皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)

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パーティのエスコート(2)

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 その日の夜は珍しく、本当に珍しく、両親と兄が揃って帰宅した。卒業パーティがあるせいだと思われた。ルネが言った通り、卒業パーティは未来の魔導士と騎士の誕生を祝うためのパーティでもある。
 騎士団長の父と、白魔導士団長の母は、間違いなく出席する。むしろ、しなければならない。それの準備も兼ねて帰宅してきたものと思われる。

 夕飯の席で、ミレーヌは口を開いた。
「あの、お兄様。卒業パーティのことで、ご相談があるのですが」

「どうした? エドガーが、ミレーヌからお誘いが無いと嘆いていたが。それに関係することか?」

「いえ、違います。お兄様にエスコートをお願いしたい、という話です」

「ミレーヌ」とそこで口を挟んだのは母親。
「いくら兄のことが好きであっても、そこは婚約者と一緒に出席するものよ」
 やんわりと言う。

「いえ、違います、お母様。お兄様にお願いしたいのは、私の友達のエスコートです」

「そうか、ミレーヌにも友達がいたのか」
 と父親が感心する。
 だから、なぜ友達がいないと思われているのだろうか。

「私だって、友達くらいいます」
 そこでミレーヌは頬を膨らませた。

「友達とは、誰のことだ?」
 マーティンが尋ねる。

「あ、シャノンです。魔導科の」

 ミレーヌが答えると、母親が顔を輝かせた。
「シャノンって、あのシャノン? シャノン・メイビーよね?」

「はい」

「彼女ね。ものすごぉおおく優秀なのよ。ここ、十年に一人の逸材よ。あの第一皇子の婚約者候補に名前はあがったのだけれど、身分がどうのこうのって言って、上が猛反対。私としては、あの第一皇子の相手にはもったいないと思っていたから、ちょうどよかったわ。で、そのシャノンのエスコートにマーティンってことかしら?」
 母親のマシンガントークの中には、ちょっと不敬罪に該当するところが含まれているのではないか、と思ったが、聞かなかったこととする。

「そうです」とミレーヌは頷き。
「お母様。シャノンがいじめられていたこと、ご存知でしたか?」

「まあ、うすうすわね。結局、妬みなのよね。こっちのほうで何か言っても、またその結果がシャノンに戻ってしまうし。どうしたらいいかわからなかったのよね。それは私の立場として情けないと思っている。でも、実力で見返してくれればいい、そう彼女に言うことしかできなかったわ」

「シャノン。屋上から突き落とされたんです」

「え? 初めて聞いたわ」
 母親が驚く。

「ええ、誰にも言っていません。そのとき、シャノンを助けてくれたのがお兄様なのです」
 と、なぜかミレーヌが胸を張る。

「よくやった、マーティン。騎士の鏡だ」
 父親が口を挟んだ。

「シャノンが、お兄様の優しさと包容力に惚れたようです。そこで、できれば卒業パーティでエスコートをお願いしたい、と私に相談してきたわけです」

「マーティン、引き受けなさい。女性にそこまで言わせたのよ。断る理由はありませんよね?」
 母親がものすごい形相で兄に言い寄っている。

 マーティンの耳が少し赤く染まっている。

 そしてさらに。
「今までマーティンの縁談を断ってきた甲斐があったわ」と、恐ろしいことを母親が呟いていたのしっかりとミレーヌは聞いてしまった。
 
 父親はそれが聞こえていたのかいないのか、表情一つ変えなかった。
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