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優しい人(1)
アンネッテ姉の気遣いというかお節介により、彼女と二人で買い物に出てきたハイナーではあるが、いろいろと言いたいことが胸に痞えてしまって、何も言葉が出なかった。
だから、そっと彼女の手を握る。
「買い物は、どこまで行くんだ?」
当たり障りのない内容を尋ねた。
「すぐ近くにね、いろんなお店があるの。ここね、住宅地なだけあって、お店もたくさんあるのよ。今日の夕飯のお買い物と、それからハイナーの着替えを買いにいきましょう」
一年前、あんな別れ方をしたにも関わらず、彼女は以前と同じように話しかけてくれる。
あの「別れて欲しい」という言葉。あれをどう受け止めたのか。どんな思いでこの一年を過ごしていたのか。
「アン。俺は君に酷いことを言った。だから、ずっと謝りたいと思っていた」
視線を足元に向けて、ハイナーは呟いた。それに対して、アンネッテは「うん」と頷いただけだった。
そこでギュッと強く手を握られた。驚いてハイナーはアンネッテに視線を向ける。
「私も、ハイナーに言いたいことたくさんある」
するとアンネッテはハイナーを引っ張るようにして歩き、一軒のカフェに入る。適当に飲み物を頼むと、オープンテラスへと移動する。
「はい。ハイナー。これ、好きでしょ」
「ああ、ありがとう」
こうやって彼女は、自分の好きなものも覚えてくれている。温かいカフェラテを渡された。しかもたっぷり砂糖入り。
二人は丸いテーブルを挟んで、向い合って座った。
こうやって向かい合ってしまうと、言葉が込み上げてくるのだが、それが全て喉につかえてしまう。
「それで、謝りたいことって何?」
恐らく、彼女がそう言わないと、必要な情報が引き出せないと思ったのだろう。
そう言う彼女の目は、怒っているわけではない。いつものように優しさに溢れた目。
ほら、怒らないから正直に話しなさい、といたずらをした子供から情報を引き出す母親のような顔をしていた。この場合、怒らないからと言って正直に話をすると怒られるパターンが一般的であるのだが、果たしてアンネッテの場合はどうだろう。
「その……。あの、まあ。あれ、だ。その、一年前。俺は君に酷いことを言った。あれは、嘘だ。その、君の他に好きな人などいない。あのときも今も、俺が好きなのは、アンネッテ、君だけだ」
ハイナーは一生分の勇気を使い切ったのではないかと思った。先日まで対応していたあの魔物討伐でも、こんなに緊張したことはない。
「あの日、あなたがウソをついていること、私は気付いてた」
ふぅ、とアンネッテは息を吐いた。
「ハイナーはね、ウソをつくときに、ちょっとだけ瞬きの回数が増えるの。私の失敗した料理を美味しいって言ってくれるときとか。本当は疲れているのに疲れていないって言ってるときとか。だから一年前も、あなたがウソをついていることに気付いてた」
「あれが、嘘であると、わかっていたのか?」
驚いてハイナーが聞き返すと、アンネッテはこくりと頷く。
「でも、ハイナーがウソをつかなきゃいけない状況なら、それを信じた振りをするしかないのかなと思った。あなたはいつも、優しいウソをつくから。きっと、離れ離れになってしまうから。私を縛り付けないようにって、そう、言ったのかなって思った」
「違う。そうじゃない、俺は……」
そこでハイナーは大きく息を吸って、吐いた。
「あの日、本当は、君に結婚の申し込みをしたかった。その遠征の行く前に結婚の約束をして、俺を待っていて欲しいと言いたかった」
「言えばよかったじゃない。私はあなたになら縛り付けられてもいいし、待っていられる自信もあった」
「だけど。その前の日。君が、俺の知らない男の人と一緒に歩いていて、そして抱き合っているところを見てしまった」
そんなこと、あったかしら、とアンネッテは思い出そうとしている。
「俺は、君が浮気しているものだと思った。だから、一年前、あんな心にもないことを言ってしまった。その、他に好きな人ができた、と」
「でも、その言葉の内容はウソ」
「そう、嘘だ。しかも、後でロルフに相談したら、君が一緒にいたのは君の姉の夫ではないかと言われた」
その言葉でアンネッテは思い出す。
「そうかもね。あのとき、お義兄さんに料理を習っていたから。その、あなたにいろいろ美味しい料理を作って上げたくて」
ああ、とハイナーは頷いた。
