皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)

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男の集い(2)

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 一つのテーブルに、男四人が集まっている。マーティンとロビーが並んで座り、マーティンの向かいにカーニー、そしてその隣にアムラン。

「ロビーたいちょーは、本日、エドガーたいちょーとお会いになられましたかぁ」
 ドンとテーブルの上に、空になったグラスを置いて、カーニーが言った。

「エドガー? 会ってないな」
 右手で頬杖をつき、左手でつまみの乾いた豆をつまんでいるロビー。「どうかしたのか?」

 その問いにカーニーが答える。
「エドガーたいちょーが、エドガーたいちょーが。女性と手をつないで歩いていましたぁ」

 カーニーのその告白に、ロビーは機械的に動かしていた左手を止めた。豆が唇の手前で止まっている。

「マジで?」

「はい。私も見ました」
 と今度はアムランが答え、グラスの中身を飲み干す。

「へー。あのエドガーがね」
 とロビーは呟くもの、本当に誘いやがった、と心の中で笑っている。そして唇の手前で止めていた豆を口の中に放り込む。

「で、エドガーはどんな感じだったのよ?」とモグモグしながら尋ねる。

 答えたのはカーニー。
「それは、もう。楽しそうに、笑いながら歩いていましたぁ。あれは、完全に二人の世界ですぅ」
 そこでカーニーは、空になったグラスを店員に渡し、何かを頼む。

「笑ってた? あのエドガーが?」

「エドガー隊長の笑顔を見て、マーティン隊長は固まりましたからね」
 へへへとアムランが笑う。

 そういえば、先ほどからマーティンは静かだ。そんなに不気味な笑顔だったのだろうか。それとも。
「どうしたんだよ、マーティン。もしかして、親友を盗られていじけているのか?」
 ロビーのその言葉に、親友だと? とマーティンは聞き返す。
「お前ら、親友だろ。なんだかんだ言いながら、仲いいよな」

「ロビーとエドガーほどではないが?」

「いんや。俺らよりお前たちの仲の方が怪しいね」

 そこへ店員が来て、カーニーの手元にグラスを置いていく。
「たいちょー、何か飲まれますかぁ?」
 とカーニーが聞くので、マーティンは同じものを、と答えた。

「いやぁ、本当に。エドガーたいちょーが連れていた女性が、可愛かったですうぅ」
 そこでカーニーは勢いよくグラスの半分ほど飲み干す。

「せめて隊長が、ミレーヌ嬢を連れてきてくれれば、私たちもこんな思いをしなくて済んだのに」
 と、アムランがうらめしそうにマーティンを見る。

「ミレーヌ?」
 とロビーが聞き返すので、「隊長の妹ですよ」とアムランが答えた。

「やっぱり、マーティンに似ているのか?」
 とロビーが言うものだから。

「可愛い我が妹は、私にそっくりだ」
 とマーティンが言う。

 そのマーティンの答えに、そっくりか? と思うカーニーとアムランだが、そう言われると似てなくもないような気がしてくるのが不思議だった。それはきっと、酒の魔力のせいだ。魔力のせいで思考力が低下し始めている。

「たいちょー、私にミレーヌ嬢をくださいっ」
 カーニーがマーティンの腕をとって言う。

「お前にはやらん」

「たいちょーのこと、お義兄さんと呼びますからぁ」

「呼ばなくていい」

「いっそのこと」と口を挟んだのはアムラン。「私は隊長の弟になりたいです」

「お前みたいな弟はいらん」

「隊長、冷たいです。私たち、こんなに隊長のことを愛しているのに」

「さすがマーティン。お前、モテモテじゃん。なんでこんなにもてんのに、彼女の一人もいないわけ?」
 ロビーが腹を抱えて、笑いながら言う。

「そうですよ、たいちょー。なんで結婚しないんですかぁ?」

「いや、隊長は結婚しないでください。この独身騎士の会の会長なんですから。我々の希望です」

「やっぱ、お前の部下、サイコーだわ」
 とロビーは言いつつも、もしかしてマーティンが女性と縁が無いのは、こいつらのせいなのではないのか、とさえも思えてきた。

「あ、ロビー隊長。約束、忘れないでくださいよ」

「約束? なんの?」

「我々に、誰か紹介してくださいよ。本当にこの仕事してから、出会いがありません。社交界とか、そんな場合じゃないですもん」
 右腕を目の前にかざして泣き真似をするアムラン。

「君たちさー。マーティンには結婚するなとか言っといて、自分たちはちゃっかり結婚しようとか思ってるわけ?」

「それはそれ、これはこれ。隊長は我々の憧れです。孤高の騎士なのです」

 勝手な理想像を押し付けられてしまったマーティン。そんな彼にちょっと同情する。それでもちょっと、ロビーは彼をうらやましいと思う。

 自分の弟になりたいと言ってくれる部下は、自分にはいるだろうか。

 隣に視線をやると、マーティンは何か考え事をしているのか、規則的に豆を食べていた。
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