皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)

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二人の騎士(1)

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 ミレーヌも十七歳になる。あと一年で学校も卒業。本来の年頃の令嬢であれば、婚約者の一人くらいいてもおかしくない年頃である。
 だが、騎士科で騎士として毎日訓練に励むミレーヌには婚約者のこの字も見当たらなかった。それよりも、あの兄の結婚を先になんとかしてくれ、と思っている。ミレーヌと年が十二も離れている兄は、今年二十九になる。見事に適齢期を逃してしまった。そして、見事に婚約者もいない。婚約者くらいいてもいいと思うのだが、なぜかいない。兄は「仕事が忙しいし、やりがいもあるから結婚しなくてもいい」とか言い出してしまう始末。
 これではシラク公爵家の跡継ぎが途絶えてしまう、とミレーヌは思っているのだが「そのときはお前の子に任せる。あはははは」と豪快に笑っていて、兄はまともに取り合ってくれない。それよりも、こんなに優しくて面白い兄なのに、どうして婚約者の一人や二人いないのだろう、とミレーヌは常々思っていた。
 兄が言うには、自分との結婚を嫌がるような御令嬢とは婚約もできないと言っているのだが、こんなに優しい兄を嫌がるような女性がいるのだろうか、とミレーヌは思っていた。

 ある日、ミレーヌたち学生も騎士見習いとして僻地任務を要請された。つまり、遠征。遠征は騎士見習いのうちに一度は体験すべき授業の一つである。これを受けないと、学校の卒業はできない。だから断ることはできない。
 しかし、騎士団長であるシラク公爵の強い要望により、ミレーヌは兄マーティンが隊長を務める第五騎士隊への同行となった。つまりのところ、職権乱用ともいう。それに気付いている者も何人かはいるのだが、口にはしない。してはいけない。
 そしてマーティンも、四年も経てば副隊長から隊長へと昇進していた。団長と隊長の職権乱用である。

 第五騎士隊の隊員は、シラク団長とマーティン隊長が怖いからか、ミレーヌのことをミレーヌ嬢、ミレーヌ嬢とかわいがってくれていた。
 しかし、ミレーヌも騎士見習いである。だから、剣を一本構えれば、その辺の男性騎士に負けないのだ。
 それは天性の賜物でありつつも、時間があれば父や兄に訓練をつけてもらっていたから。つまりのところ、彼女は努力家なのだ。父や兄に恥じないような立派な騎士になる、というその心意気は常に忘れていない。

 さて、第五騎士隊が派遣されたのは、国境の辺境、それも昔から魔物が多くいるともいわれている辺境だった。先に第三騎士隊が派遣されていたのだが、天候にもめぐまれず、魔物との戦いに苦戦していたようだ。そこに応援として、第五騎士隊が派遣されることとなった。もれなく五人の騎士見習いつきで。五人のうちの一人がミレーヌということになる。

 第五騎士隊が現場にたどり着くと、第三騎士隊の面々はテントの中で寝込んでいた。何があったのか、とマーティンが確認をする。この第三騎士隊についているはずの魔導士たちの姿も誰一人と見当たらなかった。
「君たちはここで待つように」とマーティンは自分の隊へ一言指示を出す。指示を出された第五騎士隊の隊員たちは、そのテントの外でビシっと整列をし、姿勢を正して待っていた。

「何があった」と 第三騎士隊の隊長がいるであろうテントに、彼は足を踏み入れた。そこに入ると、むわっと血の匂いが立ち込めていた。
「マーティン隊長」と声をかけたのは、第三騎士隊の副隊長。
「遠くまで足を運んでいただき、ありがとうございます」

「すまん、この状況が理解できない。何があったか説明してくれないか」
 第三騎士隊の隊員たちはテントで寝込んでいる。そこについているはずの魔導士の姿も見えない。何があったのだろう、と考えるのは正しい反応。

「はい」

 第三副隊長がポツリポツリと言葉を放った。そして、それをざっくりと要約すると、とにかく魔物にやられた、ということ。
 さらに、もう少し詳しく説明すると、動けるものは近くの町に避難し、ここに残っている者たちは動けない、もしくは動かすことができない者たち。そして、それを看病している動ける者たち。魔導士がいないのは、魔導士も魔物にやられてしまい、町に避難してしまったからだという。

 一通り話を聞いたマーティンが口を開く。
「念のための確認だが、そこで寝ているのはエドガー隊長か?」

「はい」

 マジか、あのエドガーがこの有様か。とマーティンは心の中で呟いた。それを口にしたら副隊長が恐縮するだろうと思ったから。
 そして、その副隊長が無事なのは、きっと彼がかばったからなのだろう、とも思った。そういう男なのだ、エドガーという男は。

 エドガーは第三騎士隊の隊長であり、マーティンと同期入隊。騎士隊への責任は強く、部下からは絶大なる信頼を得ている。

 つまり、その責任の強さでこうなったというわけか。

「残念ながら、第五騎士隊は魔導士を連れてきていない。怪我の回復は治療薬に頼るしかない」
 魔導士を連れて来なかったことを少し後悔するマーティン。まさかこんな状況になっているとは思わなかったからだ。魔導士たちは無事だろうという浅はかな考えを今になって後悔する。

「承知……、いたしました」
 副隊長は渋々と承諾するしかなかった。

「まずは、ケガ人の治療に第五騎士隊のメンバーをあてよう」

 マーティンはテントを出て、第五騎士隊のメンバーを集めた。
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