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第五章(3)
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「あなた、このままここにいていいの? 嫌がらせをされているのを、わたくしは知っているわ」
ずばりと言い当てられ、シェリルは身体を小さくする。
彼女たちから嫌がらせを受けている事実を、クローディアに知られていたというのが恥ずかしい。
何も言えずに身体を丸めていると、クローディアがたたみかけてくる。
「あの人たちも、すごいわよね。仮にも王太子の婚約者よ? 知られたら自分たちが罰せられるとは思っていないのかしら?」
シェリルが誰にも言わないとわかっているからだ。
学生時代から、ネチネチと嫌がらせを続けてきた彼女たち。シェリルさえ言わなければ他の人に知られることはないと、そう思っているし、シェリルも自分さえ我慢すればいいと、そう思っていた。
「それに、シェリルもシェリルよ。なぜ、嫌だって言わないの? あなたの今の立場なら、それが許されるでしょう?」
そう言われても、性格というものはすぐに変わるものでもない。今まで言えなかった言葉が、今だから言えるというものでもない。言おうとしても、身体が強張り言葉が出てこない。
だが、クローディアが言うことは正論である。
すっと息を吸って、気持ちを落ち着けてから口を開いた。
「あの人たちは、わたしがイライアス様と婚約したのを面白くないと思っているだけなのです。ですから、放っておけばよいと思っておりましたので……」
気にする必要はない。無視すればいい。ずっと自分に言い聞かせてきた。嫌がらせなんて、いっときのこと。
「そう? お兄様と婚約する前から、ちらほらと話は聞こえていましたけどね」
シェリルはピクリと身体を震わせた。
クローディアは、シェリルが受けていた仕打ちを知っているのだ。クローディアの耳にまで届いていたのであれば、よほどのことだったのだろう。
シェリルとしては、耐えられる嫌がらせであったため、気にはしていなかったのだが。
「でも、それはきっと、わたくしのせいなのでしょうね。わたくしが、あなたに目をかけたから……」
そこでクローディアは苦しそうに視線を下に向けた。
「違います。クローディア様のせいではありません。わたしがうまく対処できないからです」
シェリルが慌てて言った。
「だけど、根本的な原因を作ったのはわたくしよね。あなたを補佐官に抜擢したのはわたくし。それに、ほかの二人よりも頼りにしていたから……自然と態度に出ていたのかもしれないわ……本来であれば、平等に接すべきところなのに」
クローディアにそう思わせている事実に、シェリルは胸が痛んだ。すべてはシェリルにたいするやっかみによるもの。つまり、シェリルに原因がある。
イライアスとの婚約者という立場を狙っていた彼女たちからすれば、シェリルは邪魔者だった。学園時代の成績も常にイライアスの次だった。そしてそのイライアスが、誰よりも気にかけ声をかけている女性。
シェリルさえいなければ、そこに自分が立てると思っている者も多かっただろう。だから彼女たちはシェリルを排除したかった。
だというのに、学園卒業後は補佐官としてクローディアの側にいるし、挙句、今となってはイライアスの婚約者だ。
自分が相手の立場で考えてみたら、悔しさとか腹立たしさもわかるような気がする。
「お兄様は知っているの? あなたがされている仕打ちを」
「イライアス様には言わないでください」
つい口調が強くなってしまった。それだけ彼には知られたくなかった。
シェリルが学生時代から一人でいたのはイライアスが原因だ。彼がシェリルに目をかけていたから。だからキャサリンをはじめとする彼女たちから見たら、どうしてもそれが面白くない。
シェリルさえいなかったら、自分がイライアスの相手として望まれたかもしれない。そういった願望があるのだろう。
「シェリル。今日限りで、わたくしの補佐官はクビよ。ここにも来なくていいわ。あなたが誰かに虐げられている姿など、見たくないもの」
クローディアの優しさは、それ以上に残酷だった。
ずばりと言い当てられ、シェリルは身体を小さくする。
彼女たちから嫌がらせを受けている事実を、クローディアに知られていたというのが恥ずかしい。
何も言えずに身体を丸めていると、クローディアがたたみかけてくる。
「あの人たちも、すごいわよね。仮にも王太子の婚約者よ? 知られたら自分たちが罰せられるとは思っていないのかしら?」
シェリルが誰にも言わないとわかっているからだ。
学生時代から、ネチネチと嫌がらせを続けてきた彼女たち。シェリルさえ言わなければ他の人に知られることはないと、そう思っているし、シェリルも自分さえ我慢すればいいと、そう思っていた。
「それに、シェリルもシェリルよ。なぜ、嫌だって言わないの? あなたの今の立場なら、それが許されるでしょう?」
そう言われても、性格というものはすぐに変わるものでもない。今まで言えなかった言葉が、今だから言えるというものでもない。言おうとしても、身体が強張り言葉が出てこない。
だが、クローディアが言うことは正論である。
すっと息を吸って、気持ちを落ち着けてから口を開いた。
「あの人たちは、わたしがイライアス様と婚約したのを面白くないと思っているだけなのです。ですから、放っておけばよいと思っておりましたので……」
気にする必要はない。無視すればいい。ずっと自分に言い聞かせてきた。嫌がらせなんて、いっときのこと。
「そう? お兄様と婚約する前から、ちらほらと話は聞こえていましたけどね」
シェリルはピクリと身体を震わせた。
クローディアは、シェリルが受けていた仕打ちを知っているのだ。クローディアの耳にまで届いていたのであれば、よほどのことだったのだろう。
シェリルとしては、耐えられる嫌がらせであったため、気にはしていなかったのだが。
「でも、それはきっと、わたくしのせいなのでしょうね。わたくしが、あなたに目をかけたから……」
そこでクローディアは苦しそうに視線を下に向けた。
「違います。クローディア様のせいではありません。わたしがうまく対処できないからです」
シェリルが慌てて言った。
「だけど、根本的な原因を作ったのはわたくしよね。あなたを補佐官に抜擢したのはわたくし。それに、ほかの二人よりも頼りにしていたから……自然と態度に出ていたのかもしれないわ……本来であれば、平等に接すべきところなのに」
クローディアにそう思わせている事実に、シェリルは胸が痛んだ。すべてはシェリルにたいするやっかみによるもの。つまり、シェリルに原因がある。
イライアスとの婚約者という立場を狙っていた彼女たちからすれば、シェリルは邪魔者だった。学園時代の成績も常にイライアスの次だった。そしてそのイライアスが、誰よりも気にかけ声をかけている女性。
シェリルさえいなければ、そこに自分が立てると思っている者も多かっただろう。だから彼女たちはシェリルを排除したかった。
だというのに、学園卒業後は補佐官としてクローディアの側にいるし、挙句、今となってはイライアスの婚約者だ。
自分が相手の立場で考えてみたら、悔しさとか腹立たしさもわかるような気がする。
「お兄様は知っているの? あなたがされている仕打ちを」
「イライアス様には言わないでください」
つい口調が強くなってしまった。それだけ彼には知られたくなかった。
シェリルが学生時代から一人でいたのはイライアスが原因だ。彼がシェリルに目をかけていたから。だからキャサリンをはじめとする彼女たちから見たら、どうしてもそれが面白くない。
シェリルさえいなかったら、自分がイライアスの相手として望まれたかもしれない。そういった願望があるのだろう。
「シェリル。今日限りで、わたくしの補佐官はクビよ。ここにも来なくていいわ。あなたが誰かに虐げられている姿など、見たくないもの」
クローディアの優しさは、それ以上に残酷だった。
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