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わからない気持ち(1)
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建国祭も最終日となった。最終日であっても、お祭りのにぎやかさというのは終わるまでは継続するものだ。
マーティンは妹のミレーヌとお祭りに来ていた。
こうやって、ミレーヌと並んで歩くことができるのもそろそろ終わりかもしれない、とマーティンは思っていた。どこか心が寂しく感じる。
ミレーヌはエドガーのことをどう思っているのだろうか。聞きたいけれど、怖くて聞けないとはまさしくこのことか。もやもやとした気持ちを秘めながら、隣の妹の姿を見る。
ミレーヌが幼いころから手をつないできたが、今では彼女のその手の皮も厚くなっていた。
女性だから、体が小さいから、騎士団長の娘だから、そんなことを思いながら、彼女は毎日、剣を振ってきたのだ。それの結果がその手に現れている。
自分の肩の高さよりも下に頭がある小さなミレーヌをじっと見ていると、彼女もこちらに気付いたのか顔を上に向けた。そして笑み「お兄様」と声をかける。
「どうかしたか?」
自分の心の気持ちを隠すかのように、マーティンは妹に声をかけた。
「いいえ。ただ、こうやってみんながお祭りを楽しめるのも、騎士団があるおかげなんですよね」
ミレーヌはそこでにっこりと笑う。
「私、お父様やお兄様のように、騎士科を選んでよかった、と思っています」
ミレーヌが騎士科を選んだきっかけは天の声だったけれど、今ではこの道を選んでよかった、と心から思える。
「そうだな」
とマーティンは呟くと、ミレーヌとつないでいる右手にギュッと力が入れてしまった。幼い頃から守ってきた妹がいつの間にかこのように強くなって、という思いと、いつかはこの手から離れていってしまうのではないか、という思いと。いろんな思いが複雑に絡み合って。
二人で歩いていると「ミレーヌ」と声をかけられた。マーティンの名を呼んだわけではないので、恐らくミレーヌの知り合いだろう。
声の主を探すと、ひらひらと手を振っている女性がいた。髪は短く、背が高い。
「ルネ」とミレーヌも返事をし、空いている方の手でひらひらと手を振った。
マーティンが誰だ? という顔をするので。
「同じ騎士科の貴重なお友達です」
とミレーヌが答える。すると、マーティンが嬉しそうに頷いたので、これは、やっぱり友達がいないと思われていたな、とミレーヌは心の中で思った。
「ミレーヌ、久しぶり。元気だった? 僻地赴任って聞いていたから、ちょっと心配だったんだ」
「心配してくれてありがとう」
そして思い出したように、隣の兄を紹介する。
「そうそう、ルネ。こちら、私の兄のマーティン」
その名前を聞いて、ルネと呼ばれた女性はぎょっとした。ミレーヌの兄でマーティンといったら、あの第五騎士隊の隊長ではないか。
「騎士見習いのルネ・ダンカンです」
とビシッと気を付けの姿勢で名乗る。
「今日は、任務ではないからな。堅苦しい挨拶は抜きだ。ミレーヌがお世話になっている。兄のマーティンだ」
お世話だなんてとんでもない、とルネは首と手を一緒に横に振る。
「ルネも可愛らしい子と一緒なのね。私にも紹介してくださらない?」
ミレーヌはルネの隣にいた女性に気付いた。
「あ、この子は魔導科のシャノン。私の昔からの友達」
シャノンと呼ばれた娘は、髪の毛がふわふわとしていて、目がくるくるとしていて、愛くるしい顔立ちをしていた。長身で、細身で、騎士服を着ていたら男性と間違われるようなルネとは対照的な女性である。
「シャノンです」
と言うその声は、まるで小鳥がさえずるかのよう。
マーティンはその名を聞き、少々考えている様子。何かを思い出したのか「あぁ、とても優秀な魔導士見習い」と呟いた。
その言葉で、シャノンは朝焼けに染まる街並みのように頬を赤く染めあげた。
一体、何に照れているのだろうか。ミレーヌもマーティンも、それに心当たりはなかった。
マーティンは妹のミレーヌとお祭りに来ていた。
こうやって、ミレーヌと並んで歩くことができるのもそろそろ終わりかもしれない、とマーティンは思っていた。どこか心が寂しく感じる。
ミレーヌはエドガーのことをどう思っているのだろうか。聞きたいけれど、怖くて聞けないとはまさしくこのことか。もやもやとした気持ちを秘めながら、隣の妹の姿を見る。
ミレーヌが幼いころから手をつないできたが、今では彼女のその手の皮も厚くなっていた。
女性だから、体が小さいから、騎士団長の娘だから、そんなことを思いながら、彼女は毎日、剣を振ってきたのだ。それの結果がその手に現れている。
自分の肩の高さよりも下に頭がある小さなミレーヌをじっと見ていると、彼女もこちらに気付いたのか顔を上に向けた。そして笑み「お兄様」と声をかける。
「どうかしたか?」
自分の心の気持ちを隠すかのように、マーティンは妹に声をかけた。
「いいえ。ただ、こうやってみんながお祭りを楽しめるのも、騎士団があるおかげなんですよね」
ミレーヌはそこでにっこりと笑う。
「私、お父様やお兄様のように、騎士科を選んでよかった、と思っています」
ミレーヌが騎士科を選んだきっかけは天の声だったけれど、今ではこの道を選んでよかった、と心から思える。
「そうだな」
とマーティンは呟くと、ミレーヌとつないでいる右手にギュッと力が入れてしまった。幼い頃から守ってきた妹がいつの間にかこのように強くなって、という思いと、いつかはこの手から離れていってしまうのではないか、という思いと。いろんな思いが複雑に絡み合って。
二人で歩いていると「ミレーヌ」と声をかけられた。マーティンの名を呼んだわけではないので、恐らくミレーヌの知り合いだろう。
声の主を探すと、ひらひらと手を振っている女性がいた。髪は短く、背が高い。
「ルネ」とミレーヌも返事をし、空いている方の手でひらひらと手を振った。
マーティンが誰だ? という顔をするので。
「同じ騎士科の貴重なお友達です」
とミレーヌが答える。すると、マーティンが嬉しそうに頷いたので、これは、やっぱり友達がいないと思われていたな、とミレーヌは心の中で思った。
「ミレーヌ、久しぶり。元気だった? 僻地赴任って聞いていたから、ちょっと心配だったんだ」
「心配してくれてありがとう」
そして思い出したように、隣の兄を紹介する。
「そうそう、ルネ。こちら、私の兄のマーティン」
その名前を聞いて、ルネと呼ばれた女性はぎょっとした。ミレーヌの兄でマーティンといったら、あの第五騎士隊の隊長ではないか。
「騎士見習いのルネ・ダンカンです」
とビシッと気を付けの姿勢で名乗る。
「今日は、任務ではないからな。堅苦しい挨拶は抜きだ。ミレーヌがお世話になっている。兄のマーティンだ」
お世話だなんてとんでもない、とルネは首と手を一緒に横に振る。
「ルネも可愛らしい子と一緒なのね。私にも紹介してくださらない?」
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と言うその声は、まるで小鳥がさえずるかのよう。
マーティンはその名を聞き、少々考えている様子。何かを思い出したのか「あぁ、とても優秀な魔導士見習い」と呟いた。
その言葉で、シャノンは朝焼けに染まる街並みのように頬を赤く染めあげた。
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