【R18】苦手な王太子殿下に脅されて(偽装)婚約しただけなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

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第五章(2)

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 シェリルは、クローディアの補佐官としての仕事は減らしてもらっている。その分、ほかの補佐官に迷惑をかけている自覚もある。そういった後ろめたさもあり、彼女たちから何を言われても黙って耐えていた。

 イライアスとの婚約が公になったとたん、彼女たちは手のひらを返したかのように態度を百八十度変えてきた。同じ補佐官という仲間意識があったのに、今ではイライアスの婚約者の座を奪い取った卑しい女狐とまで言われている。シェリルの狐のような鋭い目つきも、そう言われる要因の一つ。

 たいてい、嫌がらせというものは、ほかの者の目が届かないように陰湿に行われるものだ。彼女たちは、クローディアが席を外しているときに、ネチネチと嫌がらせをしてくるようになった。

 だから補佐官をやめるか、婚約者をやめるかと考えるくらい、シェリルは追い詰められていたのも事実。

「……ねぇ、シェリル」

 クローディアに名を呼ばれ、はっと顔をあげる。

 ほかの補佐官は、仲良く休憩中だ。彼女たちはよく二人連れだっている。
 昔から仲の良かった二人だが、シェリルがイライアスと婚約してから、より結束は強まったようにも見えた。

「あなた、本当にお兄様のことが好きなの?」

 いきなりクローディアにそのようなことを聞かれ、シェリルは少しだけ身体を震わせた。それを気づかれぬよう、ゆっくりと口を開く。

「突然、どうされたのです?」
「いえ。最近のあなたたちの様子が、どことなくよそよそしいように見えたから。お兄様とはうまくいっているの?」

 そう言われると、イライアスに婚約を解消してほしいと告げた三日前から、彼はシェリルの部屋へこなくなった。隣の部屋だというのに、顔を合わせていない。

「うまくいっているかどうか、よくわかりません……」

 そもそも何を基準にそう言うのだろうか。

「わたくしの勘違いでなければいいのだけれども。シェリル、あなた……お兄様から脅されたわけではないわよね?」

 あまりにも鋭い指摘に、おもわず身体がピクリと跳ねた。

「お、脅されている……わけでは、ありません」
「そう? では、お兄様のことが好きなの? わたくしとしては、シェリルが義理の姉になるのは大歓迎よ。だけど、シェリルがお兄様のことを好きでもないのに、添い遂げようとするのであれば、それは全力で阻止したいの。あなたにも幸せになってもらいたいのよ」

 クローディアは深く息を吐いた。その眼差しを見れば、彼女がどれだけシェリルのことを思っているのかが伝わってくる。

「わたくし、マクシム様との縁談を前向きにすすめようと思っているの。近々、婚約を発表するわ。結婚は、お兄様たちの件があるから、もっと日をおいてからになると思うけれど」
「そうなのですか? おめでとうございます」

 クローディアが結婚に前向きになってくれたのは、シェリルとしても嬉しいことだ。

「だからシェリル。あなた、わたくしと一緒にワルリス公爵領に行かない? もし、シェリルがお兄様との結婚を望んでいないのなら、わたくしと一緒に公爵領に来てちょうだい。あなたほど、信頼のできる人物はいないのよ」
「それは……」

 婚家へ侍女を連れていくのも珍しい話ではない。

 補佐官は政務や公務を補佐するのが仕事であるが、侍女となればクローディアの生活における身の周りの世話や話し相手をする。今だってクローディアには専属の侍女がついているものの、婚家へ連れていくかどうかは決まっていないのだろう。
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