【R18】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
74 / 88

第七章(9)

しおりを挟む
* * *

 ラウルは久しぶりに王城に呼び出された。はっきりいって気が重い。できることなら逃げようと思ったくらいだが、それは相手にも読まれていた。

「迎えにきた。そうしなければ君はすぐに逃げるだろう?」

 それは、執務室でヤゴル遺跡の調査における会計処理をまとめていたとき。ノック音とともに姿を現したのはイアンだった。

「相変わらず、俺のことをよくわかっている」
「それは、私のことを言っているのか? それとも陛下か?」
「どっちもどっちだ、宰相補佐官殿。おまえに来られたら、俺は逃げられない」
「だから、陛下もわざわざ私を使ったのだろう? ほら、立て。さっさと行くぞ」

 イアンは駄々をこねかけたラウルの首根っこを捕まえる。

「今まで放っておいたくせに、なんで急に呼び出すんだ?」

 渋々と立ち上がったラウルは、不機嫌そうに尋ねた。

「結婚を考えている女性がいるんじゃないのか? ものすご~く噂になっている」
「義父……伯爵には伝えてあるが……」
「そこから陛下の耳に入ったんだよ。あの人が浮かれて、言ったらしい。まぁ、君たちの仲のよさは……誰もが認めているが、やはり結婚となればまた別の話だろう?」

 我が子のようにラウルを育ててくれた義父だ。呪いが解けたらすぐにリネットに結婚を申し込めるようにと、義父に根回ししたのが間違いだったのかもしれない。

「俺のことなんて、放っておいてくれればいいのに……」
「そうもいかないんだろう? 陛下は陛下なりに君のことを気にかけている」

 さすがに人の目がある場所を、イアンに引きずられて歩くのは嫌だったので、渋々と彼の後ろをついていくことにした。

 ラウルが連れていかれた先は、王城内の応接室だ。謁見室とは異なり、国王が近しい者と話をするときに使う部屋でもある。

 豪奢なシャンデリアが天井からぶら下がり、天井には幾何学的な模様が描かれている。ラウルがもっとも苦手とする内装だ。壁紙にも金銀糸で蔦のような模様が描かれていて、落ち着かない。

 しかも頼みの綱のイアンは、ラウルを部屋に連れてきただけで役目を終えたとでも言うように、そそくさと部屋を出ていった。

(裏切り者め)

 心の中で叫んでみても、もちろんイアンへ届くわけがない。

「久しいな」

 穏やかな声色で話しかけられ、ラウルも腹をくくった。

「ご無沙汰しております」
「楽にしなさい」

 国王はテーブルを挟んで向かい側のソファに座るようにと言った。

「はぁ……」

 気の抜けた返事をするラウルだが、なぜ今さら国王が呼び出したのかと、それだけが疑問だった。いくら結婚の話が出ていようが、彼には関係ないだろうと思っている。

 侍従がやってきて、二人の前にお茶やお菓子を並べれば部屋を出ていく。だからといって、国王とラウルの二人きりではない。部屋のすみには第一騎士団が控えているから、ラウルが剣を抜けばすぐに彼らが取り押さえるだろう。

 国王はそろそろ五十歳になると記憶している。ラウルより二十歳も年上なのだ。

「結婚を考えている女性がいると聞いた」
「そうですね」
「相手は魔法師だと? まぁ、公共の場で仲睦まじいという話は、私の耳にも届いていたが……」

 リネットは、出会ったときから世話の焼ける女性だった。寝ない、食べない、動かないと不健康まっしぐらの生活を送っていたのだ。

「ブリタが言うには平民らしいな」
「そうですね」
「私がそなたの相手に、平民を認めると思うか?」

 そこで国王はすごみを効かせてくる。まるで、ラウルの結婚を認めないとでも言うかのように。

「あなたには関係ありません。義父さえ認めてくれれば……」
「なるほど。では、伯爵には認めないようにと、私が言えばいいだけだ」
「俺の……いったい何が気に食わないのですか? 存在そのものですか? だったらあのとき、殺しておけばいいものを」

 国王はラウルと同じ青い目を細くし、ふんと鼻で笑う。

「気に食わないのは帝国だ。そなたの想い人は帝国から逃げてきたのだろう?」
「あなたは、彼女をどこまで知っているんですか!」
「ふん。私はこの国の王だ。自国民の……まして魔法師であれば、すべてを知っている。スサのこともな」

 間違いなく国王はリネットのことを知っている。彼女の境遇までも。

「ラウルよ。この国の魔法師は、今は自国民しか認めていない。他国の者をこの国の魔法師とすることはできない。その理由はわかるか?」
「いえ」

 ラウルは即答した。

「少しは考える振りぐらいしなさい。まぁ、いい。この国の魔法師を他国に引き抜かれないようにするためだ。特に、帝国にな」

 なるほど、と心の中で納得する。国王が言うように、例えばキサレータ帝国の者がセーナス王国の魔法師になったとしても、そのまま帝国に帰られたら、魔法師の知識や技術をごっそりと持っていかれる。それを防ぐための制度だと、国王は言っているのだ。

「彼女をスサの王女に戻すなら、そなたとの結婚を認めよう」

 だがリネットの話を聞いているかぎりでは、彼女はスサ小国に戻りたいとは思っていないようだ。むしろ、この国で魔法師として骨を埋める覚悟でいる。

 そんな彼女に、結婚したいから王女に戻ってくれと言えるだろうか。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。 いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。 しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。 だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。 不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。 差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、 彼女は“自分のための人生”を選び初める。 これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...