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 お昼の時間帯ということもあって、食べ物を扱う赤色の天幕の露店の前には、人だかりができているところもあった。それも気にしながら、ファンヌはエルランドに引かれるようにして、目的のレストランへと足を向けていた。
「ここだ」
 エルランドに案内されたレストランは入り口の壁が少しだけ張り出していて、その上を天幕で覆っている建物だった。もちろん、その天幕の色は赤色である。壁は白いが、急勾配の切妻屋根は赤色。
 入口の扉をカランコロンとベルを鳴らして開けると、肉の焼ける匂いが鼻をかすめた。
「いらっしゃいませぇ」
 昼の時間帯であるにも関わらず、店内は幾分か空きがあった。
「ここはゆっくりと食事を楽しみたい人が来るから、今日のような日は、意外と空いているんだ。外には露店もあるしな」
 ようするに、仕事を持っているような者たちは、外の露店でさっと食事を済ませることが多いとのこと。こういったレストランで昼間から食事をするのは、込み入った話をする者や、純粋に食事を楽しみたい者が多いようだ。
「ベロテニアの伝統的な料理と言っていたが、ここは肉料理が多いんだ」
 案内された窓際の席につきながら、エルランドは口にした。
「ああ、ですから先生はお野菜が苦手なんですね」
 ファンヌの言葉にエルランドは顔を曇らせたものの、反論はしなかった。
 メニューを二人で見ながらも、結局はエルランドにお任せしてメニューを決めてもらった。
 ベロテニアの伝統的な肉料理とは、煮込み料理だった。エルランドが言うには、やはり雪が舞うほど寒い国であるため、身体を温めるような煮込み料理が伝統料理として多いそうだ。
 ファンヌが肉を口にいれた途端、お肉がほろりと溶けてなくなった。
「うわっ。美味しいです」
 口の中に広がる心地よい味に、ついファンヌは左手で頬を押さえてしまったのは、頬が落ちないようにと無意識な仕草である。
「そうか。気に入ってもらって良かった」
 エルランドは嬉しそうに笑う時は目を細める。つまり彼は今、嬉しいのだ。彼も口にフォークを運び入れる。その動きを、ファンヌはじっと見つめてしまった。
「どうかしたのか?」
「先生がきちんとお野菜を食べているかどうか、確認していました」
 ファンヌは気持ちを誤魔化すために、適当な言葉を口にした。だが、エルランドが眉間に皺を寄せた。悔しそうにファンヌの顔を見ている。ということは、適当な言葉はあながち間違いではなかったということだ。
「先生」
 呼ばれたエルランドは困ったような顔をしている。仕方なくファンヌは、彼の皿の端に残っていた人参をフォークに刺し、彼の口元に運んだ。
「はい。きちんと食べてください」
 嫌そうに顔をしかめていたエルランドであるが、しぶしぶと口を開けてそれを受け入れた。ファンヌは満足そうに微笑んでから、食事を再開させた。
 話の主導権はファンヌが握っていた。といっても、ベロテニアに関する質問が主だ。初めて訪れたベロテニアは、ファンヌにとって魅力的な国に違いはなかった。
 何よりも、自然光をたっぷりと浴びて育っている薬草たち。それに茶葉も栽培しているとエルランドは口にしていた。今まだそこに足を運んではいないが、その場所にも案内する予定であると彼は約束してくれた。
「あ、先生。私、この後、少し寄りたい場所があるのですが……」
 朝、カーラに相談しようと思っていたこと。つまり、下着が欲しいということ。せっかく街まで足を伸ばしたし、先ほどオスモからもらった賃金もあるため、それで必要な物を揃えていきたいという気持ちがあった。
「どこだ?」
「え、と。そう、服が欲しいんです」
 下着と口にすることができなかったファンヌは、あえて「服」と表現をした。だが、エルランドは怪訝そうに眉根を寄せた。
「服……。部屋に準備してあっただろう? あれでは、不満なのか?」
「ち、違います」
 エルランドの言う通り、ファンヌが与えられた部屋には普段使いのワンピースや、ちょっとした集まりに出席できるようなドレスが準備してあった。それにも関わらず「服が欲しい」と言ったら、あの服に満足できなかったと思われても仕方ないだろう。
「し……、下着が欲しいんです」
 基本的にエルランドには遠回しな言い方が通用しない。
「こちらで準備すればいいかなと思っていたので、あまり持ってきていないんです」
「そうか……。さすがにそれまではこちらで準備ができなかったからな。サイズもわからなかったし」
 サイズさえわかれば準備していたような彼の口調に、ファンヌは少しだけ目を見開いた。
「オレは白の方が好みだな」
 一瞬、ファンヌはエルランドが何を言っているのか意味がわからなかった。だが、それが下着の色であることにすぐに気づいた。
「誰も先生の好みは聞いていません」
「そうか?」
「そうです」
 そこでファンヌは残っていたお茶を一気に飲み干した。
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