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アルベティーナとルドルフは並んで歩き、先ほどの隠し通路へと入った。二人の足音だけが不規則に響く廊下。これからのことを考えると、アルベティーナにも緊張というものが生まれるわけだが、それを表面に表してはならないとも思っている。
隠し通路を抜け裏口を開け、外へ出る。目の前には、家紋を隠したきらびやかな馬車が準備されていた。ルドルフは慣れた手つきでアルベティーナをエスコートする。さすが、あの王太子の従兄弟であり次期トルスタヤ公爵である。こういった扱いも慣れているのだろう。
アルベティーナはルドルフに促され、彼の隣に座ることになった。
「デビッド・ゲイソンがクリスティンを養子にしたのには、もちろん理由がある」
馬車がゆっくりと動き出し、ルドルフは足を投げ出して腕を組んでいた。彼の隣に座ったアルベティーナはドレスが着崩れしないように気を使いながら、ルドルフの話に耳を傾けていた。
「デビッドが目をつけたのは、クリスティンのその髪の色だ。銀白色というその色は、この国では非常に珍しい。マルグレット国の前王がそのような色であったと言われている。つまり、クリスティンは亡き前王の隠し子ではないか、と思わせるのが狙いだ。元々、あそこでは珍しい髪色や瞳の女性が狙われているからな」
「クリスティンが前王の隠し子だったとしたら、どんなメリットがあるのですか? 今回は、裏社交界で取引されている人身売買のための潜入調査ではないのですか?」
「せっかくだから、マルグレットの前王派をあぶり出す。クリスティンが前王の隠し子だと思った奴は、お前に接触してくるはずだ。お前をマルグレットの女王とし、王配を狙おうとしている奴がいてもおかしくはないだろう? むしろ前王派はそれを狙っているのではないか? だからこそ、裏社交界の人物はマルグレットの前王派と繋がっていると考えている」
なるほど、とアルベティーナは頷いた。マルグレット国の前王派が、裏社交界でグルブランソンの珍しい髪の色の女性を選び、商品として扱っているのだろう。と、同時にその事実に吐き気さえ覚える。
「承知しました」
「そのためのその髪の色だ。綺麗に染められたようで良かったよ。これならあそこにいる男たちも騙されるだろうな」
ルドルフはくくっと喉の奥で楽しそうに笑った。
だが、アルベティーナとしては、その髪の色に複雑な気持ちを寄せていた。それは、染め粉で染めろと言われたこの銀白色の方が彼女の地毛だからだ。それが珍しい色で、あのマルグレット国の前国王と同じ色と言われたら――。
隣に座るルドルフに気付かれないように、微かに息を飲んだ。だが、そんな些細な変化でさえ、彼に気付かれてしまったようだ。さすが、団長の地位に就いているだけのことはある。人間観察に優れているのだろう。
「どうかしたのか? 緊張でもしているのか?」
ルドルフは、ふっと鼻で笑っていた。
「いえ」
「護衛用の短剣は持ってきたか? さすがに長剣を持ち歩くことはできないからな」
「はい。左足にレッグホルスターをつけております。ですから、あまりタイトなドレスでなくて良かったと思っております。外からわかってしまいますからね」
「だが、このように触られたら、すぐに知られてしまうな」
ルドルフの手が伸びてきて、アルベティーナの左太ももに触れた。カチャと金属音が鳴る。
「触れられそうになったら、すぐに逃げろよ」
やはりドレスの上から触れたら相手に何かがあると知られてしまうことを、ルドルフは懸念しているのだろう。
「はい」
アルベティーナは小さく頷いた。
隠し通路を抜け裏口を開け、外へ出る。目の前には、家紋を隠したきらびやかな馬車が準備されていた。ルドルフは慣れた手つきでアルベティーナをエスコートする。さすが、あの王太子の従兄弟であり次期トルスタヤ公爵である。こういった扱いも慣れているのだろう。
アルベティーナはルドルフに促され、彼の隣に座ることになった。
「デビッド・ゲイソンがクリスティンを養子にしたのには、もちろん理由がある」
馬車がゆっくりと動き出し、ルドルフは足を投げ出して腕を組んでいた。彼の隣に座ったアルベティーナはドレスが着崩れしないように気を使いながら、ルドルフの話に耳を傾けていた。
「デビッドが目をつけたのは、クリスティンのその髪の色だ。銀白色というその色は、この国では非常に珍しい。マルグレット国の前王がそのような色であったと言われている。つまり、クリスティンは亡き前王の隠し子ではないか、と思わせるのが狙いだ。元々、あそこでは珍しい髪色や瞳の女性が狙われているからな」
「クリスティンが前王の隠し子だったとしたら、どんなメリットがあるのですか? 今回は、裏社交界で取引されている人身売買のための潜入調査ではないのですか?」
「せっかくだから、マルグレットの前王派をあぶり出す。クリスティンが前王の隠し子だと思った奴は、お前に接触してくるはずだ。お前をマルグレットの女王とし、王配を狙おうとしている奴がいてもおかしくはないだろう? むしろ前王派はそれを狙っているのではないか? だからこそ、裏社交界の人物はマルグレットの前王派と繋がっていると考えている」
なるほど、とアルベティーナは頷いた。マルグレット国の前王派が、裏社交界でグルブランソンの珍しい髪の色の女性を選び、商品として扱っているのだろう。と、同時にその事実に吐き気さえ覚える。
「承知しました」
「そのためのその髪の色だ。綺麗に染められたようで良かったよ。これならあそこにいる男たちも騙されるだろうな」
ルドルフはくくっと喉の奥で楽しそうに笑った。
だが、アルベティーナとしては、その髪の色に複雑な気持ちを寄せていた。それは、染め粉で染めろと言われたこの銀白色の方が彼女の地毛だからだ。それが珍しい色で、あのマルグレット国の前国王と同じ色と言われたら――。
隣に座るルドルフに気付かれないように、微かに息を飲んだ。だが、そんな些細な変化でさえ、彼に気付かれてしまったようだ。さすが、団長の地位に就いているだけのことはある。人間観察に優れているのだろう。
「どうかしたのか? 緊張でもしているのか?」
ルドルフは、ふっと鼻で笑っていた。
「いえ」
「護衛用の短剣は持ってきたか? さすがに長剣を持ち歩くことはできないからな」
「はい。左足にレッグホルスターをつけております。ですから、あまりタイトなドレスでなくて良かったと思っております。外からわかってしまいますからね」
「だが、このように触られたら、すぐに知られてしまうな」
ルドルフの手が伸びてきて、アルベティーナの左太ももに触れた。カチャと金属音が鳴る。
「触れられそうになったら、すぐに逃げろよ」
やはりドレスの上から触れたら相手に何かがあると知られてしまうことを、ルドルフは懸念しているのだろう。
「はい」
アルベティーナは小さく頷いた。
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