婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
55 / 57
第九章

しおりを挟む
「リューディア。どうかエメレンスと幸せな家庭を築いてくれ」

「ありがとうございます。ですが、わたくしがモーゼフ様と共に過ごした時間は、わたくしにとっても必要な時間であったと思っております」

「リューディア。相変わらず君は優しい」
 だから、私の相手としては相応しくない。というモーゼフの心の呟きは誰にも聞こえない。

 それから五日後。モーゼフの立太子の儀は無事行われ、彼は王太子となった。次期国王として。
 さらにエメレンスとリューディアの婚約も発表される。長年、モーゼフと婚約していた彼女がその弟のエメレンスと婚約したことに、冷たい言葉を投げ掛ける者もいたが、リューディアはもう、そのような言葉を気にしない。隣には、いつも彼女を支え、元気づけようとしてくれた彼がいるから――。

 さて、王立騎士団たちの手によってその身柄を拘束されたフニペロ・メイソン、およびフリート・メイソンからは、次から次へとその悪事が明るみになってきた。フニペロ・メイソンは魔宝石の横領、盗難、偽造、及び悪質な転用の罪、違法魔導具の製造、フリートには禁忌魔法及び違法魔導具の使用、王族への暴行の罪がかけられている。もはやそれは事実であるため、言い逃れはできない。このままいけばフニペロは爵位の剥奪、領地の没収。フリートは良くて修道院行きだろう。

 メイソン侯爵家は、三大魔法公爵家に長年の負い目を感じていた。それは序列が生み出した憎しみからくるもの。さらにコンラット公爵家の娘であるリューディアが、将来の王太子妃、王妃となれば、魔法公爵家とのメイソン侯爵家の間には見えない大きな壁が立ちはだかってしまう。
 また、メイソン侯爵家を盛り立てるために、魔宝石を少しずつ盗んでいたことが疑われ、メイソン侯爵はシャルコの採掘現場の責任者の任を解かれてしまう。その後任としてヘイデンが来たのであれば、メイソン侯爵としては悔しがることしかできない。
 悔しさに溢れたメイソン侯爵家はコンラット公爵家を陥れるために、知恵を働かせるのだが、陥れるための知恵となれば悪事。と、同時に今までと同じように魔宝石も盗み出したい。という結果が、例の崩落事故へとつながる。その結果、現場を離れる魔導士たちが何人もいたことは、メイソン侯爵にとっては幸運としか言いようがなく、それが彼の望んでいたものでもある。現場の管理の目が薄まれば、それだけ魔宝石を盗みやすい。だが、そううまく事は運ばず。それは、それに気付いたヘイデンが現場の管理を厳しくしたからだ。

 今までと同じように魔宝石を盗み出すことができなくなれば、それを当てにしていた計画というものが狂ってしまう。そこでメイソン侯爵が次に目をつけたのがクズ石と呼ばれるものだった。どうせ捨てるだけのあれならば、盗まれても気付かないだろう。
 また現場にいる採掘師であればクズ石置き場にいても怪しまれない。ということで、メイソ公爵は、金の無さそうな採掘師に声をかける。さらに、脅すネタの一本や二本でも準備して彼を揺すれば、言うことを聞いてくれるだろう、と。それで目をつけられたのが可哀そうなことにブルースだった。彼は「この採掘現場を大きくしてやる」「逆らったらお前の両親を魔導具のための人体実験に使うぞ」と煽てられ、脅されて、仕方なくそれを引き受けた。
 魔宝石およびクズ石の盗難は、ヘイデンが思い描いていた内容とほぼ同じ。そして、王都で起こった魔導具の爆発事件へと結びつく。

 さて、メイソン侯爵の娘であるフリートであるが、父親同様、コンラット公爵家を憎んでいた。それはリューディアという娘があのモーゼフの婚約者の地位におさまっているから。いつも眼鏡をかけておどおどとしてパッとしないような娘であるのに、コンラット公爵家の娘という理由で婚約者に選ばれた、と思っていた。それはあながち嘘でもない。
 だからフリートはモーゼフに近づき、彼を魅了して、リューディアとの婚約解消を狙った。結果、モーゼフはリューディアと婚約を解消する。それはフリートが望んだ結果であるが、その後の流れは少々芳しくない。彼にかけたはずの魅了の効果がたまに薄れるのか、モーゼフが正気に戻るときもあった。フリートはそうならないように、自身の魔法と魔導具を併用して、彼を常に魅了されている状態へと導いていたつもりだ。だが、彼女だって四六時中モーゼフと共にいるわけではない。
 もしかしたら、魅了が薄れた時間があったのかもしれない。それが、最後の手際の良さに結びついたのかもしれない。それに関してはモーゼフが何も口にしないため、真相は不明のまま。

 そして息子がそのような状態になっていたことに気付かなかった国王は、自分の不甲斐なさを恥じる。王城は、より一層警備が強化され、悪事を働いた者への罰も厳しくなる。
 だから、最終的にメイソン侯爵とフリートにどのような罰がくだされるのか、今はまだわからない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』

ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、 王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。 しかし彼女に返ってきたのは、 「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。 感情論と神託に振り回され、 これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。 けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。 「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」 冷静に、淡々と、 彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、 やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。 感情で選んだ王太子は静かに失墜し、 理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。 これは、 怒鳴らない、晒さない、断罪しない。 それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。 婚約破棄の先に待っていたのは、 恋愛の勝利ではなく、 「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。 ――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

前世のことも好きな人を想うことも諦めて、母を恋しがる王女の世話係となって、彼女を救いたかっただけなのに運命は皮肉ですね

珠宮さくら
恋愛
新しい試みで創られた世界で、何度も生まれているとは知らず、双子の片割れとして生まれた女性がいた。 自分だけが幸せになろうとした片割れによって、殺されそうになったが、それで死ぬことはなかったが、それによって記憶があやふやになってしまい、記憶が戻ることなく人生を終えたと思ったら、別の世界に転生していた。 伯爵家の長女に生まれ変わったファティマ・ルルーシュは、前世のことを覚えていて、毎年のように弟妹が増えていく中で、あてにできない両親の代わりをしていたが、それで上手くいっていたのも、1つ下の弟のおかげが大きかった。 子供たちの世話すらしないくせにある日、ファティマを養子に出すことに決めたと両親に言われてしまい……。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

処理中です...