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12.
「なんか、私だけ普通の人間とベクトルの方向が間違っていたんですね。交わることのない世界だったのに、方向を間違えたから交わっちゃった、みたいな」
「タマのそういう発想は嫌いじゃない」
そんな私も、健太郎さんのことは嫌いじゃない。嫌いじゃないからあの日、記憶を失った日、彼の誘いにのってしまったのだ。
元カレとヒートアップしたやりとりをしていたあの日――。
「で? あやかしって何をやってるんですか? っていうか、健太郎さんなんて、しがないサラリーマンじゃないですか」
「ああ。あの会社に行っているのは、タマがいるからだよ。君が辞めるなら、俺も辞める」
頭が痛くなってきたような気がする。
健太郎さんのような優秀な人材を失ったら、間違いなくあの会社は、生産減に陥る。
「健太郎さん。そういうことを言うのはやめましょう。一応、仕事は仕事と割り切っている私ですが、愛着はあります。まぁ、あの就職活動で私を拾ってくれた感謝の気持ちですね」
「そうやって、社畜は増産されていくんだけどね。もっと効率よく物事をすすめれば、半分の時間で仕事が終わることに、彼らは気づいていない」
「普通の人間に、あやかしの常識を押し付けないでください。気づかないのであれば、気づかせてあげればいいんですよ」
ふぅとカップの中身のお茶に息を吹き付けると、もわんと湯気が襲い掛かってきた。また、そば茶の香りが漂う。
このそば茶も、健太郎さんがそばの実をフライパンで煎ったもの。焦がすとお茶の風味が落ちるからって、弱火でじっくりと焦げないように、ころころ実を転がすようにフライパンを振ること10分。
それを急須に入れてお湯を注ぎ、5分間蒸らす。それを律儀にスマホできっちりと計っていたのは、もちろん健太郎さんだ。
「だから。タマのそういうところが好きなんだ」
そして私は、健太郎さんがこんな甘い男であるとは知らなかった。だって、仕事中にはほとんど接点はなかったのだから。
あの日、健太郎さんに抱かれることになったのも、同じフロアの元カレが原因で。そこにたまたま健太郎さんがいたわけで――、って。
「健太郎さんって、いつから私のことが好きだったんですか?」
「ん? 君を一目見た時から」
ほのかな甘みのあるそば茶が、一気に砂糖水に化けるようなセリフだった。
これもあやかしの特徴らしい。とにかく、運命の女性を溺愛するとか。お義母さまから仕入れた情報である。
「はいはい、わかりました。私、少しベッドで横になりますから」
口の中はすっきりとしている。そば茶は後味もさっぱりとしていて、今の私には飲みやすい。残りを一気に飲み干した。
「添い寝、しようか?」
「残念ながら、間に合ってます」
私は、熊さんの顔型クッションを指さした。健太郎さんは、悔しそうに顔を歪ませた。
熊さんを抱き締めながら、キングサイズのベッドに横になる。
朝は、水を飲んでも吐きそうになる勢いだったのに、今なら、なんでも食べられるような気がするから不思議だった。
あやかしでも人間でも、家族が増えることは嬉しい。私は、素直にそう思っている。
私はお腹にそっと手を当てた。写真は見せてもらったけれど、まだ豆粒にも満たないような存在。
この子がいなかったら、健太郎さんと結婚をする気持ちは起こらなかっただろう。
何しろ彼は、私にはもったいないような雲の上の存在の人間だったのだから。
だから、あの夜の過ちは、過ちではなく運命だったのかもしれない――。
「タマのそういう発想は嫌いじゃない」
そんな私も、健太郎さんのことは嫌いじゃない。嫌いじゃないからあの日、記憶を失った日、彼の誘いにのってしまったのだ。
元カレとヒートアップしたやりとりをしていたあの日――。
「で? あやかしって何をやってるんですか? っていうか、健太郎さんなんて、しがないサラリーマンじゃないですか」
「ああ。あの会社に行っているのは、タマがいるからだよ。君が辞めるなら、俺も辞める」
頭が痛くなってきたような気がする。
健太郎さんのような優秀な人材を失ったら、間違いなくあの会社は、生産減に陥る。
「健太郎さん。そういうことを言うのはやめましょう。一応、仕事は仕事と割り切っている私ですが、愛着はあります。まぁ、あの就職活動で私を拾ってくれた感謝の気持ちですね」
「そうやって、社畜は増産されていくんだけどね。もっと効率よく物事をすすめれば、半分の時間で仕事が終わることに、彼らは気づいていない」
「普通の人間に、あやかしの常識を押し付けないでください。気づかないのであれば、気づかせてあげればいいんですよ」
ふぅとカップの中身のお茶に息を吹き付けると、もわんと湯気が襲い掛かってきた。また、そば茶の香りが漂う。
このそば茶も、健太郎さんがそばの実をフライパンで煎ったもの。焦がすとお茶の風味が落ちるからって、弱火でじっくりと焦げないように、ころころ実を転がすようにフライパンを振ること10分。
それを急須に入れてお湯を注ぎ、5分間蒸らす。それを律儀にスマホできっちりと計っていたのは、もちろん健太郎さんだ。
「だから。タマのそういうところが好きなんだ」
そして私は、健太郎さんがこんな甘い男であるとは知らなかった。だって、仕事中にはほとんど接点はなかったのだから。
あの日、健太郎さんに抱かれることになったのも、同じフロアの元カレが原因で。そこにたまたま健太郎さんがいたわけで――、って。
「健太郎さんって、いつから私のことが好きだったんですか?」
「ん? 君を一目見た時から」
ほのかな甘みのあるそば茶が、一気に砂糖水に化けるようなセリフだった。
これもあやかしの特徴らしい。とにかく、運命の女性を溺愛するとか。お義母さまから仕入れた情報である。
「はいはい、わかりました。私、少しベッドで横になりますから」
口の中はすっきりとしている。そば茶は後味もさっぱりとしていて、今の私には飲みやすい。残りを一気に飲み干した。
「添い寝、しようか?」
「残念ながら、間に合ってます」
私は、熊さんの顔型クッションを指さした。健太郎さんは、悔しそうに顔を歪ませた。
熊さんを抱き締めながら、キングサイズのベッドに横になる。
朝は、水を飲んでも吐きそうになる勢いだったのに、今なら、なんでも食べられるような気がするから不思議だった。
あやかしでも人間でも、家族が増えることは嬉しい。私は、素直にそう思っている。
私はお腹にそっと手を当てた。写真は見せてもらったけれど、まだ豆粒にも満たないような存在。
この子がいなかったら、健太郎さんと結婚をする気持ちは起こらなかっただろう。
何しろ彼は、私にはもったいないような雲の上の存在の人間だったのだから。
だから、あの夜の過ちは、過ちではなく運命だったのかもしれない――。
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