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「辛い思いをさせて、悪かった」
「いえ。どちらかというと、驚いています。血の繋がった家族はいないと思っていたから……」
アルベティーナは目を伏せる。
「そう思わせてしまったのも、私たちのせいだ」
「ですが、私のことを思ってしてくださったことですよね……」
「寂しい思いをさせた」
耳元でシーグルードが囁く。彼の吐息が、耳に触れる。
「いえ。ヘドマンのお父さまも、お母さまも。エルッキお兄さまもセヴェリお兄さまもいらしたから、寂しいと思ったことはありません」
そこでアルベティーナは顔をあげ、シーグルードに視線を向けた。じっと彼のダークグリーンの瞳を力強く見つめる。アルベティーナはシーグルードのこの瞳が好きだった。ルドルフとして一緒にいたときも、シーグルードとして一緒にいるときも、この瞳だけはかわっていない。
「それが、私にとっては少し悔しいな」
アルベティーナを抱き寄せる手に力が込められたことから、その言葉はシーグルードの本心に違いない。
「もしかして……。私が、こちらに来てからシーグルード様の護衛にミランさんをつけたのは……」
「そう。少しでもミランに君の姿を見せてあげたかった。ミランも君のことはずっと気にかけていた。だが、近づく方法はなかった。私は君の婚約者という立場を利用しているし、エルッキもセヴェリも君の兄だ。だがミランは違う。実の兄であるにも関わらず、君と触れ合う方法がなかった。だから少しでも、と思った」
「ありがとうございます……」
シーグルードの腕に包まれたアルベティーナは心からそう思った。シーグルードはアルベティーナのことだけでなく、彼女の兄であるミランのことも気遣っていたのだ。
「ティナ……」
シーグルードが優しく囁く。
「私は、君のことを心から愛している。もう、手放したくない。あのとき、君を守ることができなかったことを、今でも後悔している。どうか、私の側からいなくならないで欲しい……」
それに応えるかのように、アルベティーナもシーグルードの背に手を回す。
「私も、シーグルード様をお慕いしております。出会い方は……、ちょっと……、騙されましたけど」
アルベティーナが見上げて頬を膨らませると、シーグルードは口元を綻ばせている。
「私は、初めて君と出会った時から、君の虜になったよ」
チュッと、シーグルードが額に唇を寄せた。笑みを浮かべ、アルベティーナは尋ねる。
「シーグルード様は、いつから私のことを?」
「だから。初めて君と出会った時から……」
「それって……、いつですか?」
アルベティーナはヘドマン家に引き取られる前は、ここで暮らしていたとアンヌッカは言っていた。そのときにシーグルードと会っているはずなのだが、何しろ幼過ぎてアルベティーナには記憶がない。
「君が、この世に生を受けたときから」
耳元で囁くと、パクリと耳朶を噛んできた。それには思わずアルベティーナも肩をすくめてしまう。
「シーグルード様……」
「だから、言っただろう? 私は君の虜だと。君に溺れているんだ。君を一目見た時から。ずっと、私の側にいて欲しいと思った。だから、あのとき、君が奪われようとしたときは……」
それ以上の言葉は続かず、シーグルードが唇を噛みしめている。アルベティーナは、シーグルードの傷跡がある場所に触れた。
「シーグルード様が、私を守ろうとしてくださったこと。お母さまから聞きました」
「ティナ……。そんなところを触られたら、私は……」
シーグルードはアルベティーナを抱き上げる。
「正式に婚約をしたんだ。何も問題は無いよな」
「シーグルード様……」
「だから、ルディと。これからは、二人きりのときは、そう呼んで?」
「いえ。どちらかというと、驚いています。血の繋がった家族はいないと思っていたから……」
アルベティーナは目を伏せる。
「そう思わせてしまったのも、私たちのせいだ」
「ですが、私のことを思ってしてくださったことですよね……」
「寂しい思いをさせた」
耳元でシーグルードが囁く。彼の吐息が、耳に触れる。
「いえ。ヘドマンのお父さまも、お母さまも。エルッキお兄さまもセヴェリお兄さまもいらしたから、寂しいと思ったことはありません」
そこでアルベティーナは顔をあげ、シーグルードに視線を向けた。じっと彼のダークグリーンの瞳を力強く見つめる。アルベティーナはシーグルードのこの瞳が好きだった。ルドルフとして一緒にいたときも、シーグルードとして一緒にいるときも、この瞳だけはかわっていない。
「それが、私にとっては少し悔しいな」
アルベティーナを抱き寄せる手に力が込められたことから、その言葉はシーグルードの本心に違いない。
「もしかして……。私が、こちらに来てからシーグルード様の護衛にミランさんをつけたのは……」
「そう。少しでもミランに君の姿を見せてあげたかった。ミランも君のことはずっと気にかけていた。だが、近づく方法はなかった。私は君の婚約者という立場を利用しているし、エルッキもセヴェリも君の兄だ。だがミランは違う。実の兄であるにも関わらず、君と触れ合う方法がなかった。だから少しでも、と思った」
「ありがとうございます……」
シーグルードの腕に包まれたアルベティーナは心からそう思った。シーグルードはアルベティーナのことだけでなく、彼女の兄であるミランのことも気遣っていたのだ。
「ティナ……」
シーグルードが優しく囁く。
「私は、君のことを心から愛している。もう、手放したくない。あのとき、君を守ることができなかったことを、今でも後悔している。どうか、私の側からいなくならないで欲しい……」
それに応えるかのように、アルベティーナもシーグルードの背に手を回す。
「私も、シーグルード様をお慕いしております。出会い方は……、ちょっと……、騙されましたけど」
アルベティーナが見上げて頬を膨らませると、シーグルードは口元を綻ばせている。
「私は、初めて君と出会った時から、君の虜になったよ」
チュッと、シーグルードが額に唇を寄せた。笑みを浮かべ、アルベティーナは尋ねる。
「シーグルード様は、いつから私のことを?」
「だから。初めて君と出会った時から……」
「それって……、いつですか?」
アルベティーナはヘドマン家に引き取られる前は、ここで暮らしていたとアンヌッカは言っていた。そのときにシーグルードと会っているはずなのだが、何しろ幼過ぎてアルベティーナには記憶がない。
「君が、この世に生を受けたときから」
耳元で囁くと、パクリと耳朶を噛んできた。それには思わずアルベティーナも肩をすくめてしまう。
「シーグルード様……」
「だから、言っただろう? 私は君の虜だと。君に溺れているんだ。君を一目見た時から。ずっと、私の側にいて欲しいと思った。だから、あのとき、君が奪われようとしたときは……」
それ以上の言葉は続かず、シーグルードが唇を噛みしめている。アルベティーナは、シーグルードの傷跡がある場所に触れた。
「シーグルード様が、私を守ろうとしてくださったこと。お母さまから聞きました」
「ティナ……。そんなところを触られたら、私は……」
シーグルードはアルベティーナを抱き上げる。
「正式に婚約をしたんだ。何も問題は無いよな」
「シーグルード様……」
「だから、ルディと。これからは、二人きりのときは、そう呼んで?」
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