1 / 22
聖女(1)
しおりを挟む
「聖女さま、どうか団長とまぐわっていただけませんか?」
彼女の目の前で土下座をしている男は、王国魔導士団に所属している人間だろう。漆黒のローブが何よりの証拠。彼らは身につけているもので、所属がわかるようになっている。
「え? まぐわうって、その」
彼女の微かな知識が正しければ、まぐわうとは性交渉を意味するものだと思っている。
すなわちセックス。
「はい。聖女さまの女性器に団長の男性器をいれて、ずぼずぼっと動かす許可をいただきたいのです」
この男、真面目な顔をしてさらっと口にすれば、なんでも許されると思っていないか。
聖女と呼ばれている女性、瀧口アズサは面食らった。そもそもここは、アズサが一年前まで生活していた場所とは異なる世界、異世界と呼ばれる世界である。
ひょんなことから異世界に迷い込んだアズサは『聖女さま』と呼ばれていた。それはアズサが持つ知識だったり不思議な力だったり。それが原因である。
この異世界に飛ばされたアズサは、ライトノベルでよく目にしたチートな能力を手に入れている。聖女さまと呼ばれるくらいだから、それは聖なる力と言われるものであり、別名、治癒能力とも言われているのだ。また、他にも使える不思議な能力はあった。さすがチート。
それらの力もあって、異世界に飛ばされたアズサは虐げられることなく、快適な生活を送っていた。
元の世界では日本と呼ばれる国で会社勤めをしていて、社畜化していた人間である。大学卒業後に新卒採用されて三年目。脂ものってきた時期の営業職。
色も染めない黒い髪のミディアムヘア。昔から視力だけは自慢の2.0で、眼鏡もコンタクトもいらない、大きなぱっちりとした二重の目。どこからどう見ても日本人の顔つきだが、英語はぺらぺらと中国語を少々という、営業職に相応しい語学力を備えていた。
担当も増えつつ後輩指導にあたり、技術の人間からはけちょんけちょんにけなされ、客先からもボコボコに口撃されながらも、製品を手にしたお客様から感謝の気持ちを口にされたときの喜びは何事にもかえられない。
それでもその日は、やさぐれていた。会社帰りに飲まずにはやってられないほど。
原因は些細なことかもしれない。いや、今思い出しても腹が立つ。あんな男の部下であったのが間違いの始まりである。
よくある手柄の横取り。アズサが契約にこぎつけた大きな案件を、まるで自分の手柄のように報告しやがったあのハゲくそ親父。
仕方ないとは思いつつも、腹立たしさから馴染みの居酒屋でベロンベロンになるまで飲んでしまった。
馴染み居酒屋は地下にある。いつものアズサなら、階段を踏み外すなどそんな漫画のようなベタな展開にはならないし、エレベーターを使うという判断もできる。
だけどその日はベロンベロンだった。だから気分よくふらふらの足取りで階段をあがった。最後の一段を踏みしめたら地上に出る、そのときに足の力が抜けて、のぼってきた階段を転げ落ちた。
彼女の目の前で土下座をしている男は、王国魔導士団に所属している人間だろう。漆黒のローブが何よりの証拠。彼らは身につけているもので、所属がわかるようになっている。
「え? まぐわうって、その」
彼女の微かな知識が正しければ、まぐわうとは性交渉を意味するものだと思っている。
すなわちセックス。
「はい。聖女さまの女性器に団長の男性器をいれて、ずぼずぼっと動かす許可をいただきたいのです」
この男、真面目な顔をしてさらっと口にすれば、なんでも許されると思っていないか。
聖女と呼ばれている女性、瀧口アズサは面食らった。そもそもここは、アズサが一年前まで生活していた場所とは異なる世界、異世界と呼ばれる世界である。
ひょんなことから異世界に迷い込んだアズサは『聖女さま』と呼ばれていた。それはアズサが持つ知識だったり不思議な力だったり。それが原因である。
この異世界に飛ばされたアズサは、ライトノベルでよく目にしたチートな能力を手に入れている。聖女さまと呼ばれるくらいだから、それは聖なる力と言われるものであり、別名、治癒能力とも言われているのだ。また、他にも使える不思議な能力はあった。さすがチート。
それらの力もあって、異世界に飛ばされたアズサは虐げられることなく、快適な生活を送っていた。
元の世界では日本と呼ばれる国で会社勤めをしていて、社畜化していた人間である。大学卒業後に新卒採用されて三年目。脂ものってきた時期の営業職。
色も染めない黒い髪のミディアムヘア。昔から視力だけは自慢の2.0で、眼鏡もコンタクトもいらない、大きなぱっちりとした二重の目。どこからどう見ても日本人の顔つきだが、英語はぺらぺらと中国語を少々という、営業職に相応しい語学力を備えていた。
担当も増えつつ後輩指導にあたり、技術の人間からはけちょんけちょんにけなされ、客先からもボコボコに口撃されながらも、製品を手にしたお客様から感謝の気持ちを口にされたときの喜びは何事にもかえられない。
それでもその日は、やさぐれていた。会社帰りに飲まずにはやってられないほど。
原因は些細なことかもしれない。いや、今思い出しても腹が立つ。あんな男の部下であったのが間違いの始まりである。
よくある手柄の横取り。アズサが契約にこぎつけた大きな案件を、まるで自分の手柄のように報告しやがったあのハゲくそ親父。
仕方ないとは思いつつも、腹立たしさから馴染みの居酒屋でベロンベロンになるまで飲んでしまった。
馴染み居酒屋は地下にある。いつものアズサなら、階段を踏み外すなどそんな漫画のようなベタな展開にはならないし、エレベーターを使うという判断もできる。
だけどその日はベロンベロンだった。だから気分よくふらふらの足取りで階段をあがった。最後の一段を踏みしめたら地上に出る、そのときに足の力が抜けて、のぼってきた階段を転げ落ちた。
30
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる