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第八章(3)
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最近、ラウルが忙しそうに見えるのは、キサレータ帝国からアルヴィスが来るからだ。ヤゴル地区の盗難事件に帝国が関わっていたため、謝罪のためにわざわざセーナス王国にやってくる。だが、関係者は誰もが裏があると感じているらしい。
それゆえ、警備に気が抜けない。
第七騎士団は、王都内の警備に当たるため、団長を務めるラウルが忙しくなるのは自然な流れだろう。それでも自室に戻ってくるのが、以前よりもぐっと遅くなるような日が続けば、リネットだって心配になる。
しかし毎日の「おはようのキス」はかかせない。寝るときにはいなかったラウルが、朝、起きたときには隣で寝ている。そしてキスをして散歩するといういつもの流れは変わらない。疲れているなら散歩などせずに寝てればいいのにと思うが、ラウルにとって散歩は欠かせないらしい。それから一緒に朝食をとり、彼はすぐに部屋を出ていく。
以前は三食ともにラウルと一緒に食べていたのに、今は朝の一食のみ。となれば、リネットの食事はまたおろそかになっていく。
「なんか、リネット。不細工な顔をしてる」
そのまま魔法院の研究室に足を運べば、エドガーと嫌でも顔を合わせる。その彼の第一声がそれだった。
「エドガー。不細工ではなく、不機嫌な顔っていうのよ」
女性魔法師がフォローに入るが、リネットとしてはそのような顔をしていたつもりはない。
「あぁ。愛しの団長さんが忙しいからか」
するとリネットはムッとする。
「あ、また不細工になった」
エドガーはケラケラと笑うものの、リネットとしては面白くない。その原因がエドガーに茶化されたからなのか、ラウルとの間に距離ができたからなのかはよくわからない。
「明日だっけ? 帝国が来るの。ほんと、いい迷惑だよ」
エドガーが椅子に限界まで寄りかかり、天井を仰ぐようにして言った。
「そうよねぇ? 何も、わざわざこんなことで来なくてもいいのに」
「噂では、魔法師との交流も希望しているらしい」
男性魔法師が真面目な顔で言えば、リネットの顔も強張る。
「え、そうなの?」
他の二人が話を続けるなか、エドガーだけはリネットの様子を確認するかのように声をかける。
「リネット、大丈夫か?」
「あ、うん……多分、ここにいることは知られていないと思うのですが……」
「たまたまだとは思うけど、心配なら師長に相談したほうがいい。団長さんは……当分、忙しいだろうね」
エドガーの言葉に、コクッと頷いたリネットは、今日もラウルの呪いを解くために、ヤゴル地区の歴史やら何やらを調べ始める。
「毎日『おはようのキス』をしないと発情する呪い」は千年近くも前の呪いだと思って調べていたが、ここにきて近代の、しかもセーナス王国、当時のセーナス地区と合併する頃の呪いではないかということに気がついた。検討違いの時代を調べていたから、解呪方法の手がかりが掴めなかったのだ。
それがわかったのも、やはり現地に足を運び、現地の資料に触れたのがきっかけだ。
さらに両片思いのカップルを結びつけるための呪いということを考えれば、必要なものが見え始める。いや、これは呪いというよりは――。
「……ト、リネット!」
名前を呼ばれたが、リネットは手を振って無視する。どうせエドガーだ。ラウルが忙しくなってから、エドガーが昼食に誘ってくれるようになったが、それがどこか面倒くさいと感じていた。
そもそも食堂にまで足を運んで食事をするのが非効率的だ。お腹が空いたら、机の中にある干し芋でもかじっていればいい。ラウルと出会うまではそうやっていたのだから、何も問題ない。
「リネット。おい、リネット!」
「もう、食堂に行きたいなら勝手に行ってください。私は今、いいところなので」
「ダメだ。君はいつもそう言って食事を抜く」
「え? あ、ラウルさん……?」
くくく……という笑い声の主はエドガーだ。だがリネットはエドガーを無視して、ラウルに声をかける。
「お仕事、忙しいのでは?」
「だが、今は昼休憩の時間だ。きちんと食べて休む時間。ほら、食堂に行くぞ」
「はいはい、行ってらっしゃ~い。僕は、時間をずらして後から行くから、お先にどうぞ」
エドガーにとっては他人事。ふらりと手を振って見送ろうとしている。
「エドガー殿もそう言っていることだしな。ほら、食堂に行くぞ。歩けないならおぶってやる。それとも抱っこがいいか?」
「どっちもいりません。自分で歩けますから」
「そう言って、逃げるつもりではないよな?」
「逃げませんって」
リネットは読みかけの資料にしおりを挟み、席を立つ。
振り返り、ギリっとエドガーを睨みつけてから、ラウルの隣に並ぶ。
「はやく、行きましょう」
リネットがラウルの腕を取り、研究室を出た。
「こんな前日に、こんなところに来てよろしいのですか?」
そう尋ねるリネットの口調は、どこか苛立っているようにも聞こえる。
「あぁ、前日だからな。シフトも決まったし、それぞれの持ち場も決まったからな。あとは、当日、自分たちの仕事をきっちりこなすだけだな」
「そうですか」
「エドガー殿から、リネットが昼ご飯を抜いているようだと聞いたからな。せっかく時間も空いたし、だから君を誘いにきた」
またエドガーだ。
そういうところが余計なお世話なのだ。と、心の中で憤ってみるものの、悪い気はしないから、恐らくそれは照れ隠し。
それゆえ、警備に気が抜けない。
第七騎士団は、王都内の警備に当たるため、団長を務めるラウルが忙しくなるのは自然な流れだろう。それでも自室に戻ってくるのが、以前よりもぐっと遅くなるような日が続けば、リネットだって心配になる。
しかし毎日の「おはようのキス」はかかせない。寝るときにはいなかったラウルが、朝、起きたときには隣で寝ている。そしてキスをして散歩するといういつもの流れは変わらない。疲れているなら散歩などせずに寝てればいいのにと思うが、ラウルにとって散歩は欠かせないらしい。それから一緒に朝食をとり、彼はすぐに部屋を出ていく。
以前は三食ともにラウルと一緒に食べていたのに、今は朝の一食のみ。となれば、リネットの食事はまたおろそかになっていく。
「なんか、リネット。不細工な顔をしてる」
そのまま魔法院の研究室に足を運べば、エドガーと嫌でも顔を合わせる。その彼の第一声がそれだった。
「エドガー。不細工ではなく、不機嫌な顔っていうのよ」
女性魔法師がフォローに入るが、リネットとしてはそのような顔をしていたつもりはない。
「あぁ。愛しの団長さんが忙しいからか」
するとリネットはムッとする。
「あ、また不細工になった」
エドガーはケラケラと笑うものの、リネットとしては面白くない。その原因がエドガーに茶化されたからなのか、ラウルとの間に距離ができたからなのかはよくわからない。
「明日だっけ? 帝国が来るの。ほんと、いい迷惑だよ」
エドガーが椅子に限界まで寄りかかり、天井を仰ぐようにして言った。
「そうよねぇ? 何も、わざわざこんなことで来なくてもいいのに」
「噂では、魔法師との交流も希望しているらしい」
男性魔法師が真面目な顔で言えば、リネットの顔も強張る。
「え、そうなの?」
他の二人が話を続けるなか、エドガーだけはリネットの様子を確認するかのように声をかける。
「リネット、大丈夫か?」
「あ、うん……多分、ここにいることは知られていないと思うのですが……」
「たまたまだとは思うけど、心配なら師長に相談したほうがいい。団長さんは……当分、忙しいだろうね」
エドガーの言葉に、コクッと頷いたリネットは、今日もラウルの呪いを解くために、ヤゴル地区の歴史やら何やらを調べ始める。
「毎日『おはようのキス』をしないと発情する呪い」は千年近くも前の呪いだと思って調べていたが、ここにきて近代の、しかもセーナス王国、当時のセーナス地区と合併する頃の呪いではないかということに気がついた。検討違いの時代を調べていたから、解呪方法の手がかりが掴めなかったのだ。
それがわかったのも、やはり現地に足を運び、現地の資料に触れたのがきっかけだ。
さらに両片思いのカップルを結びつけるための呪いということを考えれば、必要なものが見え始める。いや、これは呪いというよりは――。
「……ト、リネット!」
名前を呼ばれたが、リネットは手を振って無視する。どうせエドガーだ。ラウルが忙しくなってから、エドガーが昼食に誘ってくれるようになったが、それがどこか面倒くさいと感じていた。
そもそも食堂にまで足を運んで食事をするのが非効率的だ。お腹が空いたら、机の中にある干し芋でもかじっていればいい。ラウルと出会うまではそうやっていたのだから、何も問題ない。
「リネット。おい、リネット!」
「もう、食堂に行きたいなら勝手に行ってください。私は今、いいところなので」
「ダメだ。君はいつもそう言って食事を抜く」
「え? あ、ラウルさん……?」
くくく……という笑い声の主はエドガーだ。だがリネットはエドガーを無視して、ラウルに声をかける。
「お仕事、忙しいのでは?」
「だが、今は昼休憩の時間だ。きちんと食べて休む時間。ほら、食堂に行くぞ」
「はいはい、行ってらっしゃ~い。僕は、時間をずらして後から行くから、お先にどうぞ」
エドガーにとっては他人事。ふらりと手を振って見送ろうとしている。
「エドガー殿もそう言っていることだしな。ほら、食堂に行くぞ。歩けないならおぶってやる。それとも抱っこがいいか?」
「どっちもいりません。自分で歩けますから」
「そう言って、逃げるつもりではないよな?」
「逃げませんって」
リネットは読みかけの資料にしおりを挟み、席を立つ。
振り返り、ギリっとエドガーを睨みつけてから、ラウルの隣に並ぶ。
「はやく、行きましょう」
リネットがラウルの腕を取り、研究室を出た。
「こんな前日に、こんなところに来てよろしいのですか?」
そう尋ねるリネットの口調は、どこか苛立っているようにも聞こえる。
「あぁ、前日だからな。シフトも決まったし、それぞれの持ち場も決まったからな。あとは、当日、自分たちの仕事をきっちりこなすだけだな」
「そうですか」
「エドガー殿から、リネットが昼ご飯を抜いているようだと聞いたからな。せっかく時間も空いたし、だから君を誘いにきた」
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