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第六章(8)
「所長。お茶のおかわりはいかがですか?」
「では、頼む」
テオドールの机の上からもカップを預かり、ディアナが給湯室へと向かう。すぐにルーカスもやってきて「ディアナさん、ほんと、人が良すぎですよ」とぼやきながらも、全員分のお茶を淹れようと準備をしている。それを言うならルーカスのほうだろうと思いつつも、黙ってカップを並べた。
「それで、所長の家、どうだったんですか?」
突然、ルーカスがそんなことを尋ねてくるものだから、ディアナも「え?」と聞き返してしまう。
「だってディアナさん。所長のこと、好きですよね? アヤル遺跡も一緒に行って、帰ってきてからは一緒に暮らすって……結婚前提のお付き合いでも始まったんですか?」
「な、な、な……何を言ってるの? 所長とはそんなんじゃないって!」
ディアナが慌てて否定すれば、ルーカスも「あ、そうなんですか」と冷めたものだ。
「てことは、まだ僕にもチャンスはあるってことですよね?」
「え?」
「ディアナさんが所長を好きなように、僕もディアナさんのこと、好きなんですけど」
ぼんっ! と顔が音を立てて爆発したような恥ずかしさが込み上げてきた。
「お二人がくっついたならあきらめようかなぁと思ったんですけど。ディアナさんが振られたときに慰める役も必要ですよね? そのときは僕が喜んでその役を引き受けますので」
何事もなかったかのようにルーカスはお茶の入ったカップをトレイの上に並べた。
「これ、所長とアルノーさんの分です。僕はサラさんに媚を売っておかないとならないので。いざとなれば味方になってもらえそうですし」
自分とサラの分のカップを手にしたルーカスは、何事もなかったかのように給湯室を出ていく。
残されたディアナは、「え? 何、今の……」と思いつつ、火照った頬が落ち着いてからトレイを手にした。
「所長、どうぞ」
先にテオドールにカップを私、次にアルノー。自席の上にカップを置いたら、トレイは休憩テーブルの上に。
「何かあった?」
席に戻ったところで、サラがニヤニヤしているが、その様子をルーカスがうかがっている。
「な、何もありませんって」
慌ててカップに口をつけたら、淹れたてのお茶は熱かった。少しだけ顔をしかめ、気持ちを落ち着けるようにゆっくり嚥下したところで、始業のチャイムが鳴った。
仕事に本格的に取り掛かる前に、ディアナはアルノーに助けを求めた。
「アルノーさん。ちょっと見ていただきたいものがあるのですが……」
サラから押し付けられた写しを手にアルノーの席へ向かうと、彼は嫌な顔一つせず「なんでしょう?」とディアナに視線を向けた。
「今、これの解読をしようと思っているんですけど……イール地区のものなのですが、どのくらいの時期に書かれたものか、まだ読み取れなくて」
するとアルノーは、ディアナが手にしていた写しを寄越すようにと言う。
「あぁ……この装丁は三百年ほど前、正確にはレプ暦千八百五十年から流行った手法ですね」
「ありがとうございます、アルノーさん。これで進みます」
「ディアナ。資料を見繕ってこようか?」
サラが声をかけてきたので「はい、お願いします」と返す。
「じゃ、僕は肩でも揉みましょうか?」
ルーカスの言葉には「バカ言ってんじゃないわよ。あんたは私の荷物持ち」と、サラがルーカスを地下書庫へと連れていこうとする。
「サラさん。荷物持ちなんて不要ですよね? 台車使えばいいじゃないですか!」
文句を言いながらもルーカスは、居室の壁に置かれている台車を押してサラの後を追う。
昨日は少しだけどんよりとした空気が漂っていたが、今日はいつもと同じように明るく居心地のいいものだった。
ディアナは席につき、仕事の続きに取り掛かる。ふっと視線を感じて顔を上げ、大きく首を振れば、テオドールと目が合ったような気がした。彼はすぐに下を向き、書類にペンを走らせていた。
「では、頼む」
テオドールの机の上からもカップを預かり、ディアナが給湯室へと向かう。すぐにルーカスもやってきて「ディアナさん、ほんと、人が良すぎですよ」とぼやきながらも、全員分のお茶を淹れようと準備をしている。それを言うならルーカスのほうだろうと思いつつも、黙ってカップを並べた。
「それで、所長の家、どうだったんですか?」
突然、ルーカスがそんなことを尋ねてくるものだから、ディアナも「え?」と聞き返してしまう。
「だってディアナさん。所長のこと、好きですよね? アヤル遺跡も一緒に行って、帰ってきてからは一緒に暮らすって……結婚前提のお付き合いでも始まったんですか?」
「な、な、な……何を言ってるの? 所長とはそんなんじゃないって!」
ディアナが慌てて否定すれば、ルーカスも「あ、そうなんですか」と冷めたものだ。
「てことは、まだ僕にもチャンスはあるってことですよね?」
「え?」
「ディアナさんが所長を好きなように、僕もディアナさんのこと、好きなんですけど」
ぼんっ! と顔が音を立てて爆発したような恥ずかしさが込み上げてきた。
「お二人がくっついたならあきらめようかなぁと思ったんですけど。ディアナさんが振られたときに慰める役も必要ですよね? そのときは僕が喜んでその役を引き受けますので」
何事もなかったかのようにルーカスはお茶の入ったカップをトレイの上に並べた。
「これ、所長とアルノーさんの分です。僕はサラさんに媚を売っておかないとならないので。いざとなれば味方になってもらえそうですし」
自分とサラの分のカップを手にしたルーカスは、何事もなかったかのように給湯室を出ていく。
残されたディアナは、「え? 何、今の……」と思いつつ、火照った頬が落ち着いてからトレイを手にした。
「所長、どうぞ」
先にテオドールにカップを私、次にアルノー。自席の上にカップを置いたら、トレイは休憩テーブルの上に。
「何かあった?」
席に戻ったところで、サラがニヤニヤしているが、その様子をルーカスがうかがっている。
「な、何もありませんって」
慌ててカップに口をつけたら、淹れたてのお茶は熱かった。少しだけ顔をしかめ、気持ちを落ち着けるようにゆっくり嚥下したところで、始業のチャイムが鳴った。
仕事に本格的に取り掛かる前に、ディアナはアルノーに助けを求めた。
「アルノーさん。ちょっと見ていただきたいものがあるのですが……」
サラから押し付けられた写しを手にアルノーの席へ向かうと、彼は嫌な顔一つせず「なんでしょう?」とディアナに視線を向けた。
「今、これの解読をしようと思っているんですけど……イール地区のものなのですが、どのくらいの時期に書かれたものか、まだ読み取れなくて」
するとアルノーは、ディアナが手にしていた写しを寄越すようにと言う。
「あぁ……この装丁は三百年ほど前、正確にはレプ暦千八百五十年から流行った手法ですね」
「ありがとうございます、アルノーさん。これで進みます」
「ディアナ。資料を見繕ってこようか?」
サラが声をかけてきたので「はい、お願いします」と返す。
「じゃ、僕は肩でも揉みましょうか?」
ルーカスの言葉には「バカ言ってんじゃないわよ。あんたは私の荷物持ち」と、サラがルーカスを地下書庫へと連れていこうとする。
「サラさん。荷物持ちなんて不要ですよね? 台車使えばいいじゃないですか!」
文句を言いながらもルーカスは、居室の壁に置かれている台車を押してサラの後を追う。
昨日は少しだけどんよりとした空気が漂っていたが、今日はいつもと同じように明るく居心地のいいものだった。
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