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馬車がカタンと揺れて止まる。どうやら目的地についたらしい。アルベティーナはこれからクリスティンとなる。先ほどルドルフから手渡された仮面を顔につけた。
もちろんルドルフはデビッド・ゲイソンだ。ゲイソン商会の会長で、クリスティンの養父。
仮面をつけたルドルフであるが、やはり雰囲気から彼は彼であった。これなら遠目から見てもルドルフであることがわかる。人込みに紛れてわからなくなってしまったらどうしようという不安があったため、ほっと胸を撫でおろした。
それに、仮面で人を区別できるとも言っていた。となれば、仮面をすり替えれば、他の者に成りすますことも可能ではないのだろうか。だから仮面でルドルフを判断することはしないようにしようと思っていた。
「クリスティン。行くぞ」
アルベティーナはルドルフの腕をとり、裏社交界と呼ばれるパーティが開かれている会場へと足を向ける。
「この立派なお屋敷はどちらの?」
「ここは、誰かの所有している屋敷というわけではない。貸し屋敷と呼ばれているものだ。所有者はゲイソン会長だ。地方にいる貴族たちが、王都でちょっとした催しものをしたいときに、この場所を提供する。ようするに、パーティのためにあるような建物だな」
(なるほどね)
アルベティーナは小さく頷いた。ヘドマン伯爵の王都にある別邸も、お茶会程度ができるサロンはあるが、パーティができるような大広間は持ち合わせていない。だが王都にいる間に、と思う者もいるのだろう。そのような人がパーティを開催するには、このように広くて華やかな建物を借りるらしい。
建物の扉の前には、黒服を着て仮面をつけた男たちが四人も立っていた。そこで招待状と仮面の確認をするようだ。ルドルフは慣れた手つきでその招待状を黒服の男に差し出すと、黒服の男たちも恭しく頭を下げた。このようなパーティだ。身分を証明するような物は求められず、選ばれた者たちが手にすることができる招待状とその仮面の確認を行う。
いくら建物の所有者とされているゲイソン会長であっても、それをひけらかすような態度をしてはならない。それが、この裏社交界での暗黙のルールらしい。
黒服の男から招待状と仮面を返された。どうやらルドルフはデビッド・ゲイソンとされ、アルベティーナはその連れと認識されたようだ。扉が開かれ、眩しい世界へと案内される。
バルコニーへと続く螺旋階段は、シャンデリアの光を受けて眩く輝いていた。天井には、天使が飛び立つような絵が何人も描かれている。壁画も半裸の男女が描かれているのが多いのだが、こういった絵があることがこの内装の特徴なのだろう。
楽団たちが音楽を奏でている。と言っても、普通のパーティのように大人数で音を奏でているわけではない。五人程の小編成である。それでもこのような場で演奏をする人がいることに、アルベティーナは驚いていた。だが彼らの身なりを見て、何となく察する。恐らく、お金だ。お金に釣られてここに連れてこられた演奏家たちだ。服に着られているような彼ら。それでも、その音には彼らの尊厳が込められているような感じがした。
「その髪を見せびらかすようにして歩け」
ルドルフが耳元で囁いてくる。彼の目的のためにも、アルベティーナは珍しい髪の色を人前に晒す必要があった。
「もしや、ゲイソン会長では?」
「これはこれは、リトルトン男爵」
一人の男がルドルフに近づいてきて、声をかけてきた。彼はその男をリトルトン男爵と呼んだ。リトルトン男爵は、元々は商人だ。その商才が認められて男爵位を授かったものと、アルベティーナは記憶している。
もちろんルドルフはデビッド・ゲイソンだ。ゲイソン商会の会長で、クリスティンの養父。
仮面をつけたルドルフであるが、やはり雰囲気から彼は彼であった。これなら遠目から見てもルドルフであることがわかる。人込みに紛れてわからなくなってしまったらどうしようという不安があったため、ほっと胸を撫でおろした。
それに、仮面で人を区別できるとも言っていた。となれば、仮面をすり替えれば、他の者に成りすますことも可能ではないのだろうか。だから仮面でルドルフを判断することはしないようにしようと思っていた。
「クリスティン。行くぞ」
アルベティーナはルドルフの腕をとり、裏社交界と呼ばれるパーティが開かれている会場へと足を向ける。
「この立派なお屋敷はどちらの?」
「ここは、誰かの所有している屋敷というわけではない。貸し屋敷と呼ばれているものだ。所有者はゲイソン会長だ。地方にいる貴族たちが、王都でちょっとした催しものをしたいときに、この場所を提供する。ようするに、パーティのためにあるような建物だな」
(なるほどね)
アルベティーナは小さく頷いた。ヘドマン伯爵の王都にある別邸も、お茶会程度ができるサロンはあるが、パーティができるような大広間は持ち合わせていない。だが王都にいる間に、と思う者もいるのだろう。そのような人がパーティを開催するには、このように広くて華やかな建物を借りるらしい。
建物の扉の前には、黒服を着て仮面をつけた男たちが四人も立っていた。そこで招待状と仮面の確認をするようだ。ルドルフは慣れた手つきでその招待状を黒服の男に差し出すと、黒服の男たちも恭しく頭を下げた。このようなパーティだ。身分を証明するような物は求められず、選ばれた者たちが手にすることができる招待状とその仮面の確認を行う。
いくら建物の所有者とされているゲイソン会長であっても、それをひけらかすような態度をしてはならない。それが、この裏社交界での暗黙のルールらしい。
黒服の男から招待状と仮面を返された。どうやらルドルフはデビッド・ゲイソンとされ、アルベティーナはその連れと認識されたようだ。扉が開かれ、眩しい世界へと案内される。
バルコニーへと続く螺旋階段は、シャンデリアの光を受けて眩く輝いていた。天井には、天使が飛び立つような絵が何人も描かれている。壁画も半裸の男女が描かれているのが多いのだが、こういった絵があることがこの内装の特徴なのだろう。
楽団たちが音楽を奏でている。と言っても、普通のパーティのように大人数で音を奏でているわけではない。五人程の小編成である。それでもこのような場で演奏をする人がいることに、アルベティーナは驚いていた。だが彼らの身なりを見て、何となく察する。恐らく、お金だ。お金に釣られてここに連れてこられた演奏家たちだ。服に着られているような彼ら。それでも、その音には彼らの尊厳が込められているような感じがした。
「その髪を見せびらかすようにして歩け」
ルドルフが耳元で囁いてくる。彼の目的のためにも、アルベティーナは珍しい髪の色を人前に晒す必要があった。
「もしや、ゲイソン会長では?」
「これはこれは、リトルトン男爵」
一人の男がルドルフに近づいてきて、声をかけてきた。彼はその男をリトルトン男爵と呼んだ。リトルトン男爵は、元々は商人だ。その商才が認められて男爵位を授かったものと、アルベティーナは記憶している。
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