あやかし夫(予定)の溺愛~真夏の雪

澤谷弥(さわたに わたる)

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10.

 その日を境に、私と健太郎さんの結婚を前提としたお付き合いが始まった。ようするに、婚約したわけだ。婚約といっても、堂々と結納をしたわけでもないし、とりあえず私は両親に結婚したい人がいると、報告しただけ。

 それはもう、両親は泣いて喜んだ。学生時代にはそんな浮いた話が一つも出てこなかった私。

 両親から見たら、結婚する気のない娘、に分類されていたみたい。だから、八割くらいは孫の顔を見るのも諦めていた、とか。

 先に子を授かってしまったことは、健太郎さんが電話口でやんわりと説明した。本当は会って話をしたいところだけれど、今は私の体調がよくないので、落ち着いてから挨拶に行きたいと、そんなことを言っていた。

 娘をお前なんかにやらん!

 なんていう、ドラマみたいな展開を期待しているわけだけれども、私の両親のことだから熨斗をつけて健太郎さんにあげます、とか言いそう。そしてここぞとばかりに、それを受け取る健太郎さん。

 そんな妄想をしている私だが、今、彼と婚約したことを激しく後悔をしている。いや、今だけじゃない。彼から指輪を受け取って、すぐに後悔した。

 だって、わけがわからない。
 健太郎さんが、『雪男』だなんて。

《この世には、人間と似て異なる生き物がいる。人間のように見えて、人間とは異なる力を持つ者。昔は妖怪とひとくくりにされていたようだが、現代の今は、彼らを『あやかし』と呼ぶ――》

「って。物語の世界の話じゃないんですか? ほら『キャラ文芸』とか、そういうジャンルの」
「本当にタマは、本が好きだな。まあ、そういう君が好きなわけだが。残念ながら、俺はそのキャラ文芸を読んだことないから、わからない」

 そう言って、健太郎さんが私に手渡してくれたのは、そば茶。妊娠中にカフェインの取り過ぎは良くないという情報をお義母かあさまから仕入れたらしく、私の飲み物は珈琲からノンカフェインのものにかわっていた。

 そして私はというと、一人暮らしのあのアパートを引き払って、健太郎さんの豪華マンションへと引っ越してきた、というわけ。まぁ、あのアパートにはいい思い出などないので、引っ越しできたのはよかったのかもしれない。

 それでも私は、結婚するまでは別々に暮らしたほうがいいと言い張った。だって、健太郎さんと結婚を前提にしたお付き合いをしていることを会社の人間に知られたら、何かと面倒なのだ。

 だけど、すぐにでも一緒に暮らすべきだと言い張ったのは、健太郎さんのお母さまでもある。

 というのも、あやかしでもある健太郎さんの子を妊娠している私は、いろいろと危険らしい。厳密に言えば、私ではなくお腹の子が。
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