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 キヨはその言葉で涙が溢れそうになった。自分勝手な事をした自分を思い続けてくれているのかと。

「…それで……。」

 早く続きが聞きたくて杉沢の顔を見つめた。

「はい…娘は…私が甘やかした結果だと思っています。すぐに尼として生きていく様知り合いの寺に預けました。ですが囲っていた男は…あまりに不憫でこちらで面倒を見る事にしたのです…。」

「…不憫?」

 娘を手放すのは親として胸が張り裂けそうになるほど苦しかった事だろう。その事には、怒りもあったが同情が強く出てしまった。

 だが今吉の事は、悪いとはいえなぜ面倒を見るほどになったのだろうか。

 キヨの疑問に杉沢は答えた。

「名を今吉といいます…私達が見つけたときには…目も精神的な関係で失明しており…私達がいくら声を掛けても返答がありませんでした…。唯これは後から調べた事ですが…その者には奥方がおり…その方を探したのですが未だに見つからないのです…。今吉にはなにも届かない中唯一その奥方の名をつぶやいているのです。」

 やはり今吉だった。我慢していた涙が溢れ止まらない。戸惑う杉沢を横目に涙を流していた。

 しばらく経った頃、気遣わしげな様子で杉沢は言った。

「巫女様には、その者を治して頂きたい。…これが私の贖罪と思っております…。」

 目の前の男は眉間に皺をやり後悔しきった顔をしていた。

 そんな男を恨むことなど出来るはずもない。それに今吉の面倒を近くで見れるのならばこんな幸せな事は無いと思った。

「わかりました…私の出来る事をさせて頂きます。」

 そうしてキヨは離れに住むという今吉の部屋に通された。

 目の前には窓も戸も閉め切ったまま暗い部屋に一人ぽつんと座っている今吉がいる。

 痩せ細り、目に光がない。キヨにとってはショックが大きかった。
 あんなにも逞しく自分を包み込んでくれた人がここまで変わってしまうなど想像もできていなかった。

 しばらく見つめ続けていると、案内人がいくつか説明してくれた。

「ここでの注意点と言いますと、まず今吉殿の体には触れない様にお気をつけください…触れられると今吉殿がひどく怯えてしまうのです。そのほかは巫女様のお心のままに…。」

 そう言うと案内人はサッと逃げる様に出て行った。

 その背中を見送った後、キヨは今吉をみつめた。

「…キヨ……キヨ…。」

 虚な顔のまま自分の名を呼ぶ彼を見て一刻も早く助けたいと心から思った。

 それから手始めに部屋の掃除を始めた。体を動かして部屋をきれいにして尻目に彼が座っているのを見ると一緒に過ごしていた日々を思い出す。
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