キヨも俯いたまま動けずにいた。

 そこへきつめときつなが帰ってきた。2人の様子を感知したからなのか、二匹は2人のそばに駆け寄り頬を舐めた。

 キヨは、きつなの頭を撫でると明るい声で、

「ご飯の準備をしますね!」

 そう言って炊事場に行きご飯を作り出した。

 今吉はきつめを撫でながら何も言わずにいた。

 ご飯の用意が出来、2人で食卓を囲む。

 この日はどちらも何も発さずに夜が過ぎていった。

 それからあの日の事がなかったかの様に時間が過ぎていき、2人の間といつも通りに戻っていった。

 春、夏、秋と季節が過ぎ冬に入り、今吉が街に米を売りに行く季節がきた。

 キヨは長旅の今吉の支度をしていた。

 今吉の切る上着に度の無事をひと縫い思いを込めて塗っていく。

「キヨ…夜も遅いからもう寝ないと…。」

 心配する今吉にキヨは笑った。

「遠くにいく貴方の方が何倍も大変です。わたしのできる事をしないと…。」

 そうして手を進めていった。
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