「だけど、俺はそれを誤解した。だから君に、別れて欲しいと言った」
そこでハイナーは甘いカフェラテを一口飲んだ。
だから、そっと彼女の手を握る。
「買い物は、どこまで行くんだ?」
当たり障りのない内容を尋ねた。
「すぐ近くにね、いろんなお店があるの。ここね、住宅地なだけあって、お店もたくさんあるのよ。今日の夕飯のお買い物と、それからハイナーの着替えを買いにいきましょう」
一年前、あんな別れ方をしたにも関わらず、彼女は以前と同じように話しかけてくれる。
あの「別れて欲しい」という言葉。あれをどう受け止めたのか。どんな思いでこの一年を過ごしていたのか。
「アン。俺は君に酷いことを言った。だから、ずっと謝りたいと思っていた」
視線を足元に向けて、ハイナーは呟いた。それに対して、アンネッテは「うん」と頷いただけだった。
そこでギュッと強く手を握られた。驚いてハイナーはアンネッテに視線を向ける。
「私も、ハイナーに言いたいことたくさんある」
するとアンネッテはハイナーを引っ張るようにして歩き、一軒のカフェに入る。適当に飲み物を頼むと、オープンテラスへと移動する。
「はい。ハイナー。これ、好きでしょ」
「ああ、ありがとう」
こうやって彼女は、自分の好きなものも覚えてくれている。温かいカフェラテを渡された。しかもたっぷり砂糖入り。
二人は丸いテーブルを挟んで、向い合って座った。
こうやって向かい合ってしまうと、言葉が込み上げてくるのだが、それが全て喉につかえてしまう。
「それで、謝りたいことって何?」
恐らく、彼女がそう言わないと、必要な情報が引き出せないと思ったのだろう。
そう言う彼女の目は、怒っているわけではない。いつものように優しさに溢れた目。
ほら、怒らないから正直に話しなさい、といたずらをした子供から情報を引き出す母親のような顔をしていた。この場合、怒らないからと言って正直に話をすると怒られるパターンが一般的であるのだが、果たしてアンネッテの場合はどうだろう。
「その……。あの、まあ。あれ、だ。その、一年前。俺は君に酷いことを言った。あれは、嘘だ。その、君の他に好きな人などいない。あのときも今も、俺が好きなのは、アンネッテ、君だけだ」
ハイナーは一生分の勇気を使い切ったのではないかと思った。先日まで対応していたあの魔物討伐でも、こんなに緊張したことはない。
「あの日、あなたがウソをついていること、私は気付いてた」
ふぅ、とアンネッテは息を吐いた。
「ハイナーはね、ウソをつくときに、ちょっとだけ瞬きの回数が増えるの。私の失敗した料理を美味しいって言ってくれるときとか。本当は疲れているのに疲れていないって言ってるときとか。だから一年前も、あなたがウソをついていることに気付いてた」
「あれが、嘘であると、わかっていたのか?」
驚いてハイナーが聞き返すと、アンネッテはこくりと頷く。
「でも、ハイナーがウソをつかなきゃいけない状況なら、それを信じた振りをするしかないのかなと思った。あなたはいつも、優しいウソをつくから。きっと、離れ離れになってしまうから。私を縛り付けないようにって、そう、言ったのかなって思った」
「違う。そうじゃない、俺は……」
そこでハイナーは大きく息を吸って、吐いた。
「あの日、本当は、君に結婚の申し込みをしたかった。その遠征の行く前に結婚の約束をして、俺を待っていて欲しいと言いたかった」
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「だけど。その前の日。君が、俺の知らない男の人と一緒に歩いていて、そして抱き合っているところを見てしまった」
そんなこと、あったかしら、とアンネッテは思い出そうとしている。
「俺は、君が浮気しているものだと思った。だから、一年前、あんな心にもないことを言ってしまった。その、他に好きな人ができた、と」
「でも、その言葉の内容はウソ」
「そう、嘘だ。しかも、後でロルフに相談したら、君が一緒にいたのは君の姉の夫ではないかと言われた」
その言葉でアンネッテは思い出す。
「そうかもね。あのとき、お義兄さんに料理を習っていたから。その、あなたにいろいろ美味しい料理を作って上げたくて」
ああ、とハイナーは頷いた。
「だけど、俺はそれを誤解した。だから君に、別れて欲しいと言った」
そこでハイナーは甘いカフェラテを一口飲んだ。
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