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第一章(2)
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「どうしたの? 何かあった? 最近、ずっと暗いよね?」
物事をずばっと言うサラは、この研究所の母親的存在である。
彼女がテオドールと同い年だと知ったときは、彼との関係を聞き出そうとディアナも詰め寄った。
その結果、「テオドールは観賞用。目の保養。恋人にしたくない男、ナンバーワン」とサラが言い切ったので、ライバルが一人減ったと思っている。それ以来、サラはディアナにとっての一番の味方にもなった。
「どうして、所長は所長になってしまったのでしょう……」
「そりゃ、前の所長の息子だからでしょ?」
「どうして所長は辞めてしまったのでしょう……」
「年齢のせいとは言っていたけれど……。腰がやばいみたいって……もしかして、テオドールが所長になって悩んでるの?」
しーっと、ディアナは慌てて唇の前に人差し指を立てた。
「大丈夫よ、この時間は。男性陣は地下の資料室の模様替えで忙しいから」
研究所には地下資料室があり、サラの希望によって、資料を探しやすいようにとレイアウトを変更している最中なのだ。
サラは資料管理の達人で、どこにどんな資料があるかを把握していているため、参考文献を適切に選んでくれる。しかし、資料室に置いてある資料が平積みになりつつあり、探しにくいとサラが怒った。それにより資料を整理しやすいように本棚の配置を変更している。サラの見立てでは、配置変更後は新しい本棚を二つ置けるようになるとか。
「だって、所長になったから所長のことを所長と呼ばないといけないですよね?」
「そういう決まりがあるわけじゃないけど……。まぁ、けじめの問題よね。仕事中は所長と呼んだほうがいいような気がするし」
「だからですよ。今まで、名前で呼んでいたのに……名前を呼ぶ機会を奪われてしまった。所長交代した所長を恨みます」
先ほどから、二人の会話には現所長のテオドールと、前所長のランバルトが交じっている。ちなみにランバルトは今、会長という肩書がついている。
「機会なんていくらでもあるでしょう?」
宥めるようなサラの声に、ディアナはぶんぶんと激しく顔を振る。
「ありません。サラさんにはたくさんあるかもしれませんが、わたしには……仕事中にしか名前を呼ぶ機会がなかったんです!」
うわ~ん、とディアナは机に突っ伏した。
「私からみたら、あの朴念仁のどこに惹かれる要素があるのかまったくわからないけど……。いや、顔はいいけど、顔だけだし。でもディアナがあの朴念仁を好きだっていうのは、ずっと知っているし、応援しているから。って、ディアナの気持ちに気づいていないのはテオドールくらいよ? あとはみんな知っているから、みんな味方よ」
「みんな……知っている?」
ディアナがのそっと顔を上げたが、暴れたせいか前髪が少し乱れていた。
「わたしの気持ちを、みんなが知っているって……その……私が……所長を好きなことを……?」
サラは答える代わりに満面の笑みを浮かべた。
それだけでディアナは悟った。
テオドールが好きだ、付き合って、結婚したい! と思っている気持ちが、周囲にバレているということを。
「アルノーさんも?」
アルノーとは四十歳の男性研究員で、穏やかな性格をしている。遺物鑑定が得意だが、そろそろ前線から一歩引きたいらしい。
「知っているわね」
「ルーカスも……?」
アルノーに知られるのはまだいい。サラが研究所の母親的存在であれば、父親のように温かく見守ってくれる人物だからだ。ディアナの恋の行方も、きっと応援してくれるだろう。
むしろルーカスのほうが問題である。ディアナよりも四歳年下で、今年でここに来て二年目。怖いもの知らずで、相手が誰だろうがぐいぐいと切り込んでいく。若いだけあって体力があり、主に発掘作業を好んでいる。
「多分、知っているとは思うんだけど……認めたくないという、微妙なお年頃なのよ。ついでにいえば、スコットにもバレバレね!」
スコットは国研の研究員で、テオドールの知人らしい。この研究所に仕事を持ってくるため、研究所と国を繋ぐパイプ役でもある。しかし、そんな外部の人間にまで、テオドールへの秘めた恋心を知られているとしたら、それはもはや秘められていない。
