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愛おしい人(2)
「んぎゃ……、きゃっ……」
アンネッテの腕の中には、赤ん坊がいた。
「ちょうどこの子のおむつを交換していて。もう、本当にタイミングが悪いんだから」
ハイナーは立ち上がり、彼女の腕の中の赤ん坊に視線を移した。
ハイナーと同じ金色の髪。ハイナーと同じ碧色の瞳。
そして、どことなくアンネッテに似ている鼻の形。
「俺の子、だな」
そう、ハイナーには自信があった。間違いなく自分の子であると。
その質問に、またアンネッテは夕焼けが空を染めていくように、頬をオレンジ色に染め始めた。そして、ゆっくりと頷く。
「男の子、だな。名前は?」
「ハイネス」
また、恥ずかしそうにアンネッテは俯く。ハイナーとアンネッテの名前を足したような名前だ。
「勝手につけてしまって、ごめんなさい」
「いや、いい名前だ。抱いてもいいか?」
アンネッテは黙って頷くと、腕の中にいた赤ん坊をハイナーの腕へ渡した。
「ちょうど首も据わり始めたところだから」
「ああ、ダメだ、緊張してしまう。俺が抱っこすると、潰しそうになってしまう」
その言葉を耳にして、アンネッテはふふっと笑った。
「こうやって見ると、本当にそっくり」
ハイナーが自信をもって自分の子であると思えるほど、ハイネスはハイナーに似ていた。
「ハイちゃん、ハイちゃん」
という女の子の声が聞こえてくる。
「こら、カローラ。今、お客さんが来てるから」
という姉の声。
その部屋の扉が開いたかと思うと、小さな女の子とアンネッテの姉の姿が現れた。
「ハイちゃん、ハイちゃん」
と女の子はハイネスを抱いているハイナーに近寄ってくる。
「ハイちゃん、ねんね?」
「ああ、眠ってしまったようだな」
ハイナーは目を細めて、答えた。ハイナーに抱かれたハイネスは、その瞼を閉じて、すぴすぴと鼻を鳴らしている。
「ハイちゃん、パパ?」
ハイネスの父親か、と聞いている。
「ああ」
そう答えることができて、なぜかハイナーは嬉しくなった。
「ハイナーさん、今日、ここに泊まっていく?」
と姉に聞かれ、思わずハイナーは抱いていた腕に力を入れてしまった。すぴすぴと規則正しく鳴いていたその鼻が、ふごっと不規則な音を立てる。
アンネッテは腕を伸ばして、ハイネスを受け取った。左腕にお尻を引っ掛け、肩にその小さな頭を預けるように抱き上げる。そして空いている右手でぽんぽんと背中を規則的に優しく撫で始めた。器用に抱いているな、というのがハイナーの印象。
「遠征帰りだから、休暇中でしょ? そうしたら?」
アンネッテが嬉しそうに言った。
大好きな彼女からそんなお誘いを受けたら、断りたくない。だが、ここは彼女の姉の家であって、彼女の家ではない。
「今日ね。旦那も王宮に呼ばれていて、あっちに泊まりなのよ。だから、この家に男の人がいると心強いんだけど」
という、姉の言葉。それはハイナーに対する気遣いと、妹に対する思いやりだと思われる。
「お姉ちゃんもこう言ってることだし。ね」
だから、大好きなアンネッテからこんなお誘いを受けたら、ハイナーだって断りたくない。
「では、その。お世話になります」
と、ハイナーは答えていた。
いつの間にかハイネスも、すぴすぴと鼻を規則的に鳴らしていた。
「そうと決まったら、アン。ハイネスを預かるわ。あなたたちは買い物ね」
アンネッテがそれに答えるよりも先に、姉にハイネスを奪われてしまう。さらに、早く買い物に行ってきなさい、と追い出されてしまう。
カロちゃんもねんねする、と背中から声が聞こえてきて、子供たちはお昼寝の時間か、とハイナーは思った。
