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 シーグルードと並んで歩いていると、彼の護衛が付かず離れずの距離でついてきていることに気付いた。
「シーグルード様? 今日は、エルッキお兄さまではないのですか?」
「ああ、私の護衛のことか。彼はミラン・グラン。今日は彼が担当だ」
 アルベティーナは突然、立ち止まる。シーグルードがわざとエルッキを外したようにも思えたからだ。彼を掴んでいる腕にも、ぐっと力がこもる。
「後で説明をする」
 先ほどからシーグルードはそうやって誤魔化している。今は言えない、後で説明をする。だからこの後、彼に問い詰めようとアルベティーナは思っていた。
 彼女が案内されたのはサロンだった。薄い橙色を主体とした明るい色調で、心も華やぐようは部屋である。そこにある二人掛けのソファに、国王と王妃が並んでゆったりと座ってくつろいでいた。
「父上、母上。お待たせしていまい、申し訳ありません」
 シーグルードが頭を下げたため、アルベティーナも釣られて下げた。
「早速ですが。私はアルベティーナ・ヘドマンを婚約者に望みます。先ほど、彼女に求婚しました」
 あれが求婚であったのか、と密かに思っているアルベティーナであるが、彼の想いは痛いほどに伝わっていた。
「あらあら、気が早いのね、ルディ。きちんと彼女を私たちに紹介しなくてはダメじゃないの」
 くすくすと笑んでいるのは王妃だ。国王はむっつりと顔をしかめている。
 アルベティーナはシーグルードから促されて挨拶をした。この二人に挨拶をするのはデビュタント以来である。
「そんなにかしこまらなくても良いのよ」
 王妃は陽だまりのように笑っている。
「アルベティーナ嬢、どうせルディが暴走したのだろう。迷惑をかけて申し訳ない」
 国王が難しい表情をしていたのは、息子のことが原因だったようだ。
「不肖の息子が、長年結婚も婚約もせず、周囲からは男色の気まで疑われ。苦肉の策でそれらしい令嬢から選んでもらおうと思ったのだが。こやつが選ぶまでもないと言い出してな。他の二人には断りを入れた」
「他の二人って、デビュタントを終えたばかりの小娘ではないですか」
 シーグルードが反論する。
「お前がほとんど断ってしまったから、残っているのは若い娘たちしかいない」
「だから私は、最初からティナしか認めない言っていたではないですか」
 どうやら父子おやこの口喧嘩が始まってしまったようだ。
 アルベティーナが困っていると、王妃が他の席に移動し、隣に座るようにと促した。
 温かいお茶と甘いお菓子を口元に運びながら、王妃は言葉を紡ぎ出す。
 いつまでたっても結婚相手を選ばないシーグルードに痺れを切らした周りの者たちが、片っ端から見合いの釣書を持ってくるようになった。相手の名前を聞いただけで「却下」するシーグルードに、とうとう国王が強硬手段に出た。大々的に婚約者候補という形で発表し、令嬢たちと会わせれば、シーグルードも全てを断ることは難しいのではないか、と。とにかく、相手の女性に求めることはそれなりの身分とある程度の教養。それ以外はここで教育すればいい。
 だが、その話を聞いたシーグルードは、候補者の一人にアルベティーナを入れるようにと国王に言い返した。彼から特定の女性の名があがったということは、そういうことであるのだが、対外的なこともあり似たような女性を二人選出した。
 デビュタントを終えたばかりの彼女たちは恐れ多いと非常に謙虚であった。それでも婚約者候補として選んだ以上、シーグルードも何度か彼女たちと会い、そして断った。
 さらに最後の一人の候補者であるアルベティーナと会ったのが昨日、という筋書きになっているようだった。
「ごめんなさいね。結局、あなたを巻き込んでしまって」
 王妃が紅茶のカップに手を伸ばす。アルベティーナは驚いて、彼女の顔を見る。
(あれ……。どこか、懐かしい感じがするわ……)
 アルベティーナが王妃と会ったのは、デビュタントのあの時のみ。
「あの……。私、家族と会いたいのですが。難しいでしょうか」
 シーグルードが掛け合ってくれない以上、他の人に助けを求める方が得策と考えていた。
「難しくないわよ。あなたのご両親にもきちんと伝えなければならないものね。どうせ、あのルディのことだから、適当なことを口にしたのでしょう? 昔からそうなのよ。あなたのことになると見境なくなるみたいね」
 そこでくすりと笑みを零す。
「そう、不安になることは無いわ。それに、私もあなたのご両親とはお話をしておきたいし。既に、連絡がいっているはずよ」
 王妃の言葉にアルベティーナはほっと胸を撫でおろした。というのもシーグルードはアルベティーナが家族と会うことを頑なに拒んでいたからだ。
 それでも王妃が隣にいることで、どこか落ち着くことも不思議であった。
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