「あぁああああ」
変な声をあげて、ディアナは頭を抱えた。
物事をずばっと言うサラは、この研究所の母親的存在である。
彼女がテオドールと同い年だと知ったときは、彼との関係を聞き出そうとディアナも詰め寄った。
その結果、「テオドールは観賞用。目の保養。恋人にしたくない男、ナンバーワン」とサラが言い切ったので、ライバルが一人減ったと思っている。それ以来、サラはディアナにとっての一番の味方にもなった。
「どうして、所長は所長になってしまったのでしょう……」
「そりゃ、前の所長の息子だからでしょ?」
「どうして所長は辞めてしまったのでしょう……」
「年齢のせいとは言っていたけれど……。腰がやばいみたいって……もしかして、テオドールが所長になって悩んでるの?」
しーっと、ディアナは慌てて唇の前に人差し指を立てた。
「大丈夫よ、この時間は。男性陣は地下の資料室の模様替えで忙しいから」
研究所には地下資料室があり、サラの希望によって、資料を探しやすいようにとレイアウトを変更している最中なのだ。
サラは資料管理の達人で、どこにどんな資料があるかを把握していているため、参考文献を適切に選んでくれる。しかし、資料室に置いてある資料が平積みになりつつあり、探しにくいとサラが怒った。それにより資料を整理しやすいように本棚の配置を変更している。サラの見立てでは、配置変更後は新しい本棚を二つ置けるようになるとか。
「だって、所長になったから所長のことを所長と呼ばないといけないですよね?」
「そういう決まりがあるわけじゃないけど……。まぁ、けじめの問題よね。仕事中は所長と呼んだほうがいいような気がするし」
「だからですよ。今まで、名前で呼んでいたのに……名前を呼ぶ機会を奪われてしまった。所長交代した所長を恨みます」
先ほどから、二人の会話には現所長のテオドールと、前所長のランバルトが交じっている。ちなみにランバルトは今、会長という肩書がついている。
「機会なんていくらでもあるでしょう?」
宥めるようなサラの声に、ディアナはぶんぶんと激しく顔を振る。
「ありません。サラさんにはたくさんあるかもしれませんが、わたしには……仕事中にしか名前を呼ぶ機会がなかったんです!」
うわ~ん、とディアナは机に突っ伏した。
「私からみたら、あの朴念仁のどこに惹かれる要素があるのかまったくわからないけど……。いや、顔はいいけど、顔だけだし。でもディアナがあの朴念仁を好きだっていうのは、ずっと知っているし、応援しているから。って、ディアナの気持ちに気づいていないのはテオドールくらいよ? あとはみんな知っているから、みんな味方よ」
「みんな……知っている?」
ディアナがのそっと顔を上げたが、暴れたせいか前髪が少し乱れていた。
「わたしの気持ちを、みんなが知っているって……その……私が……所長を好きなことを……?」
サラは答える代わりに満面の笑みを浮かべた。
それだけでディアナは悟った。
テオドールが好きだ、付き合って、結婚したい! と思っている気持ちが、周囲にバレているということを。
「アルノーさんも?」
アルノーとは四十歳の男性研究員で、穏やかな性格をしている。遺物鑑定が得意だが、そろそろ前線から一歩引きたいらしい。
「知っているわね」
「ルーカスも……?」
アルノーに知られるのはまだいい。サラが研究所の母親的存在であれば、父親のように温かく見守ってくれる人物だからだ。ディアナの恋の行方も、きっと応援してくれるだろう。
むしろルーカスのほうが問題である。ディアナよりも四歳年下で、今年でここに来て二年目。怖いもの知らずで、相手が誰だろうがぐいぐいと切り込んでいく。若いだけあって体力があり、主に発掘作業を好んでいる。
「多分、知っているとは思うんだけど……認めたくないという、微妙なお年頃なのよ。ついでにいえば、スコットにもバレバレね!」
スコットは国研の研究員で、テオドールの知人らしい。この研究所に仕事を持ってくるため、研究所と国を繋ぐパイプ役でもある。しかし、そんな外部の人間にまで、テオドールへの秘めた恋心を知られているとしたら、それはもはや秘められていない。
「あぁああああ」
変な声をあげて、ディアナは頭を抱えた。
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