アンネッテの腕の中には、赤ん坊がいた。
「ちょうどこの子のおむつを交換していて。もう、本当にタイミングが悪いんだから」
ハイナーは立ち上がり、彼女の腕の中の赤ん坊に視線を移した。
ハイナーと同じ金色の髪。ハイナーと同じ碧色の瞳。
そして、どことなくアンネッテに似ている鼻の形。
「俺の子、だな」
そう、ハイナーには自信があった。間違いなく自分の子であると。
その質問に、またアンネッテは夕焼けが空を染めていくように、頬をオレンジ色に染め始めた。そして、ゆっくりと頷く。
「男の子、だな。名前は?」
「ハイネス」
また、恥ずかしそうにアンネッテは俯く。ハイナーとアンネッテの名前を足したような名前だ。
「勝手につけてしまって、ごめんなさい」
「いや、いい名前だ。抱いてもいいか?」
アンネッテは黙って頷くと、腕の中にいた赤ん坊をハイナーの腕へ渡した。
「ちょうど首も据わり始めたところだから」
「ああ、ダメだ、緊張してしまう。俺が抱っこすると、潰しそうになってしまう」
その言葉を耳にして、アンネッテはふふっと笑った。
「こうやって見ると、本当にそっくり」
ハイナーが自信をもって自分の子であると思えるほど、ハイネスはハイナーに似ていた。
「ハイちゃん、ハイちゃん」
という女の子の声が聞こえてくる。
「こら、カローラ。今、お客さんが来てるから」
という姉の声。
その部屋の扉が開いたかと思うと、小さな女の子とアンネッテの姉の姿が現れた。
「ハイちゃん、ハイちゃん」
と女の子はハイネスを抱いているハイナーに近寄ってくる。
「ハイちゃん、ねんね?」
「ああ、眠ってしまったようだな」
ハイナーは目を細めて、答えた。ハイナーに抱かれたハイネスは、その瞼を閉じて、すぴすぴと鼻を鳴らしている。
「ハイちゃん、パパ?」
ハイネスの父親か、と聞いている。
「ああ」
そう答えることができて、なぜかハイナーは嬉しくなった。
「ハイナーさん、今日、ここに泊まっていく?」
と姉に聞かれ、思わずハイナーは抱いていた腕に力を入れてしまった。すぴすぴと規則正しく鳴いていたその鼻が、ふごっと不規則な音を立てる。
アンネッテは腕を伸ばして、ハイネスを受け取った。左腕にお尻を引っ掛け、肩にその小さな頭を預けるように抱き上げる。そして空いている右手でぽんぽんと背中を規則的に優しく撫で始めた。器用に抱いているな、というのがハイナーの印象。
「遠征帰りだから、休暇中でしょ? そうしたら?」
アンネッテが嬉しそうに言った。
大好きな彼女からそんなお誘いを受けたら、断りたくない。だが、ここは彼女の姉の家であって、彼女の家ではない。
「今日ね。旦那も王宮に呼ばれていて、あっちに泊まりなのよ。だから、この家に男の人がいると心強いんだけど」
という、姉の言葉。それはハイナーに対する気遣いと、妹に対する思いやりだと思われる。
「お姉ちゃんもこう言ってることだし。ね」
だから、大好きなアンネッテからこんなお誘いを受けたら、ハイナーだって断りたくない。
「では、その。お世話になります」
と、ハイナーは答えていた。
いつの間にかハイネスも、すぴすぴと鼻を規則的に鳴らしていた。
「そうと決まったら、アン。ハイネスを預かるわ。あなたたちは買い物ね」
アンネッテがそれに答えるよりも先に、姉にハイネスを奪われてしまう。さらに、早く買い物に行ってきなさい、と追い出されてしまう。
カロちゃんもねんねする、と背中から声が聞こえてきて、子供たちはお昼寝の時間か、とハイナーは思った